「プロフェッショナルの働き方」 高橋俊介・著、PHPビジネス新書、2012年2月3日
p.10 想定外の変化が当たり前の二十一世紀的仕事環境・経済環境において、長い間第一線に立ち、価値を提供し続けるにはどうしたらいいのか。そのひとつの答えが、プロフェッショナルという働き方です。
プロフェッショナルというと、これまでは専門性や資格、制度の問題として扱われることがほとんどでした。しかしながら、プロフェッショナルの本質というのは、そういう表面的な部分ではなく、日々の働き方にあるのです。
p.20-1 現代では「高度な専門性を活用し、個別性が高い問題に対して第一線で創造的に価値を生み出す職業。政治的意図や株主価値、組織都合などのバイアスを排除し、クライアント(依頼主)の意向のみを重視する、きわめて独自性の強い職業団体や職業集団」というのが、プロフェッショナルの定義になっています。
p.21-2 組織で働いている人であっても、専門性の高い技能を持ち、組織の論理よりも顧客への価値提供を重視し、自律的に行動できる、もしくはそういう仕事観や思考行動特性の持ち主であるならば、その人は広義のプロフェッショナルであるといえます。
そして現代は、そういうプロフェッショナルとしての働き方ができる人が求められているのです。
p.28-9 イレギュラーな状況で判断が求められた場合、判断に必要な情報をもっているのは現場の機長です。機長に判断を任せられないようでは、臨機応変に対応できません。ですから機長は、プロフェッショナルとしての十分な訓練を受けて育成されるわけです。
このように、航空機の操縦は鉄道に比べ、予測可能性や管理可能性が相対的に低い。だから、その分プロフェッショナル性が求められるのです。
p.33 目の前の顧客の要求に臨機応変に応えなければならない小売業や接客型サービス業の本質は、生産と消費が顧客接点で同時に行われるというところにあります。それゆえ、そういう状況で自律的に意思決定ができるプロフェッショナル人材の重要度が高いのです。
p.37 いまの実務の分野に求められているのは、理論を体系的に把握し、なおかつ最先端の研究や事例を知っていて、いざというときはそれらにアクセスできる人脈やネットワークももっている人だといえます。そういう人ではにと、時代に即した企画はつくれないのです。
p.41 まず分業の結果、第一線では仕事が極力単純化されます。単純化というのは要するに、仕事を標準化して誰にでも短時間でできるようにするということです。
ただし、そういう仕事というのは、長い間続けても成長実感が得られないので、そのうち飽きてきます。それで、四十五歳前後になると、それまで自分がやってきたことを今度は部下に任せて、自分は管理職となりマネジメントに回るというキャリアモデルが、ピラミッド組織には不可欠だったのです。
p.43 私たちは最初、「いま自分がいる組織で、これからも長く働きたいか」という質問に対し、最も強い相関があるのは「成長実感」だろうと予測していました。ところが、蓋を開けてみると、たしかに成長実感との相関は高かったものの、それよりさらに強い相関を示す項目があったのです。
それは「成長予感」。「いまの会社で働いていれば自分は成長できる」という確信が強い人ほど、そのまま働き続けたいと思っていたのでした。
p.44 十年上の先輩を見ても、やっていることは自分とたいして変わらず、長く働いている分だけ習熟度が増しているだけだ。管理職である上司の仕事にも、プロフェショナルとしての魅力は感じられない。
そして、それが自分の将来の姿だと気づいたら、仕事ができる若者ほど、もっと自分が成長できるところに移ろうという気持ちになるのも無理はありません。
p.54 分業を前提としたピラミッド型組織はそのままで、組織階層だけをフラット化した状態で管理職のプレイングマネジャー化を進めれば、それまで管理職が担っていた人材育成がどうしても疎かになります。
