邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「夜の素顔」京VS若尾

2005年07月31日 | ★人生色々な映画
冒頭から
「地獄の黙示録」(?)のようなすさまじい爆撃シーンで
度肝を抜かれる。

並の女性映画とはスケールが違うと感じさせる導入部。

京マチ子が、終戦後どん底から這い上がり、
女の武器はもちろん、
ありとあらゆる手を使い
日本舞踊の世界でのし上がる女を演じている。

さらにその弟子の若尾文子
師匠の京を出し抜くという、
血で血を洗う?女の戦いが繰り広げられる。

こう書くと陰湿なバトルを想像させるが
深刻になりすぎず、ユーモアも漂わせて、
ぬくところはぬいているんです。

二大女優の火花がバチバチ飛び散るような演技は
ファンでなくても目が釘付けになるだろう。
こんなタフな役をやらせたら天下一品の
大映看板女優の二人!

こたえられませんなあ。

前世は絶対女だと思う新藤兼人の肉厚脚本と、
吉村監督の
メリハリの利いた演出が沢山の見せ場を作ってくれている。

中でも浪花千栄子と京マチ子の関西弁による
凄絶バトルは必見のど迫力!
この時京は、風呂上りの半裸姿!!!

また、中盤にはさまれる全国各地の踊り、
民謡の歌い手によるナマ歌も圧巻。
作品に厚みを加えている。

根上淳が京のマネージャー的夫に扮していて
軽い、いい味。
細川ちか子も堂々たる名演技を見せている。

京マチ子が
妖艶な魅力を振りまくかと
思えば
若尾の舞は可憐さでひきつける。

だが美女の微笑の裏に潜むのは・・?

めちゃめちゃ面白くて
色っぽい映画なのに
知名度が低いのは不思議。

あそうそう、「京マチ子にしか」似合わないというような
着物も沢山登場するのでそれらを見るのも楽しい。

出演:京マチ子、若尾文子、細川ちか子、
浪花千栄子、根上淳、菅原健二、柳永二郎、船越英二・・・

1958年 吉村公三郎監督作品 新藤兼人脚本

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「張込み」

2005年07月24日 | ★人生色々な映画
切ないです。

松本清張の原作を橋本忍が脚色。
監督は野村芳太郎。

老練の刑事(宮口精二)と若い刑事(大木実)が
東京から列車に乗り込む。

クーラーなど無かった時代。
真夏。額には汗がにじみ、落ちる。

窓を開け放たれた蒸気機関車は何処へ?

彼らは強盗殺人犯を追って
男の昔の恋人が住む九州に向かっていた。

二人は女の家の向かいにある旅館に宿をとる。

黛敏郎の無機的な音楽が効果的。

吝嗇な銀行家の後妻になり、つつましく暮らしている女
(高峰秀子)の一日をつぶさに観察する刑事たち。

「きっと男は来る」

橋本忍の脚本が素晴らしすぎる。
張込みという緊張の中で
二人の刑事の人となりをあぶりだしていく。

ラジオに興じる家族、銭湯の賑わい
市場など、人々の生活も描かれ
時代の色も伝わってくる。

若い刑事の心の動きが興味深い。

「あんな地味な女がねえ・・信じられない」
徐々に同情にも似た気持ちが芽生えてくるが、
だからと言ってハリウッド映画のように
女と手に手をとって逃げカーチェイス!などという
劇的な展開にはなりません。

派手な演出抜きで
ぐいぐい見せていくのはさすが。

犯人(田村高広)はおよそ極悪人には程遠いようにみえる。
そんなところもまたリアルで哀しい。
何かの歯車が狂って犯罪に手を染めてしまったのか。

「東京のことを話そうね。東京には何でもあるんだよ。
そこでボクは三年・・働いたんだ。」

高峰秀子が体をよじりうめくように泣く声は
哀切極まりない。

サスペンスタッチの中に
普通の人々の悲しみを描いて、
汽笛の音と共にいつまでも心に残る。

1954年 野村芳太郎監督作品 原作 松本清張 脚色 橋本忍 音楽 黛敏郎

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「座頭市物語」

2005年07月22日 | ★ぐっとくる時代劇
花見に浮かれる人々。

傍らで異様な手の動きが映し出され、
客の肩を按摩する市の姿が我々の眼に飛び込んでくる。
これが伝説のヒーロー「座頭市」の
シリーズ第一作目の冒頭だ。

ここに入ってくる伊福部昭の音楽ですが、

異常です。

オーケストラに不協和音のように入る三味線で
神経逆撫で。
ダイナミックで不穏な響きを持った旋律はずば抜けて個性的。

だけどそれが修羅の道をゆく
座頭市にぴったり合う。

荒野をぶざまに這いずりながら進む市に。
目にもとまらぬ速さの居合い抜きの後、
静かに仕込み刀を納める市の後ろ姿に。

「ゴジラ」で有名な伊福部昭だが
座頭市シリーズはもとより
眠狂四郎シリーズなど時代劇でも
印象的な伊福部節を撒き散らしていることを忘れてはならない。

この作品は最近の派手なアクション映画を見慣れた目には
「地味で暗く」映るかもしれない。

だが!!

