(以下、毎日新聞から転載)
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ニュースUP:市営住宅入居に日本語条件=福井支局・幸長由子
<おおさか発・プラスアルファ>
◇対話欠如の「門前払い」
外国人の市営住宅への入居条件として、福井市が隣人とコミュニケーションが取れる程度の日常会話を求める要綱を設け、門前払いしていたことが昨年末明らかになった。窓口で申し込みの受け付け自体を断っていた。福井市はなぜ、グローバル化時代に逆行するような住宅政策を続けているのだろうか。
■ずさんな対応
そもそも福井市は、入居を断った外国人は少なくとも1世帯とし、「名前も住所も国籍も不明で、話していたのも英語ではなかった」と曖昧な説明をした。あまりに粗雑な対応ではないかと思い、私は取材を深めた。すると、この1世帯は昨年5月ごろに訪れた中国人の男女で、中国語が分かる職員が窓口にいなかったため、市の通訳が呼ばれていたことが判明した。
この中国人女性は「市営住宅の(入居)申請をしたい」と市住宅政策課の窓口で伝えた。しかし、職員から言われる。「日本語が話せないとコミュニケーションが取れず、お知らせも読めないから近所に迷惑をかける」
同程度の会話力を持つ友人が既に市営住宅に入居していると訴えたが職員は聞き入れてくれず、「日本語を話せない人が住んでから苦情が出てきた。日本語が話せるようになってから申請してください」と断った。女性は「5、6年前に来日したが仕事が忙しく、日本語を勉強したいけどなかなか機会がない。教えてくれる人もいない」と通訳に語っていたという。
別に、自前で通訳を伴った中国人女性の1世帯が受け付けを拒否され、後で日本語が話せる息子が来日、市に同行し、入居が認められていたことが分かった。
同市の市営住宅入居者は昨年末現在1751世帯。うち外国人は中国人やフィリピン人ら74世帯がいる。市によると、要綱策定の検討は09年4月に始まり、当初案は外国人の入居条件にコミュニケーション能力は入っていなかった。しかし住宅政策課内で「外国人とのトラブルがある。何らかの対策を取れないか」との声が上がり、同年11月、「隣人とのコミュニケーションがとれる程度(日常会話ができる)の日本語が話せる者」を条件に盛り込んだ。当時、同課長だった森川清和・建設部建築事務所長は「トラブル防止のため、できることを考えた結果」としている。
■「トラブル」の実態
要綱の作成時期と並行し、市は外国人と手を携えていく「多文化共生プラン」を全庁で検討していた。市国際室は住宅政策課に「要綱の文案は共生プランの趣旨にそぐわない」と忠告。しかし、昨年4月に制定した要綱は「日本語が話せる者」の部分を抜いただけで、日常会話能力を求める条件は変わっていなかった。
では、外国人入居者が起こした「トラブル」とは何か。住宅政策課は、次の例をあげた。
「2年ほど前、中国人が夜10時ごろから友人たちと宴会を開いてうるさかったことがある」「イスラム教徒とみられる住民の部屋で水漏れがあり、部屋に女性しかいなくて入れなかった」
いずれも通訳や夫を呼んで解決したという。しかし、私が08~10年度の市営住宅のトラブルについて市に情報公開を求めたところ、111件のうち外国人関係はごみの出し方など3件だけだった。
こうした外国人の入居条件は、滋賀県でも02年に問題化したことがある。県営住宅の要領で「日本語を日常会話に支障がない程度に使えること」と定めていた。抗議を受けた県は「国際化が急速に進展し、県内の外国人が増加しているなかで、現状にそぐわない」と判断し、「在留期間1年以上」などの外国人に関する項目も含めて要領から削除した。また、当初は窓口職員のために4カ国(ポルトガル、スペイン、韓国、中国)語の会話マニュアルを作成。現在は4カ国語訳の入居のしおりも用意し、さらにトラブルがあれば説明したい事柄を翻訳して持って行き、通訳も伴うなどの工夫もしている。
■知らせる工夫なく