自分の部署の戦略立案やビジョンの構築と業績に対する責任に加え、部下の業務管理、コンプライアンス、メンタルヘルス、セクシャルハラスメントなどの諸問題まで、その役割と責任を組織階層に集約するやり方では、管理職の仕事が膨らみすぎて、とても人材育成まで手が回りません。
p.56 金で釣るのと序列で釣るのは、基本的に大差ないのです。そういう社員マネジメントそのものが、いまや機能しない時代だということを理解すべきです。
p.60-1 (同期に比べて出世が遅れている)彼らだって出世に対し無頓着というわけではありませんが、それよりも自分は何のために働いているのかや、何をやりたいのかという仕事観や職業的信念のほうが、仕事やキャリアの満足度に深くかかわっていたのです。そして、これこそがプロフェッショナルとしての働き方だといっていいでしょう。
p.62-3 なぜ医者やコンサルタントは、マネジャーになっても第一線の仕事を続けるのでしょうか。それは病院やコンサルティングファームがプロフェッショナル組織だからです。工場長は自分がラインに入って働いていなくても、工場のマネジメントはできます。しかし、医者やコンサルタントのようなプロフェッショナルは、自分もプロフェッショナルでないとマネジメントできないのです。
p.64 それでは、プロフェッショナル化に向いている仕事の特徴を三つ挙げてみましょう。
一つ目は、上司よりも顧客が大切である。
二つ目は、分業によって細分化されたうちの一部を担うのではなく、ある程度自己完結できて自分で価値が生み出せる。
三つ目は、同じことの繰り返しではなく、個別事情への対応などで常に創意工夫が求められる。
プロフェッショナル的な働き方を目指すなら、この三つの条件を充たす業界や分野に身を置くことが必須であると考えるべきです。
p.72 手嶋龍一氏は、「ジャーナリストにとって顧客は読者であり、デスクではない」と言明されています。まさに彼のような人がプロフェッショナルなのです。
p.76 「毒まんじゅうは食べるな」
「俺の命令に従えば、褒美に休みをやろう」「会社のためと思って、談合に手を貸してくれれば、将来悪いようにはしない」。このように、自分の価値観や職業倫理には反することであっても、見返りの魅力に負けて、あるいは現在の地位を失うことを恐れて魂を売ってしまうことを、毒まんじゅうを食べるというのです。
p.82 仕事で会社に貢献するという仕事観は、非常にサラリーマン的ですが、悪いことではありません。ただ、会社は常にこの会社規範を社員に刷り込もうとするので、年齢が上がるにつれ他の仕事観に比べ、こればかりが強くなる傾向があります。しかし、こればかりがいくら強くなっても、それだけではプロフェッショナル的な働き方はできません。やりがいをもって頑張れるよう、若いうちから他の仕事観を育てることが大切です。
p.99 顧客に何をしてほしいかを尋ね、それを忠実に実行する下請けスタイルでは、問題解決に至りません。そうではなく、いま求められている営業は、顧客より半歩先に行って、「あなたの問題はこれです。解決するためにこれをこうしましょう」と、自分のほうからどんどん提案することで相手を引っ張り、「なるほどそうだったのですか。それではあなたにお任せします」といわせるソリューションコンサルティングなのです。
p.102 ヨコ型リーダーシップをうまく発揮するためには、「一般化された信頼」という能力が不可欠です。これは、目の前の人が信頼できる人物かどうかを、言葉や表情などから短時間で見極められる能力のこと。また、自分は信頼に足る人間だという印象を、できるだけ早く相手に与えられることもこれに含まれます。
この能力の根底にあるのは、人間というのは基本的に信頼しあえるという考え方です。しかし、そうはいっても、信頼に値しない人だってなかにはいるでしょう。そういう人は早めに見抜き、組織をつくる際は参加をご遠慮願うことも必要です。
p.103 長い時間をかけて人間関係を築き、彼は大丈夫と自分が認めた人しか信頼しない、という人もときどきいます。狭い職種で長く働くうちに、騙されたり裏切られたりといった悪い経験を数多くしていると、こういうすれっからしになってしまうようです。
