(以下、Searchinaから転載)
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企業戦略の一環としてのダイバーシティ、女性活躍推進=大和総研
【経済ニュース】 2012/03/08(木) 09:32
経済産業省は3月1日に「ダイバーシティと女性活躍の推進~グロ-バル化時代の人材戦略~」という研究会報告書を公表した(※1)。従来から女性活躍推進というと内閣府や厚生労働省の領域で、女性の権利や労働者の福祉という観点からの政策が多かった。ではなぜ、今経済産業省が「ダイバーシティ」、「女性活躍推進」なのだろうか。筆者自身も委員として参加した今回の研究会では、労働者の立場からではなく、企業経営の立場からのダイバーシティや女性活躍推進について議論を重ねてきた。そして報告書では、ダイバーシティ推進の1つの理由として、グローバル化に対応するために組織としての多様性、つまり、適切な「人材ポートフォリオ」組成の必要性をあげている。更に経営戦略との面からダイバーシティ推進を、「『縮小均衡』から、『価値創造経済』への変革を遂げるために必要な『人材面の構造改革』」と位置づけ、「女性活躍推進」については、ダイバーシティ推進の「イントロダクション」と捉えている。
日本で男女雇用機会均等法が1986年に成立してから25年、その後育児休職制度などさまざまな女性活躍推進にむけた法制度が整備されてきた。しかしこの2月21日に日本生産性本部が公表した女性社員に関する調査結果(※2)によると役員の女性比率は3.4%、部長が1.8%、課長でも6.8%にすぎない。実際、女性社員の中には、教育してもすぐ辞めたり、上昇意欲や、やる気がない社員も少なくなく、その結果役職にふさわしい女性社員が少ないという職場の現状をみれば、納得できる数字なのかもしれない。しかし、均等法から四半世紀もたつのに、課長職ですら1割に満たない現状を見る限り、日本の多くの経営者は女性活躍推進を経営に生かさず、単なる労働コスト上昇要因としてしかとらえてこなかったように見える。
確かに、女性を活用しようとすれば、子育てや家庭のため残業ができない社員や、法定で1~1.5年、企業によっては最長で3年にもわたる育休という長い不稼動期間のある社員を増やすことになる。制度のフル活用を当然の権利として職場の同僚への配慮の無い女性社員の弊害が指摘されるケースもある。高度成長時代の企業戦士―会社の指示に従い深夜残業もこなし、休暇もほとんどとらない、つまり高い稼働率の男性社員―を前提としてきた日本企業の経営者にとっては、こうした稼働率の低い社員が増える労務施策は大きな障害に思えるのが当然かもしれない。
確かに、同一の品質の製品・サービスを大量に生産し販売してきた高度成長時代なら、長時間労働できる男性社員の経営的メリットのほうが大きかったのだろう。しかし長時間労働の弊害も小さくない。会社に長時間拘束されれば必然的に人間関係も仕事中心、考え方も会社の常識に染まっていく。そして自分の健康管理や、家庭生活、趣味や社会活動など市民としての活動に充てる時間は削られていく。そのような長時間労働対応型男性社員は多様な価値観に触れることがほとんどなく、会社や業界の常識内の知識および男性的、同質の価値観や知見に基づいて、硬直的な発想や判断を下しがちになる。
しかし、グローバル化が進展する中で、企業は顧客や世界中のさまざまなステークホルダーのニーズにタイムリーに的確に対応しなければ生き延びられない状況にある。そこで求められる能力は多様な価値観や社会的状況を理解し、適切に状況判断し対応していく柔軟性であろう。そのためには、社員の多様なジェンダー、国籍、言語、年齢、宗教などの特性を考慮した人材ポートフォリオを持つ必要があるが、その人材ポートフォリオ構築の手っ取り早い手段が、女性活躍推進なのである。人口の半分が女性ということは、顧客市場も労働市場も半分が女性である。
今回の報告書では、ダイバーシティ推進の経営効果として、女性の視点・センスを生かしたプロダクトイノベーションとプロセスイノベーション、人材確保の優位性、モティベーション向上などの「職場の効果」をあげている。また、女性活躍度と企業業績、企業価値、労働生産性との正の相関性についての多数の調査結果も紹介している。たとえば、OECD諸国においては男女共同参画度と1時間あたりGDPには有意の正の相関があることが報告されている。
女性活躍推進は、製品開発や、業務において今まで無かった女性の目線から新しいイノベーションを生み出す可能性がある。また女性活躍推進のためには、ワークライフバランスなど働きやすい職場の整備が必要となるが、これが職場の雰囲気や風通しを良くして、モティベーションを向上させる効果も期待される。また報告書では、女性活躍推進のためにトップのコミットメントの重要性にも触れ、今後の重点施策の一つとして女性活躍推進の取組みの情報開示の仕組み構築をあげている。企業経営者は、女性活躍推進の社会的要請を単なるコスト増をもたらす避けたい課題として捉えるのではなく、女性という人財の有効活用は長期的な投資であると認識を変え、その結果日本経済および社会の活性化につなげていただきたい。
(※1)企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会報告書
(※2)公益財団法人 日本生産性本部「第3回『コア人材としての女性社員育成に関する調査』結果概要」
(執筆者:河口真理子 環境・CSR調査部 株式会社大和総研)