愛知県の公営住宅に住む外国人の生活状況について調査している同県立大教育福祉学部社会福祉学科の松宮朝准教授(社会学)によると、生活情報を翻訳したり、外国人住民も自治会役員として活動することで、日本人とのトラブルが激減した例があるという。
福井市の市営住宅ではお知らせなどの掲示物は日本語。最近、ごみ集積場に英語、中国語、ポルトガル語を併記した。要綱の施行以前から暮らす中国人女性は「家賃が安いのが魅力」としながらも、「他の国から来た人たちから、何が書いてあるのかと聞かれることがある。読めないからルールが分からない人もいるのではないか」と話すのだった。
市民団体「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(事務局・東京)などが要綱の撤廃を求めたところ、市は2月10日付の文書で「外国人全般を排斥するものではない」としたうえで、「適正管理と外国人市民への居住支援を調和させるための必要な措置」「施策の進捗(しんちょく)やその成果の状況に応じて、今後検討を加えていきたい」と回答。現時点での撤廃を否定した。
日本語で会話ができない外国人を、福井市は窓口で門前払いしてトラブルを回避しようとした。外国人の市民が増えるなか、問われているのはむしろ市のコミュニケーション能力ではないだろうか。私にはそう思えてならない。
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◇福井市営住宅入居事務取扱要綱(10年4月1日制定・施行)=抜粋(外国人)
第8条 申込者が外国人である場合は、次の第1号から第3号のいずれか各号に該当し、かつ第4号に該当する者であることを確認してから受け付けるものとする。
(1)出入国管理及び難民認定法第22条2項の永住許可を受けた者
(2)特別永住者 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法により定められた当該資格を有する者
(3)外国人登録法に基づく登録者で、3年以上日本に居住できると市長が認める者
(4)隣人とのコミュニケーションがとれる程度の日常会話ができる者
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ニュースUP:市営住宅入居に日本語条件=福井支局・幸長由子
<おおさか発・プラスアルファ>
◇対話欠如の「門前払い」
外国人の市営住宅への入居条件として、福井市が隣人とコミュニケーションが取れる程度の日常会話を求める要綱を設け、門前払いしていたことが昨年末明らかになった。窓口で申し込みの受け付け自体を断っていた。福井市はなぜ、グローバル化時代に逆行するような住宅政策を続けているのだろうか。
■ずさんな対応
そもそも福井市は、入居を断った外国人は少なくとも1世帯とし、「名前も住所も国籍も不明で、話していたのも英語ではなかった」と曖昧な説明をした。あまりに粗雑な対応ではないかと思い、私は取材を深めた。すると、この1世帯は昨年5月ごろに訪れた中国人の男女で、中国語が分かる職員が窓口にいなかったため、市の通訳が呼ばれていたことが判明した。
この中国人女性は「市営住宅の(入居)申請をしたい」と市住宅政策課の窓口で伝えた。しかし、職員から言われる。「日本語が話せないとコミュニケーションが取れず、お知らせも読めないから近所に迷惑をかける」
同程度の会話力を持つ友人が既に市営住宅に入居していると訴えたが職員は聞き入れてくれず、「日本語を話せない人が住んでから苦情が出てきた。日本語が話せるようになってから申請してください」と断った。女性は「5、6年前に来日したが仕事が忙しく、日本語を勉強したいけどなかなか機会がない。教えてくれる人もいない」と通訳に語っていたという。
別に、自前で通訳を伴った中国人女性の1世帯が受け付けを拒否され、後で日本語が話せる息子が来日、市に同行し、入居が認められていたことが分かった。
