邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「踊子」

2006年09月29日 | ★人生色々な映画
永井荷風の原作を
田中澄江が脚色。

狭いアパートにころがりこんできた
妹(京マチ子)に
同居していた恋人(船越英二)を寝取られてしまう姉(淡島千景)。

奔放でだらしない妹をダイナマイトボディの京マチ子が演じている。
元宝塚淡島千景とのレビュー共演
なんとも華やかなお宝映像だ。

今更だけど
淡島千景の凡人とははるかにかけ離れた美貌に見とれる。
涙がいっぱいにたまった瞳など、きらきらと煌めいて
まるで黒い宝石のようだ。
スター」とはこういう人を言うのだろう。

二人は
女に手が早い演出者(田中春男!)がしきっている
「シャンソン座」で踊っている。

「ROXY」、連れ込み宿のネオン、、
もんじゃ焼き屋・・
舞台となる浅草六区の情緒が画面にあふれている。
筆者もお気に入り、日本一古いといわれる
花やしき」のジェットコースターも映っていて感激した。

女の匂いが染み付いた優柔不断な
二枚目を演って船越英二の右に出るものはいない。
どこかうらぶれた感じがたまりません。

演出がとても細やかで、はっとさせられた箇所が
いくつもあった。

ダメダメ人間ばっかりだけど
ほろりとさせるぬくもりも感じさせてくれる。

いいもの見た。

*映画の中のイイおんな*

京マチ子、淡島千景
二人ともダンスならまかしとけ~ってなもんで、
惜しげもなくステキなボディをさらしております。
妹役の京マチ子はヴァンプタイプ、
淡島は踊子ながら地味で底抜けにお人好しの姉さんという、
イメージにぴたりとあった配役でした。

1957年
清水宏監督作品 原作 永井荷風  脚色 田中澄江  撮影 秋野友宏
音楽 斎藤一郎  美術 柴田篤二

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「陽気な殿様」

2006年09月27日 | ★ぐっとくる時代劇
市川雷蔵主演の明朗時代劇。

一点の曇りも無い二枚目。二枚目半かな。
どこか暢気な若様は
大工の八五郎(小林勝彦)と鳶職の三次(佐々十郎)のお供を連れて
何でも見てやろうの旅に出、
珍事件に巻き込まれたり、恋に落ちたりする。

特筆すべきは
謎の浪人役天知茂
痩せた体から妖気ビームを放ち、
すごい面構えで悪役上等
どこか憎めない役だが十分スパイシーである。

雷蔵自身、結婚、子供も生まれて
私生活も充実していた頃の作品。

明るさがいっぱいで、
見ていて気持ちも晴れ晴れしてくるようだ。
こんな屈託の無い楽しい映画を作れたのも
大ドル箱スター、
市川雷蔵の存在があったからだろう。

若様と恋におちる姫を演じている坪内ミキ子のことが
雷蔵・雷蔵を語る」に書かれていた。

雷蔵の奥さんと坪内は、小学校から高校までの同級生で
奥さんを介して映画の世界に入ったそうだ。
そして、この作品がデビュー作となった。

”家には自分がいないときに遊びに来て
女房と「コシャコシャ」喋っている、
仕事場ではほとんど口をきいたことがない、
どうやら敬遠されているらしい”とあって
笑った。

また、
美人で才女だが、
映画のスクリーンでは小さくまとまりすぎる気がする・・とか
結婚してからよくなってきたとか
テレビではなかなかいいだとか、
映画界の先輩としての指摘も鋭い。

大スター雷蔵の
率直な気持ちを綴った内容で、
この本を片手に雷蔵映画を見るのが
楽しみのひとつになっています。

*映画の中のイイおんな*

坪内ミキ子:雷蔵さんも本の中で書いているように
早稲田大卒の才女。お嬢さんタイプの美人。
おしとやかなお姫様にはぴったりだが
ちょっと面白みに欠けるかも。目元がすっきりとした一重で
日本的な感じがします。

1964年  森一生 監督作品
脚本   笠原良三 原作  五味康祐
撮影 今井ひろし 音楽   斎藤一郎
美術   下河原友雄

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「女であること」

2006年09月24日 | ★人生色々な映画
妖艶なポーズで主題歌を歌う
美輪(丸山)明広のアップで始まる。
なんとも思わせぶりな憎い出だし。

屈託のないコメディ、メロドラマ、様々なテーマを扱いながら
胸に残る愛しい作品を撮ってしまうのが
川島雄三という監督だ。

夫(森雅之)は有能な弁護士、
妻(原節子)との間には子はないが、
弁護中の殺人犯の娘(香川京子)を引き取って
夫婦円満に暮らしていた。
そこへ台風のように現れた
お転婆娘(久我美子)が家中を引っ掻き回す。

