邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「山椒大夫」:追記

2006年08月31日 | ★人生色々な映画
「安寿~~」
「厨子王~~~」

子を呼ぶ母の声は甘美な調べのよう。
田中絹代の美しい表情は哀しく映る。

一夜の宿のために萱を集め、
無邪気に小枝を折る子供たちは
その後の恐ろしい運命をまだ知らない。

映画を見終わった後で、
この子供時代のシーンをもう一度観ると
一層深い余韻にひたれる。

成人した二人が山で昔とまったく同じ作業する
シーンが、より胸に迫るのだ。

母の声が聞こえるという安寿。

徐々に荒れ果てた厨子王の心がほぐれていき
純粋だった子供時代の思い出が蘇った瞬間
元の心に立ち戻り、
父のかつての教えどおりに
見殺しにしようとしていた病人をかつぎ逃亡する。

それもこれも安寿の尊い犠牲があったからなのだが。

森鴎外の原作では、
安寿は姉で厨子王は弟なのである
私が見たアニメも確かそうだった。
姉が犠牲になって弟を救うのは
まあ普通のストーリーと言えると思うが
溝口・依田・八尋不二 はあえて安寿を妹としたところがニクい

清い心を持つしっかりした妹が、
グレた駄目な兄を諭して逃がし、自らは入水してしまうのです。

入水場面は白黒のコントラストをはっきりさせるために
カメラの宮川一夫が墨汁で
木々を黒く塗ったのだとか。
ほんとうの、「動く水墨画」だったことを知った。

母と子がむごたらしく引き離されるシーンは
田中絹代の台詞に続いた
浪花千栄子の切迫した台詞がサッとリズムを変換、
一気に緊迫感をあおる。
どぶんと船から投げ落とされたのはスタントマンだろうか、
すごい落とされ方だけど
まさか浪花千栄子が落ちたのではあるまいな~~
落ちたのかしら?

冒頭、
子供たちの父親は民百姓のために体制に反抗して左遷となるが、
それは吉村公三郎監督作品の
「夜明け前」で滝沢修が演じた真面目な庄屋を思い起こさせた。
明治維新のうねりの中で、国学を学び
自らの信念の元で地元人民のため生きようとするが
虚しく空回りし、最後には発狂してしまう痛ましい主人公だった。

この話は本人だけがひどい末路をたどったわけだが、
「山椒大夫」では父親の思想のため、
家族全員の運命が翻弄されてしまうということに。

最終的にはその教えが厨子王の心を救い
形見の観音様の導き?で母と再会できたのではありますが。

若き天才、早坂文雄の音楽も見事でした。

前に書いた
「山椒大夫」の記事

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「近松物語」 :追記

2006年08月30日 | ★愛!の映画
「おさんと茂平衛」

この二人は行きがかり上、
一緒に出奔せざるを得なくなっただけで、
最初は駆け落ちしようとしたわけではない。

というのがそもそも面白い。

死を覚悟した茂平衛が
今ならバチはあたるまい・・と、主の妻である
おさんに愛を告白したとたん、
死のうとしていたおさんの気が変わるところで物語の
風向きは一変する。

それから二人は「どうにも止まらない」
「恋狂い」状態に陥るのである。

「恋はドラッグ」恋は魔術師」と
いう言葉が頭を駆け巡るほど
人目もはばからず抱きつき抱擁する様は傍目から見ると、
また理性で考えると異常だ。

「不義密通ものは重ねて4つに斬られる」という時代だったから
よけいに燃え上がったのか?

フランス映画にもないような
官能的な作品を、溝口監督はあの時代に撮ったのだ。

捕まって刑場へと曳かれる馬上においても
満足げに微笑む二人は究極のトランス状態にある。

共に死を迎えることさえもこの上ない愉悦に感じるなど
まるで殉教者のようでもある。

そのような精神状態に到達できるとは
恋のパワーとは恐ろしいものなのだなあ。

と、いうことで
私は「恋は宗教」という言葉も付け加えたい。

愛について考えたい人は必見の作品。
これもまた、何度も見返したくなる映画です。

以前に書いた
近松物語 記事

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「山椒大夫」

2006年08月29日 | ★人生色々な映画
私にとって「山椒大夫」は
思い出深い特別な作品なのです。

と、いっても溝口作品ではなく
アニメの「安寿と厨子王丸」なんですが。

今では思い切り振り絞っても、
ドライアイな私ですが幼少の頃
これ見て泣いたことを正直に告白します。

私の「初泣き映画」だったのです。

アニメといっても
声優として
安寿が佐久間良子、厨子王が北大路欣也、母が山田五十鈴・・
山椒太夫:東野英治郎、他に三島雅夫、山村聡など、
とんでもなく豪華なメンバーが名を連ねている作品で、
今も安寿が鳥に姿を変えて飛んでいく美しい場面を
まざまざと思い浮かべることが出来ます。


追憶・・・・
追憶・・・

言うことをきかない子供への脅し文句として
「人買いにさらわれるぞ!」
「わがままばっかり言ってると、サーカスに売るぞ!」という
言葉が生きていた時代ですね。
(私の周辺だけ?)




