邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「怪談:皿屋敷」(第5話)

2008年08月31日 | ★恐怖!な映画
キーワード

家宝の皿(10枚セット)
井戸
町奴

日本人なら誰でも知ってる(はず?)の
皿屋敷の話は姫路が舞台だとか江戸の番町であるとか
色んな説があるようだ。
歌舞伎では
「お菊が殿様の愛を確かめるためわざと皿を割る」という、
全く違う話であった。

怪談では「いちまい~~にまい~~」でお馴染み。
こちらは江戸が舞台で
今まで見た「皿屋敷」ものの中では
一番怖いと思う~~~

それはお菊役が凄いから。
お菊(波野久里子)は町奴の頭(島田正吾)に育てられた娘、
芯が強い。

なので
生きていても死んでしまっても
殿様に立ち向かって行くのである。

お菊が
井戸に吊るされ、打たれる場面が執拗に長い。

お化けになる前の
お岩さんも怖いが
お菊が
サディスティック殿様に
責められても責められても
不敵に笑う顔の凄まじさといったら
殿様でなくてもゾオ~~~~!!
その凄みに圧倒されて
井戸に投げ込んでしまうのだが
ここですでに殿様は負けているのである。

これまでの怪談は
すべて「金」が災いの元であったがこちらは
殿様の嫉妬が元凶だ。
お菊には思う男がいたが
横恋慕した殿様に一服盛られて殺されてしまう。

嫉妬に狂った殿様と、
権力に屈しない気丈な娘の組み合わせが
サイアクの結果をもたらしたのである。

新国劇の長、島田正吾がびりりと締めているが
やっぱり主役が素晴らしい。

現勘三郎の姉さん、名優17代目勘三郎の長女
波野久里子という女優さんの凄さを思い知らされた作品であった。

教訓:割れ物には細心の注意を
井戸に人やものを投げ込むとろくなことにならない
嫉妬は己を滅ぼす  

注:
町奴とは
―江戸初期、旗本奴に対抗して、
はでな服装で江戸市中を横行した町人出身の侠客。
男伊達(おとこだて)。→旗本奴 (大辞林)


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「怪談:宇津谷峠」(第四話)

2008年08月26日 | ★恐怖!な映画
●キーワード

護摩の灰
大金を持った按摩
宇津谷峠
地蔵堂
鞠子宿

前々から怖い怖いと評判で、ぜひ見たかったこの話。
やっぱり怖い~按摩ものは怖い~~

「蔦紅葉宇津谷峠」として歌舞伎・文楽でも演じられている。
原作は河竹黙阿弥。

「日本怪談劇場」シリーズはハイクオリティな時代劇として楽しめる。
ただし
お化け付き~~~!!

江戸の風俗なども勉強になる。
ちなみに
キーワードの「護摩の灰」とは、

「―昔、旅人の姿をして道中で旅客の持ち物を盗み取ったどろぼう。
高野聖(こうやひじり)のなりをして、弘法大師の護摩の灰だといって
押し売りして歩いた者があったところからの名という」(大辞林より抜粋)

だそうである。

「盗っ人」「こそ泥」「物取り」「白波」など、一口に泥棒といっても
色んな呼び方があるものだ。

この護摩の灰は
冒頭からちょろちょろと登場する。
大金を持って旅をする按摩の懐を狙っていたのである。

伊丹屋十兵衛(御木本伸介)は旅の途中、
鞠子宿(東海道の宿場・今の静岡市駿河区)で
按摩の文弥(沢村精四郎:後の沢村藤十郎)と同宿になる。

宿場の旅籠って相部屋だったのですね。
見知らぬ同志が枕を並べるなんて、
物騒な今のご時勢では考えられない。
のんびりしていて趣がある。

当然セキュリティなどという言葉も無い時代、
寝静まった頃按摩の財布を狙って護摩の灰が出没。
盗人は何も取れずに逃げたが按摩が金を持っていることが知れる。

親切心から文弥を難所の宇津谷峠を越えるところまで
送っていった十兵衛は
文弥が座頭の位を取るため百両の大金を持っていることを知って驚愕する。
ちょうど自分も
主人のために百両要るので貸してくれと頼むが拒否され、
いきなり豹変!
峠の地蔵堂の前で斬りつけ、金を奪って崖から投げ落とす。
ここが最大の見せ場である。