この手の人は、「一般化された信頼」という能力を獲得していないので、初対面の相手には、必ず不信感から入ります。
しかし、相手から信頼されていると感じなければ、誰もその相手を信頼しようとは思いません。つまり、こういう姿勢は、他の部門や組織を横断的にまとめる際は致命的なのです。
p.105-6 相手のことをわかるだけでなく、相手を納得させ、望ましい方向に動かせるということも、リーダーには求められています。それは、相手の価値観を理解し、さらに自分の言いたいことを、相手に通じる言葉や相手の理解しやすい論理で説明できなければならないということです。
単に自分の思いを熱く語っても、あるいは理屈で説き伏せたところで、相手がその気になってくればければ、行動には結び付きません。とくにヨコ型リーダーシップが必要な局面というのは、権限を使って相手に有無を言わさずにやらせるということができないわけですから、いかに相手の内発的な動機による行動を引き出せるかが、勝負の分かれ目なのです。
p.119 単に自分より上の権威者に言われたことが頭で理解できたというレベルでは、普遍性の高い学びはできません。なぜそうなのかということが腹に落ち、心の底から納得できて、はじめてさまざまなことに応用可能な、普遍的な学びといえるのです。
p.120 もともと日本料理の世界は、「この食材は、こう切れ」と先輩に言われたら、黙ってそれに従うしかなく、理由をきいても「ウチでは昔からずっとそうだ」とまともに答えてもらえないのが普通でした。ところが、村田氏は、そういうやり方が育成を遅らせているのではないかと考え、「それは切り口がこうだと、味が中まで沁み込みやすくなるからだ」というように、技術だけでなく、なぜそうするのかという理屈も一緒に教えるようにしたのです。すると、若くても才能のある板前がどんどん育つようになってきたといいます。
p.140-1 仁野覚氏によれば、売れる服をつくる技術などというのは、卒業してからも学べるので、それほど重要ではない。それよりも大事なのはその人が、「誰に向かって、どんな切り口の服を、生涯つくり続けたいのか」ということのほうだそうです。
学生には三年間を通じてこの「誰に向かって、どんな切り口の服を、生涯つくり続けたいのか」という自問自答を徹底的にさせるともいっていました。
p.147 現在の人材開発は、いま会社が必要とするスキルをもった人材、というような「会社都合」に応えるという方向に、安易に向かいがちだといってもいいでしょう。しかし、そこからは本人を支援するという、人材開発の基本である視点が抜け落ちているといわざるをえません。
会社の要請だけに耳を傾け、中長期的に本人がキャリアや人生をどのように切り拓いていくかという本人支援の視点を置き去りにしていたら、どうでしょう。どんなに画期的なツールを用いても、あるいは最新の技法を取り入れても、長期的には本人と会社の利益相反の部分が残るので、本質的にいい方向にはいかないはずなのです。
だから、人材開発の真のプロフェッショナルであるならば、たとえ会社からいわれなくても、個人が自分らしいキャリアをつくりあげる支援ができなければなりません。そうしないと、社員を振り回すだけの人材開発になってしまいかねないからです。
p.151 自己規制や自己管理ができなければ、顧客からの信頼は得られません。職業倫理やポリシー、価値観などで自分を厳しく律していない人は、すぐ相手にわかってしまいます。そうすると、相手からは「騙そうとしているのではないか」「駆け引きをしてくるに違いない」という目で見られ警戒される。これでは本音を引き出すのは不可能です。
p.155-6 「これはこうしなさい」「これは参考になるよ」というように、直接やり方やルールを教えるのが業務支援。「こういう可能性は考えた?」「あなたのこの仕事は、顧客に対してどんな価値を生み出しているのか?」など、自らの気づきや腹落ちを促すのが内省支援。失敗した部下に対し上司が「あまり気にするな。実は僕も昔、同じ失敗をしたことがあるんだ」と声をかけるのが精神支援です。
