瀬崎祐の本棚

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詩集「囀る、光の粒」 岡田ユアン (2024/08) 思潮社

2024-09-03 17:29:47 | 詩集
第4詩集。92頁に23編を収める。
表紙カバーにはショッキング・ピンク色の細かい点が粒となって切り取られていて、帯も同じピンク色で彩られている。軽やかな高揚感が感じ取れる。

詩集にも、それこそ全体に光が満ちている。たとえば、「降りそそぐ」は「降りそそぐひかりはことばとなって、あらたなふるえをわたしに与える。」と始まる。

   (略)漣は、
   しらずしらずわたしたちを包む、歓びのように、絶えまなくゆらぐ。
   白砂は足裏で、やさしく聞き耳をたて、過ぎ去っていく面影は、
   名前を置いて旅立っていく。もう思い出すこともないのでしょうか。

あふれるような光に満ちている作品なのだが、あまりの明るさに世界はハレーションを起こしてしまいそうなほどだ。その中でまさぐる言葉は明るさのなかでの形を求めている。もしかすればこの明るさはひとときだけのことかも知れないのだが、そのことを感じながらの発語はそれだけに大事なものだ。そのひとときを愛おしんで呼吸をして、肺から拡がる歓びが色を薄める。あなたの名前が持っていた色も薄まっていき、最終行は、「泡沫のわたしたち。泡沫の所以。」

おそらくこのまばゆい光は幼い命から発せられているのではないだろうか。「あなたの両の手のひらが」では、「あなたの両の手のひらが/わたしを求めて 開かれているあいだ/あなたは何を聞くでしょう」「あなたは何を見るでしょう」と呟いている。そこにはあなたが齧った林檎があり、透明な朝の使者がいる。

   聞かせてあげなさい
   開かれた 手の方へ

   流転する星々の賛歌
   なつかしみと共に
   あなたの頬に触れる
   やわらかな手のひら

この驚きに満ちていて、しかも懐かしいものたちがあなたを包む宙、すなわち光となっている。やさしい慈愛に満ちている。
コメント
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