穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

7:星人の日本人統治法の一例

2021-01-06 08:39:37 | 小説みたいなもの

「お答えいたします」と甲はかすれた声で言った。

「実行犯はAカテゴリーからEカテゴリーにまんべんなく散在しております」

一座に驚きと懸念の声がさざ波のように広がった。「Aクラスにもいるのか」

特Aはどうですか、と丁が念を押して聞いた。

「特Aにはいないようであります」と甲が答えると出席した日本人の間に安どの声が広がった。彼らはみんな特Aなのである。

星人の統治方法は間接統治である。二千年前に地球を支配する前から彼らは将来の支配方法について検討していた。日本の歴史や民族性についても先行して日本に潜入していた特務員によって調べられていた。その結果、現在のような間接統治方法が採用されたのである。

 地球のキリスト紀元1945年、大東亜戦争に勝利したアメリカは間接統治方式を採用して大成功を収めていた。アメリカは意識的に日本の統治中枢を破壊せずに残したのか、はたまた偶然そうなったのかもしれないが、日本の官僚制度は敗戦時壊滅せず機能していた。アメリカはこの制度を活用した。いわば『背のり』をしたのである。これが極めて有効であったのを知って星人もこれを採用したのである。

 日本の敗戦の三か月前に壊滅したドイツでは国家の統治機構は完全に破壊されていたのに対して日本ではアメリカによる統治に使える国家組織が温存されていたのである。アメリカは戦前(キリスト紀元1945年前)にあった華族制度を廃止し軍備を解除したが、あとは若干の修正を加えただけであった。そして間接統治のかなめとして、GHQの直接下部機構として日本人の政治家や高級官僚を特Aクラスとしたのである。彼らのトップは日本人の首相であり、各大臣である。実質的には星人の構成するGHQに本当の実質的な首相や大臣がいるのであるが、表向き、日本人大衆には特Aクラスの人間が支配層のように受け取られたのである。

 以下Aクラスは上級公務員クラス、BCDEはいわば士農工商の復活版である。キリスト歴の19世紀に哲学者ヘーゲルは労働は疎外であると喝破したが、星人は疎外率の少ない順にBCDEを割り振った。したがってBクラスにはもろもろのいわゆる芸術家が割り当てられた。ただし、テレビなどのマスコミで働く人間は芸能人を含めて疎外度がはなはだしいので最下級のEクラスに分類されたのである。

 それで、と労働大臣が質問した。「各クラス間の実行犯の率は同程度ですか」

「そうですね」と甲は手元のリポートを見ながら首をひねっていたが、苦し紛れに「心持ちですが、階級が下のほうがパーセントは高いようですね」といい加減な答弁したのである。

「おもしろいね」と教授が呟いた。「そうすると地方のほうが実行犯の割合は少ないということになるかな。もっとも最近では農業も大規模化、機械化、産業化が進んでいるから都会の会社員とか工場労働者と労働疎外率はあまり変わらないかもしれないが」

甲はこれに対してなにか答えなければならないと思ったのか、しきりに報告書をひっくり返していたが「多少はその傾向があるようであります」といい加減な逃げをうった。