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企業戦略の一環としてのダイバーシティ、女性活躍推進=大和総研
【経済ニュース】 2012/03/08(木) 09:32
経済産業省は3月1日に「ダイバーシティと女性活躍の推進~グロ-バル化時代の人材戦略~」という研究会報告書を公表した(※1)。従来から女性活躍推進というと内閣府や厚生労働省の領域で、女性の権利や労働者の福祉という観点からの政策が多かった。ではなぜ、今経済産業省が「ダイバーシティ」、「女性活躍推進」なのだろうか。筆者自身も委員として参加した今回の研究会では、労働者の立場からではなく、企業経営の立場からのダイバーシティや女性活躍推進について議論を重ねてきた。そして報告書では、ダイバーシティ推進の1つの理由として、グローバル化に対応するために組織としての多様性、つまり、適切な「人材ポートフォリオ」組成の必要性をあげている。更に経営戦略との面からダイバーシティ推進を、「『縮小均衡』から、『価値創造経済』への変革を遂げるために必要な『人材面の構造改革』」と位置づけ、「女性活躍推進」については、ダイバーシティ推進の「イントロダクション」と捉えている。
日本で男女雇用機会均等法が1986年に成立してから25年、その後育児休職制度などさまざまな女性活躍推進にむけた法制度が整備されてきた。しかしこの2月21日に日本生産性本部が公表した女性社員に関する調査結果(※2)によると役員の女性比率は3.4%、部長が1.8%、課長でも6.8%にすぎない。実際、女性社員の中には、教育してもすぐ辞めたり、上昇意欲や、やる気がない社員も少なくなく、その結果役職にふさわしい女性社員が少ないという職場の現状をみれば、納得できる数字なのかもしれない。しかし、均等法から四半世紀もたつのに、課長職ですら1割に満たない現状を見る限り、日本の多くの経営者は女性活躍推進を経営に生かさず、単なる労働コスト上昇要因としてしかとらえてこなかったように見える。
確かに、女性を活用しようとすれば、子育てや家庭のため残業ができない社員や、法定で1~1.5年、企業によっては最長で3年にもわたる育休という長い不稼動期間のある社員を増やすことになる。制度のフル活用を当然の権利として職場の同僚への配慮の無い女性社員の弊害が指摘されるケースもある。高度成長時代の企業戦士―会社の指示に従い深夜残業もこなし、休暇もほとんどとらない、つまり高い稼働率の男性社員―を前提としてきた日本企業の経営者にとっては、こうした稼働率の低い社員が増える労務施策は大きな障害に思えるのが当然かもしれない。
確かに、同一の品質の製品・サービスを大量に生産し販売してきた高度成長時代なら、長時間労働できる男性社員の経営的メリットのほうが大きかったのだろう。しかし長時間労働の弊害も小さくない。会社に長時間拘束されれば必然的に人間関係も仕事中心、考え方も会社の常識に染まっていく。そして自分の健康管理や、家庭生活、趣味や社会活動など市民としての活動に充てる時間は削られていく。そのような長時間労働対応型男性社員は多様な価値観に触れることがほとんどなく、会社や業界の常識内の知識および男性的、同質の価値観や知見に基づいて、硬直的な発想や判断を下しがちになる。
しかし、グローバル化が進展する中で、企業は顧客や世界中のさまざまなステークホルダーのニーズにタイムリーに的確に対応しなければ生き延びられない状況にある。そこで求められる能力は多様な価値観や社会的状況を理解し、適切に状況判断し対応していく柔軟性であろう。そのためには、社員の多様なジェンダー、国籍、言語、年齢、宗教などの特性を考慮した人材ポートフォリオを持つ必要があるが、その人材ポートフォリオ構築の手っ取り早い手段が、女性活躍推進なのである。人口の半分が女性ということは、顧客市場も労働市場も半分が女性である。
今回の報告書では、ダイバーシティ推進の経営効果として、女性の視点・センスを生かしたプロダクトイノベーションとプロセスイノベーション、人材確保の優位性、モティベーション向上などの「職場の効果」をあげている。また、女性活躍度と企業業績、企業価値、労働生産性との正の相関性についての多数の調査結果も紹介している。たとえば、OECD諸国においては男女共同参画度と1時間あたりGDPには有意の正の相関があることが報告されている。
女性活躍推進は、製品開発や、業務において今まで無かった女性の目線から新しいイノベーションを生み出す可能性がある。また女性活躍推進のためには、ワークライフバランスなど働きやすい職場の整備が必要となるが、これが職場の雰囲気や風通しを良くして、モティベーションを向上させる効果も期待される。また報告書では、女性活躍推進のためにトップのコミットメントの重要性にも触れ、今後の重点施策の一つとして女性活躍推進の取組みの情報開示の仕組み構築をあげている。企業経営者は、女性活躍推進の社会的要請を単なるコスト増をもたらす避けたい課題として捉えるのではなく、女性という人財の有効活用は長期的な投資であると認識を変え、その結果日本経済および社会の活性化につなげていただきたい。
(※1)企業活力とダイバーシティ推進に関する研究会報告書
(※2)公益財団法人 日本生産性本部「第3回『コア人材としての女性社員育成に関する調査』結果概要」
(執筆者:河口真理子 環境・CSR調査部 株式会社大和総研)
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