十兵衛の心に悪が芽生えると同時に
目の下のクマがどす黒くなるメイクが怖い。
はらはらどきどきする展開が見事である。

逃げ惑う按摩がばっさり斬られた姿は無残この上なし!
腰が低く丁寧な言葉使いがよけいに哀れを誘い
自分が斬ったわけでもないのに後味サイアク

黙阿弥の原作らしく、
因果は巡って文弥の姉(藤田佳子)を知らずに妻にした十兵衛。
文弥の恨みは強く、その怨念によって自滅する。
伊吹吾郎がさわやか与力役でちょい出。

御木本伸介の
善人が悪人に劇的に豹変する瞬間、
亡霊の出現に怯える姿、魂が抜けた表情は見事である。

怪談はお化け役ももちろんだが、
亡霊に恐れおののく役のほうも大変重要であると悟った。

教訓:「金を持っている」と公言するとろくなことはない
    按摩を殺すとやっぱり祟る


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「牡丹灯篭:蛍火の巻」(第三話)

2008年08月24日 | ★恐怖!な映画
●キーワード:

潮来
水辺
仏像
瞽女親子
啖呵
憑依


牡丹灯篭は二部構成。監督は中川信夫。

後編「蛍火の巻」は、
新三郎を殺め
女房と共に潮来へ高飛びした伴蔵(戸浦六宏)の悪にターボがかかり
暴走し自滅するさまが描かれる。

不思議な因縁に導かれるように
お露の継母お国(長谷川街子)、その愛人、
悪徳医者(名古屋章)、
お露たち亡霊も一緒に流れてきて
舞台は江戸から潮来に移る。
「蛍火」とあるように季節はやはり夏。

スター俳優が出ていないのに、
脇役役者たちの上手い芝居でぐいぐい魅せられていく。

戸浦六宏名古屋章との悪党対決や
長谷川街子との大人な絡み、
寅さん真っ青の啖呵で相手を圧倒する「はったり」シーンなど、
おいしい役柄で六宏ファンは必見。

真っ赤な空の色や
不気味な沼地のセット等美術も素晴らしいが
亡霊は面と向かっては出てこない。
蛍が舞う水辺を歩むお露、謎の瞽女親子は不気味に
象徴的に登場する。

伴蔵の妄想の産物なのか、
悪党にほんの少し残った良心が
亡霊を生み出すのだろうか。

戸浦六宏と名古屋章の悪党コンビが
川くだりをしているときに
櫓にひっかかる伴蔵女房(阿部寿美)の水死体が
リアルすぎてマジキモイ。
浮かんだり沈められたりして阿部寿美さん、オツ。

教訓:因果応報
   欲は身を滅ぼす

時代劇専門チャンネルにて

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「怪談牡丹灯篭:鬼火の巻」(第二話)

2008年08月20日 | ★恐怖!な映画
「鬼火の巻」と三話「蛍火の巻」からなる

●キーワード:
灯篭
下駄
長屋
お札
強欲夫婦
亡霊との取引

おなじみから~んころ~んの牡丹灯篭だが
山本薩夫版とは
筋書きが少し違っている。

夏の夕暮れ時。
空はどんよりとした血の色である。
ボウフラが浮き
猫の屍骸が浮かんでいるような
澱んだ沼の側に立つ貧乏長屋。
あたりには
夏草がぼうぼう生い茂っている。

汗まみれの営みも若い男女の逢瀬も
隣に筒抜け。プライバシーゼロの環境を
セットが見事に表現している。
まるで舞台を見るようで
平成から
一気に江戸の夏にタイムスリップ!

