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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2021金秋戦観戦記 2

2021年10月23日 | 俳句


夏井先生の解説と添削。

1位 スマホ死す 画面に浮かぶ 指紋と月
【自 解】スマホの充電が完全に切れると液晶画面が真っ暗になり、そこに自分の指紋が浮かび上がった。
夜、外でそういう経験があり、そこには月も映っていた。
【解 説】「死す」は重い言葉ではあるが、若者は今風に充電が切れたことを「スマホが死んだ」と言うそうで、軽い表現として受け止められる。
「浮かぶ」と言う時、映像になってないケースが多いが、これは明らかに指紋が浮かび上がり、それに秋の大きな季語である「月」も一緒に映り、印象的な映像を作り上げている。
【私 感】並みいる名人の中、唯一特待生3級で出場しての快挙。
彼は当初、かっこいいイメージの句ばかり詠んでいたが、夏井先生から「自分の体験を詠みなさい。オリジナリティとリアリティを得ることができるから」という言葉を素直に聞いて、以後着実に伸びてきた。

2位 フリードリンク 夜学子の 電子辞書
【自 解】夜学に通っている人物が、授業の後にファミレスに寄って勉強している時、電子辞書の充電がなくなったという場面を詠んだ。
【解 説】「夜学」が秋の季語。「子」はその生徒。
仕事が終わって学校に行くまでのわずかな時間に、お腹を満たすために立ち寄って予習しているという解釈もできる。
「フリードリンク」から始めたのがよかった。
今どきの文房具である「電子辞書」との取り合わせもよい。
作者は最近七五五の句が多いが、本来の五七五も忘れずに詠んで欲しい。
【私 感】昔、初めて歳時記を読んだ時、1年を通して夜学校はあるのに秋限定の季語というのを興味深く思った。
「灯下親しむ秋」「夜長」などと関連づけるといかにもと納得する。
歳時記はパラパラと流し読みするだけでも面白い。

3位 静かに文を破く ふと秋蛍
【自 解】充電切れから、今にも光が消えそうな秋蛍に発想を飛ばした。
文とはラブレターのことであり、それを言わずして秋蛍と取り合わせてはどうかと思った。
【解 説】破調の句。文を破く行為と秋蛍との取り合わせに趣がある。
「ふと」は、二音足りない時に「ふと」、三音足りない時に「少し」を使っていると嫌味な批評をされることがある。
作者がふと秋蛍に気づいたのならこのままでもよいが、季語の描写に使うこともできる。
添削 静かに文を破く 秋蛍ほのと

4位 まず雁の 飛来を尋ね 長電話
【自 解】晩秋に雁の飛来する土地があるそうで、そこから都会に出た若者は、実家や故郷の友人に電話する時、「もう雁はやって来たか?」が挨拶がわりとなって会話するのかもしれない。
【解 説】俳句には「まず〇〇を聞く」とか「まず〇〇を褒める」というような型がある。
似たような句ではまずいが、上手に使えばよい。
ふるさとの光景が浮かび、尋ねる思いも伝わり、情趣のある一句だった。

5位 発電機 運ぶ赤鬼 村祭
【自 解】村祭りで鬼などが出てくるケースがある、
人手が足りず、鬼役の人物も準備に駆り出されている牧歌的な様子を詠んだ。
【解 説】「村祭」が秋の季語。語順がよく考えられている。
これといった直しはないが、こういった地域の行事、催し物の発想の句がないことはない。
それがタイトル戦では多少損したと言える。

6位 龍淵に潜む 充電切れスマホ
【自 解】我々の世代からすると、携帯電話は夢の世界のツールに思える。
画面にはあらゆる情報が映し出され、それが電源切れになった途端真っ暗になり、まるで深い淵を覗き込んでいるような気持ちになる。
【解 説】思い切った取り合わせで胆力がいる。
中国の言葉「龍は春分に天に昇り、秋分に淵に潜む」に由来し、「龍天に昇る」は春、「龍淵に潜む」は秋の季語になっている。
電源の落ちた画面を描写した方がよかった。
添削 真っ黒な液晶画面 龍淵に
こうすれば、1〜2位を争っていた。

7位 携帯を タコ足充電 夜学校
【自 解】自分も夜学に行ったが、いろんな年齢の人が通っていて、仕事の後に来ると携帯の充電残量が減っている。
教室の後ろに充電用のコンセントがいくつもあって、みんなが充電器を挿して授業を受けていた。
それが年代・職業を超えてひとつになっているようだった。
【解 説】発想はとてもいいが、散文の語順になっているのが惜しい。
「タコ足充電」という長いフレーズの置き所に迷ってのことだろうが、中八とするより、いっそ上五に入れて字余りにした方が定石と言える。
夜学校の「校」も、「タコ足充電」の絞った映像からいきなり広い風景になって損。
添削 タコ足充電 夜学の携帯の とりどり

