邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「怪談雪女郎」

2007年08月28日 | ★恐怖!な映画
田中徳三監督と言えば、
溝口健二監督の元で助監督修行を勤めた後、
『眠狂四郎』「悪名」「兵隊やくざ」「忍びの者」シリーズなど
娯楽作を次々手がけ、
大映の黄金時代を築いたひとりだ。
俳優の持ち味を生かすのも天下一品だった。
お馴染みの雪女伝説だが
正統派時代劇として見ごたえ十分。

藤村志保
金色のカラーコンタクトをつけ、恐ろしげな風貌に変身したかと思えば
楚々としたイメージそのままの貞淑な人妻を演じて
文字通りのワンマンショーだ。

与作・・・与作(石浜朗)・・・・は、木を切っていた(爆)

吹雪で閉じ込められた山小屋で
恐ろしい殺人鬼なれどもこの上なく美しい雪女郎を見る。

雪女は美女でなければならない。
雪女は哀しげでなければならない。

この後、色んな女優さんが踏襲することとなる
雪女の原型である。

美しい身のこなしは日本舞踊の名取りゆえか・・
絶妙に入る伊福部昭の音楽は一瞬
「大魔神」の「出」を彷彿とさせてしまうけど・・
大映が誇る美術はやっぱり見事だ。

劇中、人間の女ゆきに姿を変えた雪女郎が
熱病に冒された領主の子供を身を削るようにして看病する場面がある。

座敷にはらはらと雪を舞わせ子供の熱をとるのだが、
その術?を使うたびに
「鶴の恩返し」のように消耗してしまう。
そんなもの、口からゴ~~~っと冷気を吐き出し瞬間冷却してしまえと、
ヤキモキしたのは私だけだろうか。

邪気祓いをする巫女がしぶとくゆきを苦しめる。
巫女というより鬼婆!の風格はさすが原泉である。

しっかりツボを押さえた演出が光る。
名場面の「言っちゃいましたねあなた」のシーンは大迫力。

最後のおちもわかっていながら
陶酔してしまうのは
藤村志保の美しさと熱演にほかならない!

1968年
監督 . 田中徳三
脚本 . 八尋不二
撮影 .  牧浦地志
音楽  伊福部昭
美術 内藤昭

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吸血鬼の真実

2007年08月27日 | ★TV番組
いい加減にせい!と
言われてもしょうがないが
「雪女郎」の前には
「吸血鬼の真実」という番組に見入っていたのだった。

ヒストリーチャンネルで「吸血鬼特集」というのがシブイと
勝手に思ったのだ。

その中身は古今東西の吸血鬼映画のおいしい場面を何度も使いまわし
再現フィルムも交えながら
歴史の中で息づく吸血鬼伝説を様々な角度から
検証しようという高尚な?意図を持った2時間番組だった。

血を好んだ歴史上の邪悪な人物たちのエピソードは気色悪かった。

また、棺桶から蘇る死人への恐怖が
ゾンビ伝説と似ていることには目からうろこだった。
日本ではいったん埋葬された人間が
棺桶から出てきた場合は「亡霊」とみなされるが
西洋では半死人・死んでもいないかわりに
生きてもいない存在・・として扱われ、忌み嫌われたらしい。

雪女もバンパイアも人々が
「恐れ・畏れ」を知っていた頃の怪物と言えるが、
科学が発達した現代でも「都市伝説」なんてあるくらいだから
人間の心は昔も今も変わっちゃいないのかもしれぬ。

映画の中の歴代吸血鬼よりも
やけにその道に詳しいコメンテーターの女小説家や、
ムダにヴィクトリアンな出で立ちの
ファーザー・セバスチャンとかいう、
吸血鬼愛好家?のお兄ちゃんが嬉々として語っている様子が異様で怖かった。
まさにインタビュー・ウィズ・本物のヴァンパイア!

