邦画ブラボー

おすすめ邦画(日本映画)のブログ。アイウエオ順(●印)とジャンル分け(★印)の両方で記事検索可能!歌舞伎、ドラマ感想も。

「悪の階段」

2006年03月31日 | ★ハードボイルドな映画
悪の「気」が充満している。

なにしろ登場人物五人全員が悪人なのですからして。

大会社の金庫破りを企てる
クールな岩尾(山崎努)、凶暴な下山(西村晃)、
小心モノの小西(加東大介)、金庫破り技術屋の若造熊谷(久保明)、
岩尾の女ルミ(団令子)、5人組の悪党。

まんまと大金をせしめたものの、
岩尾の指示で半年は金に手をつけない約束を取り交わす。
金の隠し場所は荒れ地に立った
不動産屋の地下室(美術は成瀬監督作品でもおなじみの中古智)だ。

アップを多用し、細かな表情を巧みにとらえるかと思えば、
荒地を舐めるように這い、一軒家を不気味に浮かび上がらせるカメラは
ホラー:「死霊のはらわた」(サム・ライミ)を思い出させる。

団令子の冷たい瞳、頭脳明晰な山崎努と冷酷な西村晃。
凄みのある表情が白黒画面に映える。

地下室で繰り広げられるおぞましい惨劇も
ホラー映画さながら。
西村晃は殺人モンスター化してますし。

大金を手にしたら一刻も早く自分のものにしたくなるのが悪人のサガ。
色と欲にまみれ仲間割れしていくのだが、
練られた脚本が先を期待させる。

おどろおどろしいばかりでなく
洒落たタッチで流れる音楽がフランス映画のようでもある。

余計なことは言わない、しない女・団令子が怪しく美しい。
全員の持ち味生かしたキャスティングも素晴らしい、傑作。

監督   鈴木英夫 脚本 鈴木英夫 原作 南条範夫 撮影 完倉泰一
音楽 佐藤勝 美術  中古智

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松本清張の「遠い接近」

2006年03月28日 | ★人生色々な映画
戦局も悪化していた頃。東京。
年老いた両親や妻、小さな子供を抱えた働き盛りの職人(小林桂樹)に、
ある日徴兵命令が来た。

昔胸を病んだこともあり、免れるだろうと思っていた矢先のことだった。
つつましく暮らす家庭を襲う大きな不安。
おじいちゃんが笠智衆、吉行和子が夫の身を案ずる妻。

あれよあれよという間に本入隊が決まり、
市井の生活とは異なる軍隊での生活が始まる。
平凡な男のとまどいが痛いほどに伝わってくる。

古参の兵隊(荒井注)の暴力にも黙々と耐える日々だったが、
ふとした折に「赤紙」は役人によって不公平に発行されていることを知る。

一方、大黒柱を失った家族は縁故を頼って東京を離れるが、
8月6日、疎開先の広島に原爆が投下される。
終戦。

男は恐ろしい執念で赤紙発令に携わった役人(下元勉)を探し出す。
完全犯罪をもくろんで遂に復讐を遂げるのだが・・

赤紙がきたばっかりに一家を全滅させてしまった・・・
小林桂樹が家族を失い怒りに燃える男を演じている。

「不公平」に対しては
人間諦めがつかないというか、怒りが強くなるものなのでしょうね。
まして家族が全滅してしまったなら・・
神経逆撫でされた主人公は攻撃行動に出る。

中条静夫がいかにも辣腕刑事らしく
理路整然と小林を追い詰めていく過程に緊張感がありました。

松本清張は「闇市の復員兵役」で出演。
ヒッチコックみたいに
どこかに出ているのを探すのがこのシリーズの楽しみになってしまった。
何処にいてもすぐみつけられるのがやはり清張さん。
台詞を喋るとずっこけるけど、ルックスは俳優としてなかなかいけると思う。

芸術祭優秀賞受賞作品

この作品も面白かったので「ドラマ特選」コーナーに入れました。

1978年 原作 松本清張 演出:和田勉

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松本清張の「愛の断層」

2006年03月24日 | ★人生色々な映画
風邪をひいてしまったので、
毛布をかぶって清張ドラマを見る。

ホモセクシュアルな香りさえ漂う、
堅い絆で結ばれた男たちの間に入った女は・・・

銀行の支店長沖野(平幹二朗)は上司の桑山(中谷一郎)に
女(香山美子)を横取りされてしまう。
彼らは大学時代、先輩後輩の仲だった。

心の隙間からすっと入り込む悪を、
絶妙に描く清張ドラマは
どれもハズレが無い。
これも
ロケなんかしなくても面白いドラマはいくらでも撮れる
という見本のような心理劇。