8位 秋雷や 絶縁破壊 長き闇
【自 解】雷で停電し、長い闇になったという、兼題をストレートに詠んでみた。
【解 説】調べたら「絶縁破壊」という言葉がちゃんとあった。
これを果敢に俳句に取り込もうとしたのは、たいしたチャレンジだった。
しかし三段切れになっているのが残念で、これを解消した方がよい。
添削 秋雷や 絶縁破壊の 闇長し
中八となっても、この方が調べもいい。

9位  夜半の秋 次子に授乳の 妻ZZZ(ズズズ) 
【自 解】二人めの子どもが生まれ、夜中に授乳している時、子どもは目覚めているが、妻はバッテリーが切れたかのようにうとうとしながら授乳していた。
「ジシ」「ジュニュウ」「ズズズ」でザ行を重ねてみた。
【解 説】「吾子」ではなく「次子」としたのは、育児の大変さを表現してよかった。
「ZZZ」も果敢に挑戦している。
しかし、季語である「夜半の秋」が弱いのが気になる。
添削 次子に乳 あきの夜半なる 妻ZZZ
「ジシ」と「チチ」に軽い韻ができる。
【私 感】俳句の表記は縦書きで、五七五の間を空けない。(ここでは横書きで、便宜上空けているが)
よって、「乳」に「秋」が続くのを避けて「あき」とひらがなにされた。
他にも漢字多用で重く見える時にどれかをひらがなにしたり、強調したい語句だけを漢字にしたり、たおやかに見せたい時ひらがなにしたり、表記上の印象も重要であるらしい。
しかしながら、夏井先生は「何をやってもいい」というが、自分自身は「ZZZ」にはいささか抵抗がある。

10位 秋蝉や 仰向いてなほ ぎぎと鳴く
【自 解】草むらに瀕死の蝉がいて、ひっくり返って震えて鳴いているのを見て詠んだ。
【解 説】どこが悪いという句ではない。しかし、このような情景を詠んだ句は、俳句の世界に相当数ある。
そういう句を上位にすると、視聴者から「自分もこんな句を詠んだ」と言われてしまう。
少しブラッシュアップすると、
添削 仰向いて ぎぎと鳴きけり 秋の蝉
【私 感】この夏、マンションの灼けた通路で仰向けで弱っているセミを見つけた。
せめて自然の中でと思い、近くの雑木林の木の幹に這わせてあげた。セミは微かに残っていた生命力で這い上っていた。
まさに俳句のタネであるが、詠んでいない


冒頭の背景画像は、9月22日の満月を撮ったもの。


2021金秋戦観戦記

2021年10月02日 | 俳句


先日、プレバト俳句タイトル戦の「金秋戦決勝」が放送された。
夏の「炎帝戦」が変則的なエントリーだったので、「春光戦」の上位4名と永世名人になった東国原10段の5名にシード権があり、これに予選を勝ち上がった5名が加わって行われた。
今回の兼題写真は、スマホの「バッテリー切れ間近」だった。
身近な素材だけに凡人的発想に陥りやすいということだったが、どれも個性的だった。
順位は以下の通り。
四天王と言われる永世名人、10段の4名が4〜7位という番狂わせで、唯一特待生の北山くんが優勝した。

1位 北山宏光(特待生3級)
    スマホ死す 画面に浮かぶ 指紋と月
2位 横尾渉(名人7段) 
    フリードリンク 夜学子の 電子辞書
3位 立川志らく(名人4段)
    静かに文を破く ふと秋蛍
4位 藤本敏史(名人10段)
    まず雁の 飛来を尋ね 長電話
5位 村上健志(名人10段)
    発電機 運ぶ赤鬼 村祭
6位 梅沢富美男(永世名人)
    龍淵に潜む 充電切れスマホ
7位 東国原英夫(永世名人)
    携帯を タコ足充電 夜学校
8位 中田喜子(名人5段) 
    秋雷や 絶縁破壊 長き闇
9位 千原ジュニア(名人7段)
    夜半の秋 次子に授乳の 妻ZZZ(ズズズ)  
10位 森口瑤子(名人初段)
    秋蝉や 仰向いてなほ ぎぎと鳴く


2021炎帝戦観戦記

2021年08月23日 | 俳句

7月22日にプレバト俳句の炎帝戦があった。
今回は特別ルールで、過去出演して「才能あり」になったことのある224人全員に参加資格があった、
兼題は「Tシャツ」で、60人が投句(意外に少ない印象)した中から、優秀句上位10句に選ばた人が出場。
名人、特待生が順当に選ばれた中、過去数回出演して「才能あり」1回だけだった犬山紙子さんが加わり、なんと優勝という快挙を果たした。