同市の市営住宅入居者は昨年末現在1751世帯。うち外国人は中国人やフィリピン人ら74世帯がいる。市によると、要綱策定の検討は09年4月に始まり、当初案は外国人の入居条件にコミュニケーション能力は入っていなかった。しかし住宅政策課内で「外国人とのトラブルがある。何らかの対策を取れないか」との声が上がり、同年11月、「隣人とのコミュニケーションがとれる程度(日常会話ができる)の日本語が話せる者」を条件に盛り込んだ。当時、同課長だった森川清和・建設部建築事務所長は「トラブル防止のため、できることを考えた結果」としている。
■「トラブル」の実態
要綱の作成時期と並行し、市は外国人と手を携えていく「多文化共生プラン」を全庁で検討していた。市国際室は住宅政策課に「要綱の文案は共生プランの趣旨にそぐわない」と忠告。しかし、昨年4月に制定した要綱は「日本語が話せる者」の部分を抜いただけで、日常会話能力を求める条件は変わっていなかった。
では、外国人入居者が起こした「トラブル」とは何か。住宅政策課は、次の例をあげた。
「2年ほど前、中国人が夜10時ごろから友人たちと宴会を開いてうるさかったことがある」「イスラム教徒とみられる住民の部屋で水漏れがあり、部屋に女性しかいなくて入れなかった」
いずれも通訳や夫を呼んで解決したという。しかし、私が08~10年度の市営住宅のトラブルについて市に情報公開を求めたところ、111件のうち外国人関係はごみの出し方など3件だけだった。
こうした外国人の入居条件は、滋賀県でも02年に問題化したことがある。県営住宅の要領で「日本語を日常会話に支障がない程度に使えること」と定めていた。抗議を受けた県は「国際化が急速に進展し、県内の外国人が増加しているなかで、現状にそぐわない」と判断し、「在留期間1年以上」などの外国人に関する項目も含めて要領から削除した。また、当初は窓口職員のために4カ国(ポルトガル、スペイン、韓国、中国)語の会話マニュアルを作成。現在は4カ国語訳の入居のしおりも用意し、さらにトラブルがあれば説明したい事柄を翻訳して持って行き、通訳も伴うなどの工夫もしている。
■知らせる工夫なく
愛知県の公営住宅に住む外国人の生活状況について調査している同県立大教育福祉学部社会福祉学科の松宮朝准教授(社会学)によると、生活情報を翻訳したり、外国人住民も自治会役員として活動することで、日本人とのトラブルが激減した例があるという。
福井市の市営住宅ではお知らせなどの掲示物は日本語。最近、ごみ集積場に英語、中国語、ポルトガル語を併記した。要綱の施行以前から暮らす中国人女性は「家賃が安いのが魅力」としながらも、「他の国から来た人たちから、何が書いてあるのかと聞かれることがある。読めないからルールが分からない人もいるのではないか」と話すのだった。
市民団体「移住労働者と連帯する全国ネットワーク」(事務局・東京)などが要綱の撤廃を求めたところ、市は2月10日付の文書で「外国人全般を排斥するものではない」としたうえで、「適正管理と外国人市民への居住支援を調和させるための必要な措置」「施策の進捗(しんちょく)やその成果の状況に応じて、今後検討を加えていきたい」と回答。現時点での撤廃を否定した。
日本語で会話ができない外国人を、福井市は窓口で門前払いしてトラブルを回避しようとした。外国人の市民が増えるなか、問われているのはむしろ市のコミュニケーション能力ではないだろうか。私にはそう思えてならない。
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◇福井市営住宅入居事務取扱要綱(10年4月1日制定・施行)=抜粋(外国人)
第8条 申込者が外国人である場合は、次の第1号から第3号のいずれか各号に該当し、かつ第4号に該当する者であることを確認してから受け付けるものとする。
(1)出入国管理及び難民認定法第22条2項の永住許可を受けた者
(2)特別永住者 日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法により定められた当該資格を有する者
(3)外国人登録法に基づく登録者で、3年以上日本に居住できると市長が認める者
(4)隣人とのコミュニケーションがとれる程度の日常会話ができる者