*他の「恐怖!」な記事はこちら
「妖しい世界」はこちら

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こころ

2007年08月25日 | ★人生色々な映画
学生の日置(安井昌二)は、
ふとしたことで知り合った野淵(森雅之)に強く惹かれ
博学な彼を「先生」と呼んで自宅に頻繁に出入りするようになる。

先生は美しい妻(新珠三千代)と暮らしていたが、
二人の関係にはどこか不自然なものがあった。
「先生」の思想や学問に傾倒する一方で、
仕事へも出ない世捨て人のような生活にも
不可解なものを感じるのだった。

俳優たちの素晴らしく緊迫感ある演技によって
原作の世界が忠実に再現されている。

片時も目を離さずに森雅之の一挙一動を見た。
整った眉毛の間に刻まれた深い皺にも苦悩が表れている。
なんてったって
皺も演技しているので見逃せない。
この年は傑作「浮雲」にも出演しており、
最も油が乗っていたノリノリの頃なのである。

溌剌とした娘時代から憂いを帯びた人妻へと変貌する女を演じた
新珠三千代も見事だった。
画面いっぱいのアップになると
シュールな美貌が際立って恐ろしいほどだ。

安井昌二は『ビルマの竪琴』といい、
市川監督との仕事で最も輝いているように思う。
とまどう学生の心理を巧みに演じている。

明治の学生?にはどうかなと思った三橋達也は、
うーんやっぱりどうかな。
ぎらぎらと光る目からは
何を考えているのかわからないエキセントリックな光が
ほとばしり、
回想シーンで若作りをしている森と堂々と渡りあっているが!

ばっちりきまった構図、俳優の表情を捉えたアップにひきこまれてしまう。
明治時代の街並みや家屋を表した美術も素晴らしい。

「炎上」もそうであったように、観客を
放り出すようなラストの唐突さも市川監督らしい。

終わりを告げる明治と「先生」についても考えさせられる。

おなかいっぱいになったが、
勝手に大きな秘密を打ち明けておいて、
先生ったら
まったく日置と私たちの身にもなってみろ~~!

1955年 市川崑
原作 夏目漱石
脚本 猪俣勝人  長谷部慶次
撮影 伊藤武夫 音楽 芥川也寸志
美術 小池一美

映画の中のいい女:
新珠三千代:クールビューティで演技力は抜群!
しっとりとからみつくような声もたまらない!
市川監督の映画に出ると芸術的な美貌が際立つよう。

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「怪談」見たゾォ~~!!

2007年08月22日 | ★恐怖!な映画
真夏の日差しから逃れて
暗い映画館の片隅で江戸情緒に浸る贅沢を味わう。

冒頭、
落語家によって黒木瞳演じる常磐津のお師匠と
愛人新吉(尾上菊之助)の親どおしの因縁話が語られる。

お化け屋敷さながらの沼地に荒れ野。
導入部からわくわくさせてくれるじゃないの。

二人の出会いは偶然ではなかったのである。

馴れ初めは冬の寒い日。
夢のように美しく恐ろしい話が始まる。

話の運びはとんとん拍子だ。
思わず二人の恋物語に引き込まれる。
雨、雪、風鈴、花火、美術も素晴らしく、
江戸の町の空気が伝わってくるようであった。

衣裳は黒澤和子。
格子や大胆な縞、絽の振袖、羽織もの、
帯もよりどりみどりで(締め方も)
着物好きも大いに楽しめる。

立ち居振る舞いがぞっとするほど決まっているのは
歌舞伎役者だから当たり前だけど、
菊之助くんのただならぬ風貌と言おうか
どこか浮世離れした美貌と個性が実にはまっている。

中川信夫の傑作「東海道四谷怪談」が
怪談史上に残る名作と言われ続けるのは
天知茂の類稀な凄い顔(いい意味です!もちろん)があってこそだと思う。
『色悪』とは
そこまでいっちゃってる容貌でなきゃだめだと思う。
そういう意味でキャスティングには大拍手を送りたい。

新吉は、ぬるりと油壺から出てきたような色男で(どんな男だ?)
困ったことに女に大変優しい。
師匠は嫉妬で頭に血が上って稽古に身が入らなくなる。
新吉は元々はヒモ体質ではなかったのに(師匠に壊された?)
金が入るようになってから
どんどん悪いヤツになっていくのが興味深い。
黒木瞳はいつもの綺麗な黒木瞳さんには違いないが
ヒステリーになってからの方が面白かった。
もっと悪役を見せて欲しい女優さんである。

