薬局が処方せんの枚数を稼ぐために、老人保健施設や老人ホームの職員と話をつけて、入所者の処方せんを一手に引き受けようと、取り入る行為が目につく。
困っている施設から相談を受けたり、歩いても行ける程度の近隣の施設に協力するならまだしも、離れたところにまで声かけしてかき集めるかのような行為は目に余る。
「千円札は拾うな。」(安田佳生・著、サンマーク出版)では、
大切すぎる顧客は作らない(p.45)として、優良顧客を作っても、優良すぎる顧客は作らないとしている。一社で売上げのかなりの割合を占めるほどの、サマサマとも言える顧客はある意味ありがたい顧客とはいえ、そうであるがゆえにさまざまな特例やわがままを受け入れることになり、それが組織の秩序に影響を及ぼすことを懸念している。さらにそういった顧客の存在に甘えて、開発などの企業努力を怠ってしまうおそれが生じかねないと心配する。そして何よりも、現在そのような顧客がいても永久にその関係が続く保証もない、と冷静だ。
「日本で最高のサラリーを稼ぐ男たちの仕事術」(田口弘・著、三笠書房)では、
「大口顧客、大量注文」はとるな!(p.38)として、そういうもたれあいの関係が、お互いにとって免疫力を落としていくようなもので、いざという時に体が動かなくなると、時代の変化に対応しにくくなる体質になってしまうことを懸念している。一社に依存し切ることほど恐ろしいことはない、と言う。
薬局が施設に働きかけてまとまった枚数の処方せんを稼ごうとする。施設関係者との“関係”が生じ、あらぬ取引が発生したり、わがままを受け入れたり、薬局業務をなし崩しにする要素が入り込んでくる。
お得意様の機嫌を損ねてはならぬと、チェックを入れることがはばかられたり、専門性を活かす場面も減れば、やりがいなど生まれない。もはや調剤でなく、交付のための作業に堕す。スタッフの成長や育成を阻む要因となることは、薬局にとって最も注意しなければならないことであろう。
薬局を「会社」としての論理で運営しようとする者は、平気でそういった判断を下すだろう。薬局は薬局の論理で進めることが大切で、医療提供施設としてあるまじきことは避けなければならない。まず利益ありきの考えが目先のことに飛びつきさせ、ますます組織を疲弊させていくことは、疑いのないところだ。