「告発は終わらない ミートホープ事件の真相」 赤羽喜六・軸丸靖子、長崎出版、2010年2月20日
p.10 言ってもどうしようもないのだ。ここはミートホープである。田中の指示には全員黙って従うこと。口を出さないこと。その不文律は、パート従業員でも正社員でも役員でも同じだった。
p.38 やがて社内からアットホームな雰囲気は消え、平行するように田中の従業員に対する締めつけは厳しくなり、蓄財への執念がむき出しになっていった。
p.40 外部の意見を取り入れようとか、能力のある人材を引き立てようといった発想は、田中には口先だけでもなかったようだ。
従業員への還元や社会貢献という概念があったとは考えにくい。
田中が執着したのは、ひたすら金。
p.81 興奮状態で告発電話をかけたのに、電話を切ったあとはむなしさに包まれた。一生懸命に仕事をしているのに会社を裏切られる怒り。自分自身、取引先を裏切っていることへの罪悪感。取締役として百人近い従業員を危険に晒している後ろめたさ。自分が告発という危ない橋を渡っているにも関わらず、行政からなんら反応がないことへの戸惑い。
p.83 内部改革は無理だったんだよ。次善の策は行政の介入なんだ。行政が介入して、指導してくれれば、従業員が職を失うことなく、この会社を正せる。軟着陸させるにはこれしかない。そう思ったから、告発を繰り返したんだよ。
p.85 生殺与奪のすべてを田中が握っているから、何かあっても上司が部下をかばうことはできない。部下が上司に頼ることもない。従って、現場がまとまって何かを考えることも意見を言うこともない。
p.86 気に食わないことがあるとガラリと顔つきが変わったという。他人の言うことは聞かない。特に偽装に関しては、田中は人から意見されることを決して許さなかった。
p.89 僕は自分の人生の限界が見えたときに、大した富が得られなくても、地位も名誉もなくてもいい。でも、自分は精一杯、まっすぐに生きてきたんだということを、二人の子どもたちに誇れる人生を送りたい――と考えるようになった。
p.157 しかも赤羽はカメラを向けても逃げないし、何より、自分には社会的立場があるという自覚があった。
p.196 罪の意味が分からない人間をそのまま断罪して意味があるのか。
経営者が自分の都合のいいように固めて、形骸化した組織で身動きに苦しむ者は少なくない。そのような閉鎖社会を作ってきた一人が、ミートホープの社長、田中稔であった。
ミートホープを再生させたいという組織や従業員に対する思い。商品を口にする消費者への思い。そのために赤羽さんは内部告発に踏み切らざるをえなかった。動かぬ行政を相手に、強硬な手段をとらざるをえなかった。
自身への保身もあったとしているが、組織を、従業員を、消費者を守ろうとしたのは赤羽さんであることには間違いない。葛藤もあれば、自問自答もあるだろうが、それでも誰もが出来なかったことに挑戦し、窮地を救ったのだから、もっと胸を張っていてもらいたいと思う。
赤羽さんの決死の姿に触れ、自分もその真似ごとと言われようと、関係者や顧客を守るために、自らを捨てることなく、まっとうな道を歩みたいと考えている。
p.10 言ってもどうしようもないのだ。ここはミートホープである。田中の指示には全員黙って従うこと。口を出さないこと。その不文律は、パート従業員でも正社員でも役員でも同じだった。
p.38 やがて社内からアットホームな雰囲気は消え、平行するように田中の従業員に対する締めつけは厳しくなり、蓄財への執念がむき出しになっていった。
p.40 外部の意見を取り入れようとか、能力のある人材を引き立てようといった発想は、田中には口先だけでもなかったようだ。
従業員への還元や社会貢献という概念があったとは考えにくい。
田中が執着したのは、ひたすら金。
p.81 興奮状態で告発電話をかけたのに、電話を切ったあとはむなしさに包まれた。一生懸命に仕事をしているのに会社を裏切られる怒り。自分自身、取引先を裏切っていることへの罪悪感。取締役として百人近い従業員を危険に晒している後ろめたさ。自分が告発という危ない橋を渡っているにも関わらず、行政からなんら反応がないことへの戸惑い。