森雅之と原節子と久我美子といえば、
黒澤明の大作「白痴」を思い出す人も多いだろうけど
ここでは猛吹雪の中で
大声で叫びあったり怒鳴りあったりなどといった
ことはなく
登場人物たちの感情の機微を静かに追う。

久我美子はむちゃくちゃな役ですが。

上記の三人が揃った上
香川京子も出ていて
おとなしい女の子が、初めて燃え上がった恋について
語る台詞にははっとさせるものがあった。

みんな目イッパイ女。

お手伝いさんにはこれまた上手い、中北千枝子。
後姿だろうと、横向きだろうと
360度◎の演技が出来る女優さんだ。

川島作品の常連、三橋達也も
さらりと登場する。

久我美子でなければ張り倒したくなるような
メチャメチャ娘は
支離滅裂過ぎて可愛らしいという域までいっている。
ちょっと爆笑
いたずらっぽくきらきら光る瞳、
ヘップバーンファッションで跳ね回る。

森雅之はいつもどおりモテモテオヤジ。

原節子の「むっとした顔」は恐ろしい。
しとやかな顔がみるみるうちに曇って、
今にも爆発するか!と思わせるからである。
だけど爆発はしない。
暗い影がさすのはほんの少しの間だけで、
整った眉は元の形に戻り
またいつもの美しい顔になりほっとする。

成瀬巳喜男の映画にも
似たテーマがあった。
夫婦の関係はちょっとしたきっかけでバランスを崩し
ちょっとしたことで元に戻っていく。
かすり傷を追うこともあるけれど。

「ほんのちょっとしたこと・・」
これが意外と人生を左右しているのかもしれないデスネ。

*映画の中のイイおんな*
久我美子:この映画では大美人女優原節子を完全に食っとります。
というのも気性の激しさプラス
思春期の娘特有のホルモンのアンバランスによる
制御不能のハチャメチャぶりがとんでもなく愉快だから。
「おじさま大好き、おばさまも好き。
おじさまが好きなおばさま嫌い、おばさま大嫌い」って・・
まったくワケわからんです。
細い体にタートルのセーター、サーキュラースカート・・ヘップバーンファッションが
似合いすぎるくらい似合っています。

川島雄三 監督作品
脚本 .. 田中澄江 井手俊郎 川島雄三
原作 川端康成
撮影  飯村正
音楽 .  黛敏郎

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「元禄忠臣蔵・前篇」

2006年09月23日 | ★ぐっとくる時代劇
長年焦がれていた作品を
ようやく見ることが出来て感謝。

と、

幸せに浸っていたら、
始まった途端に松の廊下で
罵詈雑言を吐いていた吉良が
後ろで聞いていた浅野内匠頭にいきなり切りつけられたので
椅子から転がり落ちそうになってしまった。

その間、あっという間。

びっくりした~~前フリ無しの大胆スピード演出!!!
ボヤボヤしてる場合では無かった!

前篇は大石の苦悩、
配下の混乱の描写にスポットが当てられている。

すでに言いつくされている原寸大の松の廊下のセットは
噂にたがわず見事なものであった。

平面的に映し出されるだけではなく、
カメラをひいてぐるりと回廊が撮られているので
壮大な眺めをいやというほど堪能出来、
今更ながらその贅沢さに驚いた。

どこまでも敷き詰められたの美しさよ!
建築監督として参加した新藤兼人の本にも
様々な苦労が書かれていた。

奥方たちの結髪、装束
蒔絵の化粧道具、
小道具類、所作、
歩き方振り向き方、すべてを
隅から隅まで目に焼き付けようとしたため
非常にエネルギーを消耗してしまった!

いわゆるなんでもない部屋の「インテリア」も
芸術的に素晴らしく、障子の桟の美しいデザインなど
日本の美に満ち満ちているので、見飽きることは無い。

溝口健二の映画を見ると、
日本とはかくも美しい国だったのかと誇らしくなる。
なのにどうして・・ということはまあさて置き・・

前篇は大石が赤穂城再興はならずと知って、
いよいよ吉良を討つ意思を部下に知らしめ、
山科の住まいを出て東下りを決意するところまで描いている。

「山科の別れ」の場面も
舞台を上から見るようで、映画的な構図の面白さに感動した。

ちらちらと登場した、
加東大介(芸暦長いなあ。旧芸名:市川莚司)、市川歌右衛門、
中村翫右衛門などの美味しい演技、名場面は
後篇で見られるようである。

河原崎長十郎
滅びの美しさが感じられる大石内蔵助だ。
独特のクラシックな台詞まわしが厳しさと重みを感じさせ
感情移入してしまう。

京都御所勤めの小野寺十郎が訪れ、
禁裏では同情の声ありと言うと、
涙を流し京都の方角に頭を垂れるなど、
勤皇大石のエピソードを丁寧に描いているところは
撮影当時の時代背景もあり、興味深く見た。

