ベストテンの一位はフィルポッツの「赤毛のレドメイン」である。当然であろう。他にまともなのがないのだから一位にせざるを得ない。
フィルポッツは一般小説家あるいは大衆小説家として既に一家をなしていて60歳にして「赤毛」を書いたという。他の作品に比べて「小説」になっているのは当然である。
怪しげな記憶だが、アガサ・クリスティーがデビューの前に原稿を見せに行ったのがフィルポッツじゃなかったかな。
「赤毛」は小説としてまとまっていて、どちらかというとディケンズ風小説を思わせる所がある。また冒険小説的である。ギミックは総じて定番である。だが小説として破綻がない。
ただ結末の種明かしはよくない、テンポが。これはこの種の小説の宿命だろうか。だから最後の30頁ほどは読むのを止めた。すみません。それでも書評を書くのになんの差し障りもない。
恋に目のくらんだ敏腕刑事が調べあぐねていると、警察を引退した私立探偵が登場して解明する。小説の前半200頁以上はこの刑事が二つの「殺人事件」に振り回されるという話で比較的平凡な話を200頁以上にわたって退屈させずに読ませるのは小説家の腕の確かさの証明でもある。
最後はシェークスピア風の一人二役トリック、正確に言うと二人四役であり、そこが目玉だ。これってネタバレじゃなかっぺ。
更にいえば、記述トリックものである。もっとも素性の描写がない二人がホシである。読者はだからヒントの欠落と言うヒントに気が付かなければならない。