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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2022冬麗戦観戦記 2

2022年01月20日 | 俳句


夏井先生の解説と添削。

1位 片襷(かただすき)硬し 四日の 身を通す
【自 解】初めて選挙出馬したのが1月4日で、人生を賭けた大勝負だった。
片襷はビニール製で冷たく硬く身震いした。
あの時の緊張や決意を詠んだ。
【解 説】「四日」が新年の季語。1月1日から7日まではそれぞれが季語になっており、その日が俳句にあれば、他の月ではなく1月である。
「片襷」には3パターン考えられる。
ひとつは「まな板はじめ」のような新年の行事。次に「正月早々の選挙」。もうひとつ「駅伝」もあるが、2〜3日に行われる箱根駅伝は除外してよい。
まな板はじめ、弓はじめのような晴れの行事と俗な行事が一句の中に2つあり、なかなかの奥行きである。
「硬し」という感触、「身を通す」という映像でありつつ心情表現にもなっている言葉。
全部の言葉の質量が計算され、選び取られている。

2位 地球史の 恐竜遠し 炬燵の夜
【自 解】「人生ゲーム」は人の歴史。そこから地球の歴史を連想した。
子どもの頃、恐竜図鑑を見て2億年も前のことを思い、時間の遠さ、重さを感じた記憶がある。
【解 説】上五・中七で、これまでの作者なら「冬銀河」などの季語を添えて「雄大な句になった」「カッコいい俳句ができた」と満足していた。しかしそれでは全体が空想の俳句になってしまう。
「炬燵」の季語を選んだ成長ぶりにささやかな感動を覚える。
また「炬燵」を思いついても、これまでは「かな」を付けて安易な詠嘆をしてしまいがちだった。
「炬燵の夜」として、暖かい夜の知的で豊かな時間が表現され、地球史の膨大な時間と短い時間の対比もできた。
【私 感】今回、この俳句が一番好きだった。本当にメキメキ俳句の腕を上げている。

3位 嚔(くしゃみ)して スペードの位置 忘れたり
【自 解】ゲームをトランプにしてみた。
「神経衰弱」をして、伏せたカードの場所を憶えていたが、くしゃみをした拍子にどこだか分からなくなった思い出から。
【解 説】「嚔」という季語を上手に使っている。
スペードだからトランプとわかり、そう思った瞬間に「神経衰弱」のゲームをしているのだと理解できる。
書かないで分からせる言葉の力がある。
集中力が切れた瞬間が「嚔」に戻り、季語を立てている。
「して」と言うと、俳句で避けるべき原因結果の語り口になるが、この語順の方がリアリティが高く、因果関係を語っているようで邪魔にはなっていない。

4位 雪吊や 登校拒否の 吾と祖母と
【自 解】自分は「人生ゲーム」をやったことがない。子どもの頃長い引きこもりだったので当然である。
祖母が学校に行かない自分を連れて、金沢に旅行に行ったことがあった。
制服を着た同年齢の学生たちがいて、私服の自分と祖母で兼六園の雪吊りを見た。
樹木を拘束していそうで、でも縛って守らないと折れてしまう…、当時の自分の立場と重ねていた。
【解 説】読めば読むほど奥行きの深い句である。
評価が分かれるのが「雪吊」の季語が動くかどうかという点である。
しかし、この句ではそういう議論をしてはいけないと思う。
作者にとってこれは、抜き差しならない記憶の鍵であり、作者独自のリアリティが強く感じられる。
作者の体の中にある季語として評価できる。
【私 感】「季語が動く」とは、他の季語を用いても俳句が成立するのではないかということ。
夏井先生の「議論してはいけない作者の記憶の鍵」にグッときた。

5位 冬旱(ふゆひでり) 地図から消えた 村の数
【自 解】「人生ゲーム」から故郷の福島に発想を飛ばし、2011年の大震災を思った。
季語の「冬旱」で、地球規模で消えていく村があるのではないか。
【解 説】兼題写真からこういう句にいく発想の深さにハッとした。
「地図から消えた村」というのは、災害や戦争によってもあるかもしれない。
「村」とあるが、人が住めなくなった地域、国も示唆している。
しかし惜しいのは季語の選択で、この文脈では旱によってという因果関係が読めてしまう。
別のいい季語を探してみてはどうか。

