穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

図書館の老人1

2023-12-08 17:45:08 | 小説みたいなもの

図書館1
わたしは毎日の日課でJRのターミナル駅にあるデパートの食堂の一つで早昼を済ますと新宿区の図書館に行った。新聞閲覧所に行くと残っているのは東京新聞だけだった。後は誰かが見ているらしい。東京新聞を閲覧所のテーブルの上に広げてページをめくっていると「おはようございます」と声を背後から声ををかけられた。
振り向くとがっしりとした背の高い老人が綴じた新聞のファイルをたくさん手に抱えて入ってきた。なにか調べ物をしていたらしい。「すみません。独占しちゃって、ご覧になりますか」と言いながら「何をごらんになりますか。それとも全部お渡ししましょうか」
と聞いた。

「いいんですか。もうすんだんですか?」

「ええ、終わりました」と答えたので、「そうですね、今日はだれもまだいないようだから、全部おいていってください。」と私は老人にいった。
老人は向かいのソファに腰を落として、目が疲れたのか、しきりに閉じたまぶたの上から目を擦っている。
それを見ながら、なにか調べているのですか、と私が尋ねると
「ええ、ちょっとね」と言いよどんだ。
この老人は毎日相当時間、図書館で時間を過ごすらしく私か退職してから無聊に苦しみ図書館通いが日課のようになってから、いつからか挨拶を交わすようになっていたのである。

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