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にじいろガーデン  小川糸著

2018年06月03日 | 読書雑感
小川糸の小説はこれで4冊目。今回の登場人物は2組の親子。年代が離れた母親同士が、レズビアンの関係で愛し合っている。この2人とそれぞれの子供を併せて計4人が、それぞれの立場で語ることで物語が進んでいくという、中々凝った演出が考えられている。

いつものことながら、小川糸の小説は読んでいるとホッコリとした気持ちに浸れる。登場人物が皆、良い人ばかり。世の中は、こんな純粋で無垢な人間ばかりを集めて純粋培養した世界ではない!とは思いつつも、読み出すと心が温かくなって、独自のワールドに入り込んで幸せな気持ちになってしまっている自分がいる。

エンディングは、悲劇。1人が癌で死に、直後に子供のうちの一人が交通事故でこん睡状態のままでお話が終わる。悲しいエンディングのはずなんだが、残された2人の互いにいたわりあいつつ前向きに生きていこうという気持ちのお陰で、メソメソした気分にならずに、逆にとても微笑ましい気持ちで最後まで読み通せた。

文体は、子供の作文のように文章と文章とが滑らかにつながっておらず、ゴツゴツした肌触りだなぁ、と感じてしまう。これは、生きるのが上手ではない登場人物らしさを醸し出すための計算なのかもしれないが、短い文章が切れ切れに繋がって物語が進んでいくことで、独特な感覚に包まれてしまう、とても不思議な感じがする文体だった。

それでも、今までに読んだ他の小説と同様に、女性らしい感覚が溢れている台詞や、独特な比喩表現があちこちに見られ、これが小川糸を読もうと思わせる動力になっているんだな。

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夕陽が最後の力を絞りだすように、辺りを目いっぱいの明るさで照らしている。
夕方が夜にすり替わるまでのほんの短い黄昏タイムを、草原のベンチに腰掛け味わっていた。
夕陽が「最後の力を搾り出す」とか夕方が夜に「すり替わる」なんて言い方は普通では出てこない。こういった通常では組み合わせない単語を平気で組み合わせることで、描かれる風景がビビッドに頭の中で映像化されるとともに、夢見る少女ちっくなワールドが広がってきて、おじさんは新鮮な感覚に絡めとられることになってしまうだろうな。

実際には十日ぶりでも、まるで地球を一周して戻ってきたかのように、果てしなく長い時間の隔たりを実感する。
私は、その数日間に一生分の涙を流した。
なに、この大袈裟な表現は?? でも、実感が200%伝わって来る大胆な喩えです。女性が口にするから活きてくるのであって、男の、しかもおじさんたちの口から出てくる比喩では決してないよ。女性作家の、しかも若い女性作家ならでは特権だよね。

もし僕の人生を紀元前と紀元後に分けるなら、間違いなくこの日が境目だったと思う
この表現には驚いた。人生のターニングポイントとか転換点、節目とかは良く使われる言葉だけれど、「紀元前・後」に人生の出来事を表現するという自由かつ大胆不敵な発想が素晴らしい。


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