p.83 内部改革は無理だったんだよ。次善の策は行政の介入なんだ。行政が介入して、指導してくれれば、従業員が職を失うことなく、この会社を正せる。軟着陸させるにはこれしかない。そう思ったから、告発を繰り返したんだよ。
p.85 生殺与奪のすべてを田中が握っているから、何かあっても上司が部下をかばうことはできない。部下が上司に頼ることもない。従って、現場がまとまって何かを考えることも意見を言うこともない。
p.86 気に食わないことがあるとガラリと顔つきが変わったという。他人の言うことは聞かない。特に偽装に関しては、田中は人から意見されることを決して許さなかった。
p.89 僕は自分の人生の限界が見えたときに、大した富が得られなくても、地位も名誉もなくてもいい。でも、自分は精一杯、まっすぐに生きてきたんだということを、二人の子どもたちに誇れる人生を送りたい――と考えるようになった。
p.157 しかも赤羽はカメラを向けても逃げないし、何より、自分には社会的立場があるという自覚があった。
p.196 罪の意味が分からない人間をそのまま断罪して意味があるのか。
経営者が自分の都合のいいように固めて、形骸化した組織で身動きに苦しむ者は少なくない。そのような閉鎖社会を作ってきた一人が、ミートホープの社長、田中稔であった。
ミートホープを再生させたいという組織や従業員に対する思い。商品を口にする消費者への思い。そのために赤羽さんは内部告発に踏み切らざるをえなかった。動かぬ行政を相手に、強硬な手段をとらざるをえなかった。
自身への保身もあったとしているが、組織を、従業員を、消費者を守ろうとしたのは赤羽さんであることには間違いない。葛藤もあれば、自問自答もあるだろうが、それでも誰もが出来なかったことに挑戦し、窮地を救ったのだから、もっと胸を張っていてもらいたいと思う。
赤羽さんの決死の姿に触れ、自分もその真似ごとと言われようと、関係者や顧客を守るために、自らを捨てることなく、まっとうな道を歩みたいと考えている。
p.130 そりゃあ、こんな肉を売っている会社を放置していていいのかという気持ちはあったから、それはある面で正義感で動いておったのは事実だよ。だけど、一方では保身だったんだ。それから怒り。意地。憎しみだ。だって、偽装を知っていて売っていたんだからね。
p.160 父は正義感を持って行動したのだと頭では分かったが、告発者という言葉はいたたまれなかった。まるで犯罪者のような響きだ。
何も悪いことはしていなくても、『内部告発者の娘なのだから、何かやるんじゃないのか』という目で見られるのではないか、一緒に働いている人たちにそういう気持ちを生じさせてしまうのではないか、と思いました。
p.173 そんな田中を野放しにしてきたのは行政だった。独りよがりを増長させたのは市場だった。ミートホープ従業員らは囲われたウサギのように沈黙し、内部告発に走った者は泥にまみれた。そしてミートホープは崩壊した。
p.175 悪いことをしなければ儲けられない企業という存在がよくないのであれば、それはやはり存続は難しいということにはなるのだけれど・・・・・。
p.179 ミートホープなり、告発グループにいた人間は、食肉業界にいることはできないということだよ。僕は、これは不当なことだと思う。われわれは努力を尽くして告発した。しなかったらどうなっていたか分からない。それなのに、告発したからって取引できないなんて、不当だと思うんだよ。
p.193 本当の職人なら、こんな偽装はしない。
p.200 営業した取引先に偽装肉を売りつけて申し訳ないという気持ちはあったものの、その先に消費者がいて、食べた人の健康を脅かしているとまでは考えていなかった。
p.204-5 『内部告発なんかでなく、会社を正すには、もう少し別の方法がなかったのか』とよく言われるけれど、同じ状況でやれるかと問いたい。告発以外の手段が本当にあるのかと問いたいんだ。告発以外に手段がない場合だって、あるんじゃないのか。