井上真央ちゃんは抱きしめたくなる愛らしさでにじゅうまる。
お色気瀬戸朝香の手下、
どこかでみたことあると思っていたらコメディアンの村上ショージだった。
小悪党が似合っていた。
津川雅彦は貫禄、木村多江は相変わらず上手い。

正統派怪談なれど斬新。
中田監督の怖さのつぼを押さえた演出が心憎い。

お化けもただ出ればいいってもんじゃないということがよくわかる。
幽霊や化け物より、目に見えないもの、怨念、
恐ろしい手紙で呪縛する女の情念そのものが恐ろしいのである。
誰もいるはずがない天井を見つめる菊之助くんの目、悪夢、
何かの「気配」が怖い。

といいつつも、
終盤の大団円を期待してしまうのは怪談好きの悪いサガ。
だがそんな期待を嬉しく裏切ってくれたのが
ラストの立ち回りの盛り上がり方である。

死にもの狂いで何かにとりつかれたように
追っ手と斬りあう菊之助の姿は一度見ただけではもったいないほど見事だ。
歌舞伎を彷彿とさせる凄い芸。
もういっぺん見たい。
亡霊たちの笑い声と拍手が聞こえてきそうな凄惨な殺しの場面だった。

怪談映画を見てやっと夏らしい夏を味わった。

2007年 監督 中田秀夫 脚本 奥寺佐渡子 原作 三遊亭円朝
撮影 林淳一郎

*映画の中のイイおんな:
黒木瞳:歌って踊れてえくぼもある、今最も旬な
大人の女。ほっそりとした体に着物がよく似合う。
親子ほど年が離れた恋人役をやってもちっとも不自然でないところが
すごいわ~~

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「南の島に雪が降る」

2007年08月21日 | ★人生色々な映画
今まで見た古今東西の
戦争映画の中で一番素晴らしい映画。

過激なシーンがほとんどないのに
戦争の不条理、異常さがひしひしと伝わってくる。
体験を元に、原作者加東大介が自ら演じているので
リアリティがある。

舞台はニューギニア、マノクワリという地区。
食料も乏しく、疲労困憊した
兵士の戦闘能力はもはやゼロだった。
そんな状況下、士気を高め兵隊を元気付けるために
演劇部隊が作られることになる。
加東軍曹(加東大介)、前田一等兵(西村晃)ら
元プロの役者が中心となって
開催されたオーディションには
腕に覚えのある面々が続々と詰めかける。

有島一郎、桂小金治、伴淳三郎など
芸達者たちの一芸披露が見もの。
美術、結髪、脚本家なども集まり準備万端、
わくわくするような展開だ。

そして遂にやんやの拍手の中で手作り劇場
「マノクワリ歌舞伎座」の幕が開く。

劇中劇のクオリティの高さはもちろんだ。
姉の沢村貞子が言うところの、
「生まれ着いての役者」加東大介の真骨頂を見ることが出来るほか、
伴淳の至芸やめったに見られぬ西村晃の色っぽい女形、
有島一郎のおとぼけ演技がこたえられない。

ホントに得した気分。

他にも
小林桂樹、三木のり平、渥美清、森繁久弥、フランキー堺、など
よだれが出そうな?役者が次から次へと登場する。

森繁の「五木の子守唄」は哀愁漂って万感胸に迫りすぎるほど。
個人的には三木のり平の爆笑一芸も見たかった!

故郷を思い出し涙するもの、女形の役者にすがりつくもの、
みな戦時下と言うことをすっかり忘れているかのようだ。

戦闘シーンを映すばかりが戦争映画ではないということを
教えてくれる。
全世界の人に見て欲しい作品だ。

タイトルの意味を知った時
思わず涙がちょちょ切れた。(古)
水も食料も無きゃ死んじゃうけど
人間だからそれだけじゃないんだよ~

「硫黄島・」より良かった~~~
原作も読むぞ!

1961年 久松静児 監督作品
原作 加東大介 脚本 笠原良三
撮影 黒田徳三 音楽 広瀬健次郎 美術 小島基

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