p.10 想定外の変化が当たり前の二十一世紀的仕事環境・経済環境において、長い間第一線に立ち、価値を提供し続けるにはどうしたらいいのか。そのひとつの答えが、プロフェッショナルという働き方です。
プロフェッショナルというと、これまでは専門性や資格、制度の問題として扱われることがほとんどでした。しかしながら、プロフェッショナルの本質というのは、そういう表面的な部分ではなく、日々の働き方にあるのです。
p.20-1 現代では「高度な専門性を活用し、個別性が高い問題に対して第一線で創造的に価値を生み出す職業。政治的意図や株主価値、組織都合などのバイアスを排除し、クライアント(依頼主)の意向のみを重視する、きわめて独自性の強い職業団体や職業集団」というのが、プロフェッショナルの定義になっています。
p.21-2 組織で働いている人であっても、専門性の高い技能を持ち、組織の論理よりも顧客への価値提供を重視し、自律的に行動できる、もしくはそういう仕事観や思考行動特性の持ち主であるならば、その人は広義のプロフェッショナルであるといえます。
そして現代は、そういうプロフェッショナルとしての働き方ができる人が求められているのです。
p.28-9 イレギュラーな状況で判断が求められた場合、判断に必要な情報をもっているのは現場の機長です。機長に判断を任せられないようでは、臨機応変に対応できません。ですから機長は、プロフェッショナルとしての十分な訓練を受けて育成されるわけです。
このように、航空機の操縦は鉄道に比べ、予測可能性や管理可能性が相対的に低い。だから、その分プロフェッショナル性が求められるのです。
p.33 目の前の顧客の要求に臨機応変に応えなければならない小売業や接客型サービス業の本質は、生産と消費が顧客接点で同時に行われるというところにあります。それゆえ、そういう状況で自律的に意思決定ができるプロフェッショナル人材の重要度が高いのです。
p.37 いまの実務の分野に求められているのは、理論を体系的に把握し、なおかつ最先端の研究や事例を知っていて、いざというときはそれらにアクセスできる人脈やネットワークももっている人だといえます。そういう人ではにと、時代に即した企画はつくれないのです。
p.41 まず分業の結果、第一線では仕事が極力単純化されます。単純化というのは要するに、仕事を標準化して誰にでも短時間でできるようにするということです。
ただし、そういう仕事というのは、長い間続けても成長実感が得られないので、そのうち飽きてきます。それで、四十五歳前後になると、それまで自分がやってきたことを今度は部下に任せて、自分は管理職となりマネジメントに回るというキャリアモデルが、ピラミッド組織には不可欠だったのです。
p.43 私たちは最初、「いま自分がいる組織で、これからも長く働きたいか」という質問に対し、最も強い相関があるのは「成長実感」だろうと予測していました。ところが、蓋を開けてみると、たしかに成長実感との相関は高かったものの、それよりさらに強い相関を示す項目があったのです。
それは「成長予感」。「いまの会社で働いていれば自分は成長できる」という確信が強い人ほど、そのまま働き続けたいと思っていたのでした。
p.44 十年上の先輩を見ても、やっていることは自分とたいして変わらず、長く働いている分だけ習熟度が増しているだけだ。管理職である上司の仕事にも、プロフェショナルとしての魅力は感じられない。
そして、それが自分の将来の姿だと気づいたら、仕事ができる若者ほど、もっと自分が成長できるところに移ろうという気持ちになるのも無理はありません。
p.54 分業を前提としたピラミッド型組織はそのままで、組織階層だけをフラット化した状態で管理職のプレイングマネジャー化を進めれば、それまで管理職が担っていた人材育成がどうしても疎かになります。
自分の部署の戦略立案やビジョンの構築と業績に対する責任に加え、部下の業務管理、コンプライアンス、メンタルヘルス、セクシャルハラスメントなどの諸問題まで、その役割と責任を組織階層に集約するやり方では、管理職の仕事が膨らみすぎて、とても人材育成まで手が回りません。