後篇もぜひ見たいがどうなるか・・・
驚いたことに
この前篇が公開された一週間後に
アメリカと戦争を始めることになったそうだ。


総監督 白井信太郎
演出者  溝口健二
脚色者 原健一郎 依田義賢
原作者真山青果
撮影 杉山公平
作曲・音楽監督 深井史郎
美術監督   水谷浩
建築監督 新藤兼人

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「阿部一族」

2006年09月19日 | ★ぐっとくる時代劇
映画だと思っていたら
テレビドラマだったと知って
こんな濃いドラマがあったのかとびっくりした。

森鴎外の原作にほぼ忠実な内容だが
映像の強みを最大限に生かして見せ場を作り、
観客を引っ張っていくのは深作監督ならではの仕事だ。
テンポもよく、配役も申し分無い傑作

物語は徳川三代将軍家光の頃、
肥後の国(熊本)
殿様が病死した後、
18人もの殉死者が出た城下では
殉死差し止めのおふれが出される。

瀕死の殿様に殉死を禁ぜられた阿部弥一右衛門(山崎努)は
切腹のタイミングを逃し
臆病者よと影口をたたかれ、日に日に焦ってくる。

ある日5人の息子と妻、
孫など家族一同を集め、「いよいよ今日やる」
「後はよろしく。兄弟仲良く絶対離れぬように」と
あっさり切腹してしまう。

この切腹が
とんでもない悲劇を引き起こしてしまうとは!!

森鴎外は
乃木将軍の殉死を聞いて
この小説を書き始めたそうだ。

殉死を巡っての侍の意地がテーマだが、
真田広之と佐藤浩市の友情と「義」、
死にいそぐ討手の大将、
杉本哲太の心情、
原作には記されていない、
侍の妻として生きる女たちの悲しみも描いて、
とても見ごたえがあった。

蟹江敬三(長男・権兵衛役)は
無残な役がどうしてこう似合うのだろうか?

私は女なので(本当です念のため)
男の意地」というのがよくわからない。

世間体、見栄も同時に加味されているように思える。
それはこの時代、
この作品の登場人物においては
何者にも代えがたい大事だったのだろうか。

千百石をいただいていた名家もぶっ潰すんですから、すごい。

武家としての阿部家を貫いた結果、
絶望的な戦いに突き進んでいくことになったのだろうか。
それも命がけで奉公してきた
主君に背いて・・である。

絶対的な忠義と武士としての意地。
矛盾したテーマをはらんだ作品である。

いたいけな子供たちまで道連れ、
手にかけざるを得ない女たちの
苦しみは想像を絶する。

子供らを見つめる嫁(藤真利子)が
刃を手にして極限の精神状態を表現したかと
思えば、
それまで武士の妻らしく端然としていた姑(渡辺美佐子)が、
数珠を引きちぎって一瞬激しい感情を噴出させる場面も秀逸だった。

弥一右衛門の遺言どおり
「兄弟仲良く」は守って、
阿部一族は華々しく滅亡してしまうのだが、
男はそれでいいかもしれんが女はどうなる・・と
憤懣やるかたない気持ちになった。

だが
深作監督はそういうやからへの対応も
きっちり押さえた描写を用意している。

討伐シーンは
深作欣司ですから推して知るべしの大迫力

佐藤浩市と真田広之の間も、
「情は情、義は義たい!」と
クールにつっぱねるところは最近の時代劇と異なり
大変苦味が利いている。

最後に戦闘の労をねぎらわれた真田が
「阿部一族を討ち取るなど、
茶の子も茶の子、朝茶の子でござる」と言い
殿様がむっとする部分もひねりがあった。

武士の生き方、美学についても
考えてしまった。

ナレーションは中村吉右衛門
そうそう、
石橋蓮司が白塗りしていたら「赤信号」!
クセのある役が実に上手い。

時代劇好きの方は
レンタル屋の隅にあったら見てみてください。
とても面白いです。

原作:森鴎外 
深作欣司監督 脚本:古田求

出演:山崎努/佐藤浩市/蟹江敬三/真田広之/
石橋蓮司/藤真利子/渡辺美佐子/杉本哲太/中村吉右衛門(語り)

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