瀬崎祐の本棚

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詩集「メイリオ」  木戸多美子  (2013/11)  思潮社

2014-01-03 21:33:06 | 詩集
 94頁に24編を収める。
 「もうない家の窓から」山がよく見えるという「しのぶ山」という作品。「ない家」から見える風景はどこにあるのだろうか。かってはあった家なのだろうが、時の移ろいの中でなくなってしまった家なのだろう。だから、その山も今にはなくて、しのぶしかないのだろう。

   ささやかな風の
   汗を拭い去るよう撫で具合が
   つい さっきのように
   十万年後もここでこうして
   風に吹かれている

 時を超えてしのばなければならないものがあることは、懐かしい豊かさがあると同時に、どこか寂しい。その寂しさが風に吹かれている。
 「蜉蝣」。風に舞っているのであろう「砂粒が顔に痛い/幸福な島で」は化石が燃えているのだ。ビルが揺れるような世界は「どこまでもが砂漠になる」のだが、そんな風景の中で蜉蝣だけがじっとしている。

   砂漠の真ん中で
   狂ったように羽根は止まる
   風紋がことりとつめたく
   静かに伸びている

 ここでも時間が超越されているようなのだが、それ以上にここで超越されているのは風景だ。場所といってもいい。あらゆる場所の属性は失われて、ただ蜉蝣の薄い羽根だけが確かなものとして風にゆれている。
 「字幕(キャプション)」と題された章には情景描写による散文詩が集められている。字幕というよりも文字による映像の紹介といった趣なのだが、透明感のある作品となっていた。

   走る少年は小さくなる 小さな少年を見つめ
   る三十年後の少年バスの屋根によじ登る 車
   輪が溶ける少年が溶ける 無数に埋められた
   ひかりは車輪を砕き 道はらせん状にやわら
   かく尖り回転する青空に吸い込まれる
                      (「道への字幕 ソフトクリーム」より)
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