溝口作品を忘れるところでした。

平安時代、身分の高い役人だった
平正氏(清水将夫)は農民を救うためにお上にたてつき
左遷される。
家を追われた母(田中絹代)と子、
召使(浪花千栄子)は盗賊が
横行する山道で野宿していた。

人買いに騙され、
母と引き離された幼い兄妹は
残忍な山椒大夫(進藤英太郎)の元に買われていく。

貧しい民を救えという父親の思想は、
お守りに渡された観音像と共に厨子王に受け継がれるが、
その運命は過酷を極めた。

山椒大夫の舘の様子、
佐渡に売られていった母親の身の上などが
これでもかと容赦なく描写される。

数年が経ち、
苛烈な境遇に人が変わったようになった厨子王。
あの美少年津川雅彦の面影は何処に
劣悪な環境はこれほどまでに
人間を変えてしまうのか!と暗澹たる気持ちになる。

ただひとつの救いは安寿(香川京子)の清らかさのみだ。

今日BS2で放送された
「時空を越える 溝口健二」によると、
少年時代の厨子王を演じた津川雅彦は当時14歳だったそうだが、
相当厳しい撮影だったそうで
助監督の田中徳三が手加減して小道具を細工してくれようとしたのに
溝口監督にどやされ、ひっくり返るくらい重たい薪を背負わされたとか、
母と引き離された湖の撮影はなんと、2月の厳冬期だったと
語っていた。

田中絹代は「顔に艶があるから肉を食べないでください」と言われたとか。

実際そのシーンを見ると
素晴らしく現実感がある演技になっているので
誰もぐうの音も出なかったことであろう。

色んなエピソードを聞いても聞かなくても
後世にまで語り継がれる作品であることには変わりない。

津川雅彦が成人したら花柳喜章 になり
イメージとはだいぶ違ってかっくんときたが、その熱演は胸に迫る。

田中絹代の圧倒的な存在感と、神がかった演技で
ラストでは性懲りもなく泣きそうになってしまった。
宮川一夫のカメラもまた、神ですが。

*映画の中のイイおんな*
香川京子:汚れの無い美しさと申しますか、
ボロを着ていても生まれのよさが零れ落ちてしまう、
品のいい安寿です。私はこの方の「鼻」、端正な鼻筋が好きです。

1954年 溝口健二 監督作品
原作 森鴎外
脚色八尋不二 依田義賢
撮影 宮川一夫 音楽 早坂文雄 美術 伊藤熹朔

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「怪談新耳袋劇場版」

2006年08月28日 | ★恐怖!な映画
フジテレビの人気ホラー番組を劇場映画化した一本。
8作入ったオムニバス。深夜に地上波でやっていたので見た。

「夜警の報告書」監督:吉田秋生
「残煙」    監督:鈴木浩介
「手袋」    監督:佐々木浩久
「重いッ!」  監督:鈴木浩介
「姿見」    監督:三宅隆太
「視線」    監督:豊島圭介
「約束」    監督:雨宮慶太/出演:曽根英樹
「ヒサオ」   監督:平野俊一


「夜警の報告書」は竹中直人が出演しており
軽いギャグが入っていたので
全体このノリなのかなと思っていたら
そうでもなかった。

次の「残煙」は、
森の中での得体のしれない恐怖描写が
ハリウッドホラー的。
「ブレア・ウィッチ」などを彷彿とさせるも
アイディアがあっさりし過ぎ?
洒落たファッションの可愛い女の子が、パニくった途端
汚い言葉になることのほうが恐怖だったぞ!!

