邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「泥の河」

2006年05月30日 | ★人生色々な映画

無邪気だった子供の時はもう無い。
性の匂いをかすかに嗅ぎ、
人の生死を目の当たりにし
友と別れて
少年は生きていくことの悲しみを知る。

子供が、嫌でも大人になっていかざるを得ないように
人々の心は置き去りになったまま、
時代は激しく移り変わる。

馬車からトラックへ、
「もはや戦後ではない」という新聞の見出しに見入る父親(田村高廣)の目は虚ろだ。

少年の目には動物も人間も等しく、
この世に生を受けた存在だ。
「おじさんは馬に復讐されたのだ」
荷車の下で死んだおじさん(芦屋雁之助)を見て
信雄がそう言っているように私には思えた。

突然船から消えた老人は、
「でっかいお化けのような鯉に食べられてしまった」・・

メルヘンチックな幻想だけど、そこには得体のしれないもの、
自然への畏怖がこめられていると思う。

蟹のエピソードは強烈だ。

母親の「仕事」、きっちゃんの「暗い遊び」を見た信雄。

ラストはまるで拷問ですね。
音楽も適所に入るわで。こらえきれずに涙が・・

目を見張るほどに美しい加賀まりこの登場とか
藤田弓子の裸とか、チラッとしか出ない殿山泰司とか、
田村高廣さんの皺とか、すべて心憎いです。

私論ですけど「Always 三丁目の夕日」の子供は
この二人をモデルにしていると思った。
(まったく異なりますが)


祭りの後、途方に暮れて家路を急ぐ姿が
三丁目の二人にかぶったが、
この映画の子供たちの面構えのすごさには参った。
銀子ちゃんの、諦めを知った瞳が哀しすぎる。

お化け鯉は今も悠々と泥の河を泳いでいるのだろうか?

1981年 監督 : 小栗康平  
原作 : 宮本輝 脚本 : 重森孝子 撮影 : 安藤庄平 音楽 : 毛利蔵人
美術 : 内藤昭

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「白と黒」

2006年05月27日 | ★人生色々な映画
「あんたなんて、男妾じゃないの!」
こんな言葉を吐きかけられた男は
女に飛びかかっていく。
寝室で仲代達矢が淡島千景の首を絞める衝撃の幕開け。

な~んだ、犯人がわかっているのだなと思わせといて・・凝った構成。
なんといっても脚本が橋本忍ですから、すんなりといくわけがありません。
目をそむけたくなるような衝撃の冒頭シーンから始まり、
一転、二転、三転する内容に翻弄される。

白か黒か。有罪か無罪か。
線の細い青年弁護士を演じる仲代の渾身の演技も見ものなら、
事件を追いかける検事(小林桂樹)の熱気にも圧倒される。

登場人物の心の奥まであぶりだしていくサスペンスタッチの作品。
メインの二人に加えて
井川比佐志の世を拗ねた悪党ぶりがよかった。

大宅壮一、松本清張が出演するなどのおまけもついています。

死刑廃止論、冤罪についても
考えさせられるが、やはり興味は謎解きに集中してしまう。

他に千田是也 三島雅夫 東野英治郎
山茶花究 大空真弓 乙羽信子 岩崎加根子 など。

冒頭に強烈なシーンを持ってくる手法が面白い。
写真は大詰め、小林に追い詰められた仲代の目が
こぼれ落ちそうになる迫真の場面!

1963年  堀川弘通
脚本 橋本忍 撮影 村井博 音楽   武満徹 美術 水谷浩

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「情炎」

2006年05月24日 | ★愛!の映画
衣笠+山本富士子のコンビによる、
新派の十八番といわれる「明治一代女」の映画化。

1955年..の 伊藤大輔監督版の木暮実千代もよかったけれど、
濃い!衣笠版も素晴らしかった。

勝新太郎が正統派の二枚目を演じていて違和感が少しあるが、
ドスを持っていない勝新も新鮮だ。

美しい日本家屋のしつらえや料亭の華やぎ、芸者の揃いぶみ、
芝居小屋の喧騒など華やかな見所がたくさんあるところに持ってきて
衣笠監督は
雪を降らせたり花びらを散らしたりと、空間さえも華麗に彩る。

