
夏井先生の解説、添削も記しておく。
1位 浜風光る スクイズの土埃
【作者自解】じゃんけんのチョキから野球の捕手のサインを連想し、発想を飛ばしてみた。
季語の「風光る」に「浜」を付け、甲子園だと分かってもらえるかチャレンジしてみた。
【解 説】今回の兼題では「子どもの遊び」と「志村さん」に分かれた中、発想を上手に飛ばしている。
季語の「風光る」に「浜」をつけているが、これはケースバイケースでなんでもして良いとは思わないで欲しい。
しかしこの句は後半が野球であり、浜風が吹く球場は甲子園かもしれない、だったら春の選抜高校野球かもしれないと、作者の思い通りに読者を誘導している。
【私 感】横尾君は2度目の優勝。着実に力をつけている。
2位 サザエさんに 後出しあいこ 吾子の春
【作者自解】アニメ「サザエさん」の番組最後に、3歳の我が子がじゃんけんするが、まだ理解できずにサザエさんと同じものを出す。
「後出し」で「あいこ」が微笑ましく感じられた。
【解 説】上五が字余りになるが、「に」は必要なので許容できる。
下五の「の」は、他の選択肢に「よ」「や」の詠嘆があるが、そうすると親バカ臭が強くなるので、このまま穏やかに収めておくのがいいだろう。
【私 感】折に触れ子どもをモチーフに俳句を詠んでいくと、趣のある成長記録になるに違いない。
3位 「最初はグー」 聞こゆ志村忌 春の星
【作者自解】じゃんけんに「最初はグー」を付けたのは志村けんさんである。
コロナで亡くなられたが、星になって収束を願っているに違いない。
生まれた時も亡くなったのも春で「春の星」とした。
【解 説】「忌」とありながら明るさを感じさせる句。それは志村さんの人生、業績に他ならない。
【私 感】追悼句は、思いを強調しすぎないよう注意しなければ。
4位 けいどろの 牢に鐘楼 花の寺
【作者自解】「けいどろ」は、警察が泥棒を捕まえて牢に入れるという子どもの遊び。
桜の咲いているお寺の境内で遊ぶ子どもたちの情景を詠んでみた。
【解 説】中七の「に」だと、「牢に鐘楼を使っています」という散文的な表現になってしまう。
添削 けいどろの 牢は鐘楼 花の寺
一文字「に」を「は」にしていたら、この句が1位になっていた。
【私 感】相変わらず素敵な発想をする。
5位 「ちょき」だす子 春の光を 突き破る
【作者自解】春の日差しの中で遊ぶ子どもたち。
やっと「チョキ」で勝ち、大喜びで走りだす子を描いた。
【解 説】「ちょき」で負けるケースもある。これだとただ「チョキを出した子」に過ぎない。
「勝つ」という情報が入ると、「突き破る」と合体して勢いがつくのではないか。
添削 「ちょき」で勝つ 子は春光を 突き破る
【私 感】チョキの2本の指が春光を突き破るとは面白い発想である。
6位 うららかや 次女出すチョキは まだ未完
【作者自解】次女は幼く、チョキの2本の指の形がうまくできず、その微笑ましさに季語の「うららか」を合うのではないかと思った。
【解 説】「未完」とは「まだ」ということである。よって不要。
添削 次女の出す チョキはうららかなる 未完
【私 感】こちらも子どもを詠んだ句。季語を活用形にする手法は使えそう。
7位 志村けんさん一周忌(前書き)
山も笑う 「最初はグー」の 発明者
【作者自解】「最初はグー」を考案した志村けんさんへの追悼句として「前書き」を付けた。
季語の「山笑う」に「も」を入れたのがどう評価されるか不安だが、志村さんも笑っているに違いないという思いを込めた。
【解 説】「発明者」がどうしても説明臭がある。思い切って、
添削 山も笑う 最初の最初の「最初はグー」
【私 感】こちらも追悼句。添削句に、作者は「出来ない」と嘆息し、全員が唸った。
8位 木の芽晴れ あいこ三回 照れ笑い
【作者自解】じゃんけんで3回も続けてあいこになると、嬉しいような恥ずかしい気持ちになる。
【解 説】三段切れになっている点と、照れ笑いの「照れ」が問題である。
添削 木の芽晴れ 笑う三回目の あいこ
【私 感】心情語、感情語は書かない。読者が理解し、感じることである。
9位 助手席の シートに温み 鳥曇
【作者自解】じゃんけんはお互い違う決断をすることから、別れのシーンを詠んだ。
それに季語の「鳥曇」が合うのでは。
【解 説】発想の糸口が読者にわかるようにしてくれればよかった。
助手席があれば「シート」は不要。
添削 助手席に 君のぬくもり 鳥曇
【私 感】今更ではあるが、わずか17音。言わずもがなの語句は避け、描写に使う。
10位 永き日の じゃんけん多き 初デート
【作者自解】じゃんけんのシチュエーションを考えた時、初デートの初々しい距離感で、いろんなことをじゃんけんで決めていた思い出から。
【解 説】1番の問題は「多き」という説明的な言葉。
添削 じゃんけんを 何度日永の 初デート
【私 感】唯一特待生5級で出場し、健闘した。
選抜高校野球の決勝戦を録画していたので、冒頭の画像に拝借した。
キャッチャーのサインか、スクイズか、土埃のどれかを探して、スクイズのシーンだけが見つかった。
ちなみに優勝は東海大相模高校だった。