6位 雪晴の転勤 ミニマリストの棚
【自 解】人生の転機から「転勤」を連想して詠んでみた。
「今年はより一層頑張ろう!」という決意でいろんなものを整理し、それを象徴するのは本棚ではないだろうかと思った。
【解 説】ミニマリストとは必要最小限の物で暮らす人のこと。
長い単語を持ち込んで果敢に挑戦しているのは褒めたい。
季語「雪晴」との取り合わせも前向きでいい。
しかし、物のあまりない棚とか、荷物の少ない転勤とかを書いて、この人物はひょっとしてミニマリストかもしれないというのを読者の感想として残しておいた方がいい。
添削 もの少なき転勤 雪晴の街へ

7位 裏漉す蕪(かぶ)や アドベントカレンダー
【自 解】アドベントカレンダーとは、クリスマスまでの日数をカウントダウンしていくカレンダーのこと。
子ども3人を育てており、乳児の離乳食を作りながら、上の2人がクリスマスを心待ちにしている暮らしを詠んだ。
【解 説】長い言葉を一句に落とし込んでいくのは本当に難しいが、よく挑戦した。
もったいないのは前半。裏漉しの調理だと介護食、病院食などの可能性も考えられる。
アドベントカレンダーはまだ歳時記にはないが、いずれなるかもしれない。
強い季節感があり、従って主役となるべき季語の「蕪」が脇役になってしまっている。
いっそ蕪を使わず「離乳食」としてはどうか。そうするとクリスマスのワクワク感と合って、親子のイメージ、そして聖母マリアのイメージが沿ってくる。
添削 離乳食煮て アドベントカレンダー
【私 感】聖母マリアのイメージまで沿わせるとは、さすがの添削。

8位 あざ笑う 鬼の顔ある 歌留多かな
【自 解】ボードゲームから連想して、お正月の遊びのかるたで詠んでみた。
上方のいろはかるたの「ら」は「来年のことを言えば鬼が笑う」で、思案する人とそれを笑う鬼が描かれていた。
【解 説】「顔ある」が少々説明的。それを映像に替える工夫をした方がいい。
例えば鬼の絵がどんな色だったかの描写にしてはどうか。
添削 あざ笑う 鬼の絵赤き 歌留多かな 

9位 寅の尾を 目指す迷路よ 年賀状  
【自 解】人生ゲームから「迷路」に発想を飛ばした。
子どもの頃、手描きの年賀状にして、干支の寅の体に迷路を書いて尾をゴールにしていた。
【解 説】この年賀状の絵柄を知っている人は理解できるが、見てない人は映像が立ち上がってこない。
作者が「ゴール」と言ったそれを書くとわかりやすくなる
添削 寅の尾がゴール 年賀状の迷路

10位 箱の角 亡き犬の毛や 垂(しず)り雪
【自 解】子どもの頃犬を飼っていたことがある。課題で古い人生ゲームの箱を開けてみると、その犬の毛が入っていて悲しみが溢れ出した。
【解 説】やろうとしたことはとてもいいが小さいミスがある。俳句に盛るには材料過多。
「亡き犬の毛」が感動の焦点で、これに「垂り雪」の季語を合わせるだけで1句になる分量は十分ある。
しかし作者はゲームの箱の中にあったことを詠みたい。2句にしたらどちらもいい句になる。
中七・下五の追悼句は、改めて自分で詠むといい。
上五・中七で詠むなら、季語がないので新年の季語「双六」を用いてはどうか。
「毛や」と詠嘆するより、ここは淡々と述べた方が哀しみが深い。
「角」も「隅」とした方がいい。
添削 亡き犬の 毛が双六の 箱の隅
【私 感】俳句という器に載せる材料には、ふさわしい分量があるとはよく言われることである。

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画像は、先日散歩で行った公園の裸木。
木枯らしに身を晒しながら、春に向けて新芽を内包している。
春よ来い。コロナ収束の春よ来い。