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詩集「夜明けのラビリンス」 成田豊人 (2020/09) 書肆えん

2020-12-29 18:41:39 | 詩集
 第8詩集。93頁に23編を収める。

 どれも、北の地に在るということはこういうことかと思えてくる作品である。話者は冷たく凍りついた道を独りで歩む者である。何のために歩いているのか。どこまで歩けばいいのか。もうそれが定めであるかのように凍りついた道を歩むのである。身も冷たいのだが、微かな希望が見えるのが救いである。

   かすかに
   ずっと奥の暗闇で
   何かの音が溶け始めた気配はある
   花の兆しを夢想するのも罪だろうか
                   (「冬眠」最終部分)

 北の地名を冠した作品では、描かれるその地に話者の生きてきた日々が張り付いている。それは郷愁を感じさせながら、否応なく今の自分との距離を突きつけてくるようだ。「大館市大町界隈・春先」では、五十年位前のことを思い出していると、その頃の高校時代の同級生が現れる。

   追いかけようかと思った刹那
   誰かが後から肩を叩いた
   もう帰れとという言葉と共に

五十年の間に離れたその距離は、望んだものだったのか、それとも不如意なものだったのか。

 Ⅱに置かれたいくつもの作品でも、過去は話者の眼前に甦ってくる。それを反芻して、作者はもう一度生き直そうとしているのだろうか。帯には「時のあわいでいきる場を幻視する著者の硬質の誌群」とあった。言い得て妙だと思った。
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