■最近またリスニングの理論を考える機会があったので最近の進展具合をちょっと調べてみたのだが、どうもあまり進展と呼べるほどのものはないようだ。タイトルにListeningが入っている本はたいがいESLやEFL分野のもので、なぜか理論的には「いかがなものか」というのが多い。しかしその中でもMichael Rost (2002) Teaching and Researching Listening (Applied Linguistics in Action series). Harlow: Pearson Educationはちょっと変わっている。関連性理論やChafeの理論、CowanのWorking Memoryモデルなど、様々な理論を取り込もうとしている。いずれも当然リスニングの理論に組み込まれるべきもののはずだが、これまではそういう動きはなかった(と思う)。しかりRostはまだそういう理論を組み込んでモデルを作るところまでは行っていない。
■一方、Townsend, D. J. and Bever, T. G. (2001) Sentence Comprehension: The Integration of Habits and Rules. Cambridge: MIT Press.は、リスニングという言葉は一切出てこないが、文の理解と言うからには当然listening comprehensionを含む。これはsymbolic-computationalアプローチとassociative-connectionistアプローチを統合しようという内容だ。何だか難しそうだが、前者はボトムアップ、後者はトップダウン処理と考えていい。センテンスはこの2つのレベルの情報が理解の過程で統合される自然なレベルであると言う。この説明に使われるのがAnalysis-by-Synthesisモデルという実に懐かしいモデルなのだ。「総合による分析」は最新の認知科学的研究でも活かされ、生き延びているということらしい。これは基本的に正しい方向だと思う。
■Target Vol. 16 No. 2 (2005)にA nonlinear approach to translation (by Victor M. Longa)という論文が載っている。何でも、非線形動学とかカオス理論などを翻訳研究に適用するというらしいのだが、一体何ごとであろうか。興味のある人、読んで見て。
(明日に続く)
私にとり、英語のリスニングはとてつもなく大きな壁で、悩んでいます。ということは、指導にも自信がありません。
先生が、Michael Rost (2002) Teaching and Researching Listeningを評価されていることに啓発されました。これから、真剣に読んで勉強したいと思います。彼には、Temple Unviersity Japanで2度ほど会ったことがあります。UC Berkeleyでも、少し制度的に離れたところにおれれると別の人から聞いたことがあります。2年ほど前、ハワイ大学のGabriel Kasper教授が来日したとき、Rost、Kasper両教授の前で、”You had the honor of being simultaneously interpreted by Professor Mizuno at St. Paul's Unviersity."と私がコメントしたことを思い出しました。
日本通訳学会 会員
平松 進
本文に書いた通り、いい本です。