うっとりとため息をついているうちに、雪が舞い散る中
三角関係による悲劇が起こる。
惨劇場面ですら美しいのも困ったものである。

衣笠作品は事件が起きるときのスペクタクル性、
はらはらドキドキの臨場感もすごい。

柳橋芸者の意地と男を想う女心が
嫌というほど伝わってくる山本富士子の名演技はさすがである。
お梅に横恋慕する、箱屋の巳之吉に船越英二が扮していて、
根暗で粘着質で意地が悪く、ストーカー体質丸出しのゆがんだ性格で大傑作だ。
(ぼろくそですみません)
伊藤版の単純でいちずな巳さん(田崎潤)とは
大違いでたいへん面白かった。

最初から最後まで完璧な衣笠世界が構築されている。

私は芸者姿(日本髪)が一番似合うのは
山本富士子だと思う。
「白鷺」を見て仰天したが、この作品を見て確信した。

1959年
監督 : 衣笠貞之助  原作 : 川口松太郎
脚色 : 衣笠貞之助 / 相良準
撮影 : 渡辺公夫 音楽 : 古関裕而
美術 : 柴田篤二

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「お琴と佐助」

2006年05月23日 | ★愛!の映画
先日から日本映画専門チャンネルで
衣笠貞之助特集が組まれている。

衣笠監督の世界は
一言で言ってしまえば「濃い!」
作品をひと目見れば、監督の研ぎ澄まされた美意識が
画面の隅々にまでいきわたっていることに気づくだろう。

カメラの構図、色の組み合わせなども絵画的だ。
着物の柄は言うまでも無く、ふすまの模様までも美しい!

「山本富士子」という女優を得て、
妖しいまでの美の世界を作り上げることに成功している。

原作は谷崎潤一郎の「春琴抄」。
これが映画化三作目だという。

盲目の琴(山本富士子)には、
使用人の佐助(本郷功次郎)が片時も離れず付き添っていた。
気性の激しい琴が、
佐助に厳しく三味線の稽古をつける場面が
サディスティックでドキドキものです。
佐助も佐助で、琴にバチで突かれても
「おっしょうはん、嬉しいです。もっと突いてください」なんて
言ったりなんかするのであった。
!!!

だが二人の間には
主従の関係が厳しく保たれているので、
決して、決していやらしくなんかはない。
邪心を持って見ているものが、どきどきするだけなのである。
誰がなんと言おうと思おうと、
二人だけの稽古は朝方まで続くのだった・・・・・・・

そんなある日、琴は何者かに
熱湯をかけられて美しい顔に大やけどを負ってしまう。

究極の愛の形が示されている。
「閉所好き」の方にもたまらないであろう。
(・・なんのこっちゃ?!)
むせ返るような香気で息がつまってくるようだ。

山本富士子は目を閉じていても絶世の美女である。
勝気で自尊心の強い琴の心情まできめ細やかに演じ
満開の牡丹の花のような存在感を見せる。
彼女は女形出身の衣笠監督にとって、理想の女なのかもしれない。

この映画も放送禁止用語だらけなので
地上波では「ピー」だらけになってしまい興ざめであろう。

1961年 監督 衣笠貞之助

脚本  衣笠貞之助
原作  谷崎潤一郎 撮影  村井博 音楽  斎藤一郎
美術  柴田篤二

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「喜劇駅前飯店」

2006年05月21日 | ★痛快!な映画
フランキー堺、森繁久弥、伴淳三郎、三木のり平、
そして山茶花究が、横浜中華街を舞台に繰り広げるドタバタコメディ。

女性陣は淡島千景、淡路恵子、乙羽信子。
喜劇が上手い森光子も出ている。

特別ゲストとして王貞治さんが
台詞は棒読みだけど華を添えている。

突然剣劇は入るわ、脈絡も無く森繁が香港に旅立つわで
はっきり言ってストーリーは破綻一歩手前だ。
だけど
めちゃめちゃ面白いのは芸達者揃いによる
中国語訛りの日本語合戦!
フランキーVS森繁、森繁VS山茶花 のり平VS伴淳と、
ライバル同士の舌戦が相乗効果を生み、
スリル満点の中で思いがけない妙技が編み出される。

おなじみメンバーだから間合いもぴたりと合う。

「アナタここにいる。ワタシてかける。
アナタ残るのことよ。ワタシ気分悪いのこと。」

「このふ、ふ、不良~!このチンピラゴボ~~!!」

全編この調子が続くので、
今では地上波放送不可能な内容。
げらげら笑って
観終わる頃には彼らのアクセントがうつってしまうでしょう。

60年代は社長シリーズと駅前シリーズが
交錯するという、大変賑やかな時代だった。

1962年
監督 .  久松静児
脚本 長瀬喜伴 撮影 黒田徳三  音楽 広瀬健次郎
美術 .小野友滋

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