仲のいい二人に
「モノ」のように扱われて唖然とする女を
香山美子が手堅い演技で見せる。

「人間の運命というものは、
いつコロリと変わるかわからないですよ・・」
彼らを翻弄する海千山千の私立探偵(殿山泰司)の台詞だ

どこか「笑ゥせぇるすまん」を思い起こさせる、ブラックな物語だった。

平幹二朗が普通の男を演じているのですが
いつ何をするのか!?と思い、目が離せませんでした。

それと松本清張が、
「つり銭無いよ」と粘るタクシーの運転手に扮していて大ウケ。

1975年 演出 岡田勝  原作 松本清張 脚本 中島丈博

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「天城越え」和田勉版

2006年03月23日 | ★人生色々な映画
「あの日、どんなことが待っているか知っていたら、
女も土工も私も天城を越えようなどとは思わなかっただろうに」

宇野重吉の回想から始まる「天城越え」は当時油が乗っていた
和田勉演出ドラマの中でも珠玉の作品といえる。

有名な田中裕子主演の映画もよいが、
こちらは殺される側の土工、娼婦、少年、三人のドラマがあぶりだされ、
交錯している点で映画をしのいでいるかも知れない。

映画では、慕っていた母親の情事を目撃したことも
(「影の車」的でもあった)
動機のひとつとして示唆されていた。
が、ここでは動機をはっきりとは書いていないがゆえに
胸が詰まるような深い余韻を残す。
和田勉のすごいところだ。

松本清張ご自身が現場を目撃しながらも去っていく遍路役で出演している。

めった刺しにされた土工(佐藤慶)が、
よろよろとトンネルから出、
そよぐ木々と晴れ渡った空を仰ぐ。

彼の頭には何がよぎったのか。
幼い頃、父親に殺されかけ、虚無の人生を歩んできた男は
清張:「鬼畜」の子供が大人になった姿でもあった。

大谷直子はまぶしいほどに色っぽいし
鶴見辰吾はこの作品が今まで見た中で一番すごい。

「もう二度と会うこともないだろうけど、
私みたいな女のことを本気で思ってくれたのは、
にいさんだけかもしれない。ありがとうよ」

その言葉を聞いた少年の顔が忘れられない。

柔和な表情の中で時折キラリと光る目が恐い元刑事、
中村翫右衛門VS表情だけですべて表現する(し得る)宇野重吉の
重厚なシニア戦もみものだ。

深緑の梢、清流のすがすがしさを映し出すカメラ。
「にいさん」と呼ぶ美しい声、白いうなじ。

トンネルの向こうには違う世界が待っているのだ。

1978年第33回芸術祭大賞受賞作品。
原作: 松本清張  脚本: 大野靖子  音楽: 林 光 演出: 和田 勉

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「人間」

2006年03月17日 | ★恐怖!な映画
なんとも大変なものを見てしもうた~
金比羅さまにお参りせにゃいけん~~(殿山泰司の真似のつもり)

新藤兼人の映画はおっかなびっくりで見ることが多い。
目をそむけたくなるような人間の暗い部分を
これでもかと濃厚に描くからだ。

綿密に練られた脚本で物語に引きずり込まれ、
エネルギッシュな演出で釘付けにされる。
恐ろしいほどの執念に押し捲られる。
原作は野上彌生子の「海神丸」

登場人物はほとんど四人だけ。
嵐にあい難破した船の中。
限られた食料も底をついた生き地獄で
人間たちはどのようになってしまうのか・・・

刻一刻と弱っていく中で、慈悲深い船長殿山泰司
わがままで荒っぽい佐藤慶
か弱い青年山本圭、粗野な女乙羽信子の本性がむき出しになっていく。

暗澹たる場面を救うのは軽快なモダンジャズの調べだ。
これってジャズ好きの殿山泰司のアイディア?・・なんて思ってしまった。
この音楽がなければ見ているほうもどうにかなってしまいそうだ。

それと、殿山泰司の存在が無くても駄目だ。
この船長が三国連太郎だったら・・・
(シリアスすぎて)考えただけでも恐ろしい。

人間とはいったい・・人間っていったい・・・
タイトルはずばり「人間」。

人間であることを捨て、鬼になったのち、
良心の呵責に責めさいなまれるというテーマは
「鬼婆」でも描かれている。

最初から最後まで目が離せないが、特に終盤の展開が圧倒的。

1962年 新藤兼人監督 原作:野上彌生子
脚色:新藤兼人 撮影:黒田清巳 音楽:林光 美術:新藤兼人 

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