瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩誌「雨期」  79号  (2022/08)  埼玉

2022-10-07 22:24:06 | 「あ行」で始まる詩誌
51頁に9人の詩作品、「建築・構築物」についてのアンケートなどを載せる。
 
「八月」古内美也子。
11行の短い作品だが、夏の感触を的確に捉えている。「ラムネ瓶のむこうに揺らめく/緑の鬱蒼」「油断する八月の吐息」と、何よりも表出されるイメージが美しい。後半部分は、

   要るものと
   要らないものが入れ替わり
   せかいは
   烈しい
   ことばになる

作者にとっての“八月”がどんなものであるかが、きりりと緊張したものとして提示されている。

「ジュンコ」谷合吉重。
短い7つの断章で書き留められたジュンコの人物像である。なかなかに強烈な人物であるようで、青サバをさばくための包丁を持っているだけで禍々しい雰囲気となっている。興味深いのは、話者とジュンコの関係で、「だまれジュンコ/それがどうした」と怒鳴ったりもする。するとジュンコは「すてられたんだよう」とぼやくのである。他者が入り込めない気遣いの関係が保たれているようだ。

   (おかあさん、
    きょうはフラの練習日だよ)
   ナイフの刃先の
   極限の狭小
   隣りあった道を行くのだ

「帽子について」須永紀子。
「唐突に夏が終わ」っていくのだ。脱ぎそびれた麦わら帽子、薄物の上着、それらはもう過ぎていくものだったのだ。暑さが嘘のように退いていって、話者を囲む空気は肌寒くなっていく。個人的には、衣服として欠かすことのできない上着やパンツに比べれば、帽子はプラスアルファで身につけるものといったイメージがある。だから、

   身から離れてしまえば
   ただのくたびれた小物
   頭上にあれば賢さを計り
   愚かさは縁取どれる

最終部分は「わたしをよけて過ぎる/長袖の人びと、初秋の風」。話者だけはまだ麦わら帽子を脱げないでいたのだな。

「短編通信」として須永紀子が小説の紹介コラムの連載を書いている。その小説の要となる部分を的確に紹介してくれるので、未読のものでは興味を惹かれることがよくある。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 詩集「青へ」 菊池唯子 (20... | トップ | 詩集「四時刻々」 本多寿 (... »

コメントを投稿

「あ行」で始まる詩誌」カテゴリの最新記事