穴村久の書評ブログ

漫才哲学師(非国家資格)による小説と哲学書の書評ならびに試小説。新連載「失われし時を求めて」

ヘミングウェイがパリで交遊した人たち

2014-09-05 02:41:33 | 書評
「移動祝祭祭」には当時ヘミングウェイが交わった作家、編集者、評論家のことが出てくる。空間作家ヘミングウェイらしく画家との交遊もある。この本は全部で20章あるが、単発で出てくる人物あり、何回かにわたって出てくる人物がいる。

そんな一人が彼の最初のスポンサーと言うか師匠というかガートルード・スタインという年上の女性である。最後にはヘミングウェイ夫妻と交際が絶えるのだが、その理由がぼかして書いてあってよく分からない。彼女がくだらない男(
レスビアンの彼女だから女?)との交際でごたごたしたので嫌気がさしたようなことらしい。

出てくる人物はほとんどが奇人、変人として描写されている。年長の作家もあり、また彼と同様に出世前の作家などである。好き嫌いのはっきりしたバイアスのかかった記述が多い。

異例の詳細な扱いを受けているのが三章にわたって、いくつかのエピソードが描かれている年長の流行作家スコット・フィッツジェラルドである。夫人のゼルダとともに完全な変人として扱われている。

また、パリにあったシェイクスピア書店というアメリカ人だがイギリス人の女性の経営する店のことも複数の章で描かれている。修行中のあまり懐に余裕のないヘミングウェイに店の本を無制限に貸している。新刊本の書店らしいから、お客さんに売る本を貸本の様に、しかもただで貸すというのは感心しないが、金のないヘミングウェイは多いに助かったと書いている。

大体彼は女性のスポンサーに恵まれていたらしい。スタインにしろシェイクスピア書店の店主にせよ。また二番目の妻の実家は大変な金持ちで相当な援助も受けていたというし。シェイクスピア書店で借りた本にロシアの作家の翻訳本が出ている。ヘミングウェイは意外にもロシアの作家が好きであったようである。

文体のまったく違うドストエフスキーに感心しているのは意外だった。もっとも読むのに大分苦労しているようだ。「難解だがまた挑戦してみる」と友人に語っている。

トルストイの「戦争と平和」の戦闘描写に最高の賛辞を送っている。また、ツルゲーネフのことや、チェーホフの短編小説を絶賛しているのもちょっと意外だった。ま、若い彼は大変な読書家でもあったらしい。

書かれている交際していた作家には現在でも著名な大作家が多く、彼らの裏話として読んでも面白い。とにかく、バイアスのかかった書きかたをしているしね。