瀬崎祐の本棚

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詩集「長老の愛した女たちの季節」  安川登紀子  (2013/10)  七月堂

2013-12-30 19:29:15 | 詩集
 第5詩集。121頁に41編が収められている。
 正方形の判型の表紙には、お下げ髪の女子高生が軽いタッチで描かれている。カバーも帯もない装幀は、剥き出しのものを差し出してきている内容によく合っている。作者の年齢は知らないのだが、女の中にはいつまでも少女がいるのだろう。
 そんな女たちを愛する長老だが、作品「長老」では、「あぶなっかしい/古い布でできた部屋」で女たちは「スッポンスッポンと/赤ん坊を産んでいる」のである。

   私もそこにいた
   部屋から降りると
   袋のようなその部屋を下から眺めている
   長老がいる

 優しいようでいて、そのあまりの優しさが残酷なものを差し出してきているように感じられてしまう。私が産んだのは「古めかしい四角い詩集」であり(この詩集か?)、「空ろな目をした/亡くなった父に/渡した」のである。
 「呼び出されて」。高校生だった私は、父に言われて子猫を捨てたのだが、そのときに子猫はスカートの上にうんちをしたのである。その日、私は担任の先生に呼び出されて、「あなたはみんなが笑っているときに/一緒に笑ってはいるけれど/心から笑っていない」と言われる。他人との関係を保つために私の中で葛藤するものは、おそらく多くあったのだろう。先生と話している間中に私が思っていたのは、

   捨ててしまった哀れな子猫の
   ゆくすえではなかった
   作り笑いを咎められ
   途方に暮れていたのではなかった
   制服のスカートから漂う
   子猫の残していったうんちの臭いが
   気になってしかたなかった

 傍目には滑稽に思えるようなこの心理状態が、必死に生きていくときの真の姿なのだろう。そのことが愛おしく思える。
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