瀬崎祐の本棚

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詩誌「へにあすま」  62号  (2022/04)  茨城

2022-05-03 18:49:06 | 詩集
同人は8人。16頁、年2回の発行。

巻頭に故・寺門仁「海へ」が掲載されている。
この作品は1991年発行の「へにあすま」2号に発表されたものとのこと。人間の姿のままで話者は大勢の鯉と一緒に利根川を下っている。この非現実な状況が、この作品が書かれなければならなかった理由につながっていく。話者は「人間世界ではやはりうまく行か」なかったのだ。だから、この状況は必然でもあったわけだ。しかし何千という数の周りの鯉は皆大きいのである。最終部分は、

   動く目や口の大きい凄さに圧倒され、この彼や彼女に何かの弾み
   で強く挟まれたら壊れはしまいかと、真裸の赤ん坊になった覚束
   な執拗な孤独感を抱いたまま、耐久力と海が近いだろうことにも
   不安を抱いたまま下っていった。

おそらく寺門の作品は読むのは初めてなのだが、こんな好い作品を書いた人だったのだと知った。出会いに感謝。

「黄昏町門前通り」高山利三郎。
体質的にアルコールが駄目な人を除けば、多くの人にとって大人になるということはお酒と共にあったのではないだろうか。この作品の話者も、黄昏時の赤ちょうちんの飲み屋でコップ酒を飲み、スナックでウイスキーやジンライムを飲んで大人になってきたのだ。映画「若者たち」は話者が詩を書き始めた頃のものだったのだろう。その主題歌の歌詞が作品の所々に挟み込まれている。(あのドラマや映画で三男役だった山本圭が最近亡くなったという記事も読んだ。)

   人も 店も
   トパーズ色に広がり
   蓋をされた記憶の下を
   今も川は流れる

誰もが共感できる内容の作品。古い一枚の写真がこの作品を書く契機になったようだが、この「蓋をされた記憶の下を」という表現が活きていた。
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