前編「鬼火の巻」は
浪人の新三郎(田村亮)の元へ
亡霊となったお露(金井由美)とお付女中が通ってくるまでの話と
隣の悪党夫婦が亡霊と取引をしてお札をはがすまでを
描いている。
中川信夫監督のテンポのいい演出が冴え
美術、そして幽霊の造形が素晴らしい。

お露さんは「呪怨」の俊雄くんみたいな白塗りで
真っ黒な目だけがほら穴のように強調されている。
寂しげで美しいが、明らかに生気は無い(当たり前ですね)。

伏目で黙って座っているだけの幽霊というのは
黒澤明の「蜘蛛巣城」の千秋実も
そうだったように
動き回るヤツよりもリアリティがあり
哀しく恐ろしい。

それと対照的に生きているものは
ギラギラと過剰な精気に満ち溢れている。

お色気むんむんのお露のまま母(長谷川待子)、情夫の大塚国夫
戸浦六宏とその妻、阿部寿美のエロエロ悪党夫婦、
名古屋章のいかにも小ずるそうな医者など充実!

山本版と違うのは
新三郎は亡霊に獲り殺されるのではなく
欲に目がくらんだ隣人の戸浦六宏に殺されるという点だ。
中川版はお露新三郎のラブストーリーのみではなく、
色と欲が絡む群像劇なのである!

教訓:●亡霊と取引するとろくなことは無い
     ●お札は「貼るもの」で、はがすとろくなことは無い


時代劇専門チャンネルにて

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「怪談;蚊喰鳥」

2008年08月19日 | ★恐怖!な映画
じとじとと降り続く雨に
お化け効果音。
おどろおどろしいタイトルロゴ。
これぞ正統派怪談だ!

遊園地のお化け屋敷が苦手な人には
拷問のようなシリーズかも!
出演者も豪華絢爛で見ごたえ十分だ。

王道まっしぐらの出だしを見たら
せっかく全作品放送されるのだから
「怪談研究家」としては(あくまで自称)
ただ怖がるだけではなく物語に散りばめられた「キーワード」と、
現代人が怪談から学べる
教訓」を掘り下げ、
日本の怪談の魅力を徹底的に追求したいと
思いました。

えっ、偉そう~~~

さて
「怪談蚊喰鳥」

キーワードは、
 蚊帳の中で横たわる長襦袢美女
 按摩 
 マザコン小悪党
 井戸
 墓
 金
 悪婆
 按摩笛
 である

長屋で臥せる盲目の兄には恋焦がれる女がいた。
兄を看病する同じく盲目の弟を
佐藤慶がひとり二役で熱演。
兄弟はそろって按摩だった。

かなりの金を残して死んだ兄の意向を伝えようと、
弟は女の家を訪ねていくが
女にはヒモがいた。
女と男は按摩を色仕掛けで騙すことに。

江戸情緒あふれた夏のしつらえもみどころ。
ほとんど舞台は家の中だけなのに
しっとりじっとりとした夏の気配が伝わってくる。

最初おとなしかった按摩は女をものにしてから
だんだん態度が大きくなり
亭主面をするようになる。
不気味なことにその顔には
兄と同じ大きな痣が出現していくのだった。

この後当然修羅場があるのですが
腕力も無い按摩の強力な武器
それは
異常なまでの「しつこさ」であった!

女の抜け毛を集めて
大事に持っていた兄按摩の執念も薄気味悪いが
ヒモに半殺しにされても
血まみれで立ち上がってくる弟按摩のしぶとさには怖気だつ。

津川雅彦
軽妙な味がある色悪ぶりに
三浦布美子がまた江戸風味のいい女で、
浮世絵から抜け出してきたような着物の着方、
仕草、台詞、全部が抜群に色っぽい。
「常磐津の師匠」といったらこんな女でしょうが
なんといっても
佐藤慶の粘りつくようなべたつき演技には驚愕!!

嬉しいことにどんでん返しも
用意されており、ドラマとして秀逸。
タイトルの蚊喰鳥は蚊を喰う鳥、蝙蝠のことだそうです。
「たっぷり血を吸った蚊をさらに喰おうという強欲な鳥ら」という意味でしょうか。

浅ましさ愚かさ生(性)への執念
罪深い人間の業がこまやかに演出されている。

教訓:●業つくばりの人間は亡霊よりもおぞましい
     ●按摩を殺すと祟る

時代劇専門チャンネルにて

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