私はこの枯淡とも言える硬質な美学に傾倒する。

市と友情を交わしながらも戦わざるをえない、
平手御酒(天知茂)の虚無、端正なたたずまいも秀逸。
そして市のストイックな生き様にしびれるものである。

以前テレビで放映されたとき、
台詞が「ピー」だらけになって
「こんなんだったら放送しないでくれよ」と思う反面、
「こんなにまでして放送してくれて・・」と
複雑な気持ちになったものです。

それほど差別用語といわれる言葉は多いが
その台詞を抜いてはこの作品は鑑賞出来ないことも事実。

名脇役、柳永二郎が剛毅な親分を演じているのも見逃せない。
その流麗で見事な台詞は、
一字一句聞き漏らしたくない「本物」の味わいがある。

この作品後、シリーズ化され
エンターテイメント性が増し、
大スター「座頭市」が作られていく。

出演:勝新太郎、天知茂、柳永二郎、三田村元、島田竜三、万里昌代・・など

1962年 三隅研次監督作品 原作 子母沢寛  脚色 犬塚稔 美術 内藤昭 撮影 牧浦地志 

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「姑獲鳥の夏」

2005年07月20日 | ★妖しい映画
実相寺監督のアクがほどよく抜けて(抜かれて)いた。
「帝都物語」のようなグロ描写や
「D坂の殺人事件」のような成人向け描写はまったくなく、
もちろんATG時代の観念的なイメージも抜けていて、
さすがメジャー映画という作り。

おなじみ池辺晋一郎の
音楽が緊張感と妖しさを盛り上げる。
これはまんま「D坂」でした。

20ヶ月もの間妊娠している女性・・
一向に出産する気配が無いという。

古い病院の周辺に奇怪な事件の噂が巻き起こり
伝説の姑獲鳥(うぶめ)のイメージがかぶる。

皆が期待するところの池谷仙克の美術は、予想通りの見事さだった。
障子を使った美術、京極堂の書庫や家のしつらえは
たまらなく美しく、書斎をあんなふうに・・と思った人も多いと思う。
(私だけですか)

中堀正夫のカメラも斜めになったりぐるぐる回ったりと
相変わらずごっつう凝ってまっせ!

ビジュアルでは「漢字」の美しさもあらためてカンジた。(駄洒落)
そして最初と最後に映し出される白黒写真の数々は昭和好きの涙を誘うだろう。
随所に散りばめられたレトロなかほり、遊び心も。
ムード作りは完璧だ。

しかしながら、疑問は多い。

謎解きの説明(語り)の合間合間に
イメージショットがフラッシュバックする
という手法はどうでしょう?
筋は芝居はいずこへ?

映像化不可能と言われている原作に遠慮したのでしょうか?

永瀬正敏は鬱気味の関口君を癖が無い演技でこなしていた。
反対にクセがある松尾スズキは主張しすぎで空まわり・・。

牧朗は「子なきじじい」のようでいいのか?
木場(宮迫博之)はあんなにガラが悪くていいのだろうか?
原田知世は綺麗だけど、いいのか。
時々見られた演劇的な演出は効果的なのだろうか。
いしだあゆみをアップで抜いていいのか。

なぞは深まった・・・。

いしだあゆみは
テンション高く「怪鳥」のようだ。

そんな中、実相寺監督の奥様である、
ベテラン女優原知佐子がちらっと出てくるが
きっちりとした芝居でほっとする。

京極夏彦が
傷痍軍人(水木しげる)に扮してかなり画面に露出していたが
どうせ出るなら
京極堂を演じたらいかがだろうか?

ご自身が演じられた方が説得力が出るのではないだろうか。
あの長い薀蓄を自分の説として語るには堤真一でなくとも
たいへんな演技力が要りそう。

TVインタビューでは「京極堂」=自分自身
は否定されていたが。
「ボクはあんなにイヤなやつじゃありませんから・・」とは
おっしゃっていたが。

ぶっちゃけた話、最初から最後まで
京極堂が喋り続けていましたからね。
かなり思い切った脚本だと思いました。

英語の字面は単純明快。
耳にも心地よい言語だけど
我々の話す日本語、
そして漢字ひらがなカタカナ、
縦書きの文字は
西洋圏の方々にとってみれば脅威の神秘性を帯びていると思う。

もっと誇りを持って日本語を喋り、書いていきたい。
と、あらぬ方向に私の粗忽頭のベクトルは向いていった。

本当に
この世に不思議なことは何もなかった。

2005年 実相寺昭雄監督作品 美術 池谷仙克 撮影 中堀正夫 脚本 猪爪真一

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「社長洋行記」

2005年07月17日 | ★痛快!な映画
貼り薬「サクランパス」がメイン商品の
薬品会社の社長に森繁久彌、
以下秘書に小林桂樹、
部下に
加東大介、三木のり平。

おなじみのメンバーが
それぞれに持ち味を十二分に発揮し
期待を裏切らない出来の19作目。

今回は海外進出!ということだが
壮行会の宴会シーンに
またまた爆笑!
三木のり平の宴会芸に
噴き出さない人はいないだろう。

森繁の「酔っ払い演技」も、見もの。

いよいよ渡航となり、
洋行初体験の加東が飛行機の中から
すでに「日本人のお父さん丸出し」。

森繁の絶妙な間合いの台詞に、
どっか~んとかましてくる
三木のり平のメガトンギャグ。

受ける小林桂樹の可愛らしさ。

それに加え加東大介の練り上げられた
粘っこ~い芸が絡むのだから
もう
言うこと無し。

やり手のレストラン経営者、
新珠三千代は
非日常的な美しさと
ちょっとビブラートがかかっているような
独特の声で魅了する。
社長夫人役の久慈あさみと共に
シリーズには欠かせない女優さんのひとりだ。

社長シリーズは元々華やかで
洗練された味があるんですが
今回は
香港の大スター尤敏や洪洋(台湾) も
ゲスト出演して、
ゴージャスさが増している。

香港の空港について出迎えるのが
でたらめ香港なまりのフランキー堺。
この人が出てくると、いつ何をやるか
わからないのでスリルがある。
瞬発力があるのです。

さあこれから!というときに
唐突な終わり方だったのが
あれえ?だったが
すぐに「次、行ってみよう!」と思わせる抜群の面白さ。

1962年 杉江敏男監督作品 脚本 笠原良三

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