p.56 金で釣るのと序列で釣るのは、基本的に大差ないのです。そういう社員マネジメントそのものが、いまや機能しない時代だということを理解すべきです。
p.60-1 (同期に比べて出世が遅れている)彼らだって出世に対し無頓着というわけではありませんが、それよりも自分は何のために働いているのかや、何をやりたいのかという仕事観や職業的信念のほうが、仕事やキャリアの満足度に深くかかわっていたのです。そして、これこそがプロフェッショナルとしての働き方だといっていいでしょう。
p.62-3 なぜ医者やコンサルタントは、マネジャーになっても第一線の仕事を続けるのでしょうか。それは病院やコンサルティングファームがプロフェッショナル組織だからです。工場長は自分がラインに入って働いていなくても、工場のマネジメントはできます。しかし、医者やコンサルタントのようなプロフェッショナルは、自分もプロフェッショナルでないとマネジメントできないのです。
p.64 それでは、プロフェッショナル化に向いている仕事の特徴を三つ挙げてみましょう。
一つ目は、上司よりも顧客が大切である。
二つ目は、分業によって細分化されたうちの一部を担うのではなく、ある程度自己完結できて自分で価値が生み出せる。
三つ目は、同じことの繰り返しではなく、個別事情への対応などで常に創意工夫が求められる。
プロフェッショナル的な働き方を目指すなら、この三つの条件を充たす業界や分野に身を置くことが必須であると考えるべきです。
p.72 手嶋龍一氏は、「ジャーナリストにとって顧客は読者であり、デスクではない」と言明されています。まさに彼のような人がプロフェッショナルなのです。
p.76 「毒まんじゅうは食べるな」
「俺の命令に従えば、褒美に休みをやろう」「会社のためと思って、談合に手を貸してくれれば、将来悪いようにはしない」。このように、自分の価値観や職業倫理には反することであっても、見返りの魅力に負けて、あるいは現在の地位を失うことを恐れて魂を売ってしまうことを、毒まんじゅうを食べるというのです。
p.82 仕事で会社に貢献するという仕事観は、非常にサラリーマン的ですが、悪いことではありません。ただ、会社は常にこの会社規範を社員に刷り込もうとするので、年齢が上がるにつれ他の仕事観に比べ、こればかりが強くなる傾向があります。しかし、こればかりがいくら強くなっても、それだけではプロフェッショナル的な働き方はできません。やりがいをもって頑張れるよう、若いうちから他の仕事観を育てることが大切です。
p.99 顧客に何をしてほしいかを尋ね、それを忠実に実行する下請けスタイルでは、問題解決に至りません。そうではなく、いま求められている営業は、顧客より半歩先に行って、「あなたの問題はこれです。解決するためにこれをこうしましょう」と、自分のほうからどんどん提案することで相手を引っ張り、「なるほどそうだったのですか。それではあなたにお任せします」といわせるソリューションコンサルティングなのです。
p.102 ヨコ型リーダーシップをうまく発揮するためには、「一般化された信頼」という能力が不可欠です。これは、目の前の人が信頼できる人物かどうかを、言葉や表情などから短時間で見極められる能力のこと。また、自分は信頼に足る人間だという印象を、できるだけ早く相手に与えられることもこれに含まれます。
この能力の根底にあるのは、人間というのは基本的に信頼しあえるという考え方です。しかし、そうはいっても、信頼に値しない人だってなかにはいるでしょう。そういう人は早めに見抜き、組織をつくる際は参加をご遠慮願うことも必要です。
p.103 長い時間をかけて人間関係を築き、彼は大丈夫と自分が認めた人しか信頼しない、という人もときどきいます。狭い職種で長く働くうちに、騙されたり裏切られたりといった悪い経験を数多くしていると、こういうすれっからしになってしまうようです。