この中では雨宮慶太監督の
「約束」が一番面白かった。
ストーリーが個性的で、ユーモアセンスが◎。
主演の曽根英樹が今の若者を好演していた。

「ゼイラム」「タオの月」を監督するなど
マルチな才能を持つ雨宮監督は
「仮面ライダー」などのクリエイチャー作家でもある。

カリスマ的な人気を誇っているだけあって、
出物の造型」には生々しい迫力があった。
それはストレートに「出たなあ!」という期待を
満足させてくれるもので
動きが若干「貞子」なのがちょっとアレだったが、
主人公との対比などが斬新で、驚きがあった。

首をかしげてしまったのは
ラストの母モノ「ヒサオ」。
ヒサオは息子の名前なのだが
最初から話がわかってしまうのは
ホラーとしてはどうなのだろうか。
わかっていながら
烏丸せつ子の一人芝居を見なくてはならないのはキツかった。
かなり暗く重くじめっとした話なので
これを最後に持ってくるのは、映画一本の
バランスを崩してしまうようでもったいないことだと思う。

中盤の「姿見」が怖い怖いという評判だったので構えていたのですが
オチで
爆笑してしまったのは正しい見方なのか正しくないのか・・・

シリーズ化しているようなので
「おっ!」と驚くような新しい「恐怖」を見せつけてくれるのを
期待したい。

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「世界大戦争」

2006年08月24日 | ★恐怖!な映画
恐るべきリアリティで、
第三次世界大戦・核戦争の恐怖を描いた映画。

平凡に暮らす市井の人々の暮らしを丁寧に描くことによって
戦争の恐ろしさと虚しさを際立たせる。

「・・・人間は素晴らしいもんだがなあ・・・。
ひとりもいなくなるんですか・・・
地球上に・・・」


胃の手術後、
生の喜びを噛み締めていた老人(笠置衆)がラストにつぶやく台詞です。

物語の前半は
え?これが本当にパニック映画?と、
いぶかしく思うくらい明るい調子で
田村(フランキー堺)一家らのささやかながら幸せな日常を綴る。

監督は「太平洋の翼(1963)」
「連合艦隊(1981)」「社長シリーズ」などの松林宗恵。
荘厳な音楽は団伊玖磨。

SFXに東宝特撮映画のエキスパートが揃っているために
クライマックスは最高に衝撃的だ!

田村は外人記者クラブの運転手。
小さな家に妻のお由(乙羽信子)、
娘の冴子(星由里子)たちと幸せに暮らしていた。
冴子は通信員の高野(宝田明)と結婚を約束していた。

市民の平穏な暮らしの裏で
世界では各地で連鎖的に戦闘が勃発、
いまや何が起こっても不思議ではない一触即発の危機的状況にあった。

首相(山村聡)らは全力で戦争を食い止めようとするが、
もうどうにも止まらない!ことに!

戦争が始まることが公表され、
末期的なパニックに陥った東京で
娘の名を呼びながら息絶える主婦(中北千枝子)
保育園で親を待ちながら歌を歌う子供たち、
もう会うことが出来ない恋人からの無線をキャッチし
泣きながら往信する冴子など、
胸がしめつけられらるエピソードが丁寧に描かれる。

田村家ではいなりずしや巻き寿司が最後の晩餐だ。

それまで毅然と明るくふるまっていた
田村(フランキー堺)が物干し台に上がり
呻く様に吐く台詞は、
傑作「私は貝になりたい」を彷彿とさせる。

平凡な市民の幸せを描き戦争の悲惨さを訴える手法は、
黒木和雄監督の
Tomorrow 明日」に受け継がれるものであるが、
黒木監督が描かなかった「その後」を
この映画は素晴らしい特撮によって我々に見せ付けてくれる。

「ミサイルが発射されました!」「あと50秒です!」
そうなっても、
時計を、レーダーを見つめるしか術は無いという
恐ろしさにはただただ慄然とするばかりである。

その後巨大な火山が何十個も
同時に噴火したようなすさまじいショックが訪れるが、
その大迫力といったら、
とても「庭に穴を掘って隠れていれば助かる
というレベルではないな」

と思わせるリアリティ、説得力があります。

最後にクレジットが入る。

「この物語はすべて架空のものであるが
明日起こっても不思議ではありません・・・」

おっしゃるとおりです。

ここには日本の市民が描かれているが、
全世界に人は生活しているわけで、
これは今こそみんなが見るべき映画、
人類必見の映画と言えるでしょう

*映画の中のイイおんな*
星由里子:都会的な美貌。
黒髪艶々・宝田明と組めば、ばっちりの東宝カップルです。
こんなテーマなので衣裳も地味ですが
いるだけで華やかさが漂います。
無線で愛を確かめ合う名場面は鬼でもぐっとくるでしょう。

松林宗恵 監督作品

脚本八住利雄 木村武
SFX 有川貞昌 渡辺明 岸田九一郎 
特撮監督 円谷英二 音楽 団伊玖磨  美術 北猛夫

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