この手の人は、「一般化された信頼」という能力を獲得していないので、初対面の相手には、必ず不信感から入ります。
しかし、相手から信頼されていると感じなければ、誰もその相手を信頼しようとは思いません。つまり、こういう姿勢は、他の部門や組織を横断的にまとめる際は致命的なのです。
p.105-6 相手のことをわかるだけでなく、相手を納得させ、望ましい方向に動かせるということも、リーダーには求められています。それは、相手の価値観を理解し、さらに自分の言いたいことを、相手に通じる言葉や相手の理解しやすい論理で説明できなければならないということです。
単に自分の思いを熱く語っても、あるいは理屈で説き伏せたところで、相手がその気になってくればければ、行動には結び付きません。とくにヨコ型リーダーシップが必要な局面というのは、権限を使って相手に有無を言わさずにやらせるということができないわけですから、いかに相手の内発的な動機による行動を引き出せるかが、勝負の分かれ目なのです。
p.119 単に自分より上の権威者に言われたことが頭で理解できたというレベルでは、普遍性の高い学びはできません。なぜそうなのかということが腹に落ち、心の底から納得できて、はじめてさまざまなことに応用可能な、普遍的な学びといえるのです。
p.120 もともと日本料理の世界は、「この食材は、こう切れ」と先輩に言われたら、黙ってそれに従うしかなく、理由をきいても「ウチでは昔からずっとそうだ」とまともに答えてもらえないのが普通でした。ところが、村田氏は、そういうやり方が育成を遅らせているのではないかと考え、「それは切り口がこうだと、味が中まで沁み込みやすくなるからだ」というように、技術だけでなく、なぜそうするのかという理屈も一緒に教えるようにしたのです。すると、若くても才能のある板前がどんどん育つようになってきたといいます。
p.140-1 仁野覚氏によれば、売れる服をつくる技術などというのは、卒業してからも学べるので、それほど重要ではない。それよりも大事なのはその人が、「誰に向かって、どんな切り口の服を、生涯つくり続けたいのか」ということのほうだそうです。
学生には三年間を通じてこの「誰に向かって、どんな切り口の服を、生涯つくり続けたいのか」という自問自答を徹底的にさせるともいっていました。
p.147 現在の人材開発は、いま会社が必要とするスキルをもった人材、というような「会社都合」に応えるという方向に、安易に向かいがちだといってもいいでしょう。しかし、そこからは本人を支援するという、人材開発の基本である視点が抜け落ちているといわざるをえません。
会社の要請だけに耳を傾け、中長期的に本人がキャリアや人生をどのように切り拓いていくかという本人支援の視点を置き去りにしていたら、どうでしょう。どんなに画期的なツールを用いても、あるいは最新の技法を取り入れても、長期的には本人と会社の利益相反の部分が残るので、本質的にいい方向にはいかないはずなのです。
だから、人材開発の真のプロフェッショナルであるならば、たとえ会社からいわれなくても、個人が自分らしいキャリアをつくりあげる支援ができなければなりません。そうしないと、社員を振り回すだけの人材開発になってしまいかねないからです。
p.151 自己規制や自己管理ができなければ、顧客からの信頼は得られません。職業倫理やポリシー、価値観などで自分を厳しく律していない人は、すぐ相手にわかってしまいます。そうすると、相手からは「騙そうとしているのではないか」「駆け引きをしてくるに違いない」という目で見られ警戒される。これでは本音を引き出すのは不可能です。
p.155-6 「これはこうしなさい」「これは参考になるよ」というように、直接やり方やルールを教えるのが業務支援。「こういう可能性は考えた?」「あなたのこの仕事は、顧客に対してどんな価値を生み出しているのか?」など、自らの気づきや腹落ちを促すのが内省支援。失敗した部下に対し上司が「あまり気にするな。実は僕も昔、同じ失敗をしたことがあるんだ」と声をかけるのが精神支援です。