夏井先生の解説、添削。

1位 日盛りや 母の二の腕は 静謐 犬山紙子
【自 解】20代の頃、母の介護をしていた。
真夏の午後、寝ている母の部屋で半袖から出ている腕をそっと触るとひんやりとして、炎天の屋外とは違う静かな安らかな感じがした。その記憶を詠んだ。
【解 説】「日盛りや」で5音、残り12音のいわゆる破調の句。
Tシャツから見える二の腕が白くひんやりしているという描写が見事。
最初に読んだ時、年配のお母さんの人生の安らぎ、諦観を感じた。
また、子どもを突き放している母の静けさという解釈もできる。
読めば読むほど奥行きが深くなり、この一句で短篇が書けるのではないか。
俳句は短いので、振ってみたら当たったということはある。
本人も、これほどいい句だとは思わずに提出したのかもしれない。
しかしうっかりホームランだとしたら、とんでもなくよく飛んだ見事なホームランだった。

2位 Tシャツの 干され西日の 消防署 東国原英夫永世名人
【自 解】消防署の2階にTシャツが干されていた。
落ちきれない汚れもあり、署員の激務が想像された。
それに当たる西日が彼らを慰労し、賞賛しているようだった。
【解 説】「Tシャツの干され」は鉄板の類想フレーズと言ってもいい。
しかしこの句は、その類想を共感という土台に据え、強みにしている。
それを分かってやっているのが見える。
前半は家庭の日常だと思って読み、それが過酷な労働の現場だと分かった時のハッとする感動がストレートに伝わってくる。
「西日」という季語がそれに照り映え、映像がしっかり見え、季語を主役に押し出している。

3位 まだマシな Tシャツを貸す 夜の雷 村上健志名人10段 
【自 解】恋人が来て、シワクチャなTシャツの中からマシな1枚を貸し、その時雷が鳴って一瞬訪れる沈黙を詠んだ。
【解 説】上五「まだマシな」は自信がなければ書けない。それだけにリアリティがある。
「貸す」という動詞の選択も上手く、この一語で貸す方と借りる方の二人の人物が登場する。

4位 光るシャツ ひるぎの森を 行くカヌー 千賀健永名人4段
【自 解】沖縄旅行に行った時、ひるぎ(河口などに生える熱帯植物の総称)の森でカヌーに乗ったことがあった。
Tシャツに反射する光が記憶にあり、その思い出を詠んだ。
【解 説】Tシャツの持つ躍動感を、「カヌー」という季語と合わせて気持ちよく表現している。
離れた場所からこの光景を見ている感じがし、もちろんそれでもよいが、作者自身がカヌーに乗っていることを出したいのなら、
添削 シャツ光らせ ひるぎの森を 行くカヌー
としてもよい。

5位 白靴の 老女冷ゆ 生鮮売場 ミッツ・マングローブ名人2段
【自 解】自分は寒がりで、夏場のスーパーの生鮮売り場は肌寒さを覚える。
おしゃれをして買い物していた老婦人も寒そうにしていた。
【解 説】よい工夫がされている。
「白靴」は、夏のおしゃれとしての季語である。
老女がおしゃれをして、出かけるのはスーパーという現実を上手に切り取っている。

6位 若夏や Tシャツという 戦闘服 梅沢富美男永世名人
【自 解】若い頃は貧しく、夏はTシャツにジーパンの服装だったが、その恰好では入店を断られることも多かった。
Tシャツ1枚で闘っていた時代を詠んだ。
【解 説】「○○という」の言い回しはないことはなく、類想感があり、説明的、理屈の匂いもする。
「若夏」は沖縄で言われていた言葉から来た季語。沖縄に「戦闘服」となると、読者は別の思いを抱く。
「という」の理屈と、「戦闘」をバラしてあげるといい。
添削 若夏や Tシャツ一枚の闘い

7位  花栗や 肌に張り付く ツアーロゴ 北山宏光特待生3級
【自 解】半野外のライブをしたことがあった。
その時何かの匂いがして、確認したら栗の花だった。
【解 説】生々しく季語と出会っていることがわかる。
季語体験を身体に入れていくのは大事なこと。
「ツアーロゴ」でTシャツとわかり、「汗」と書かずに汗をかいているのがわかる。
このままでもいいが、直すなら
添削 ツアーロゴ張り付く 花栗の真昼
としてもよい。

8位 星空の 渋谷白シャツ CEO 横尾渉名人6段
【自 解】渋谷あたりの若い起業家は、スーツではなくラフなTシャツ姿で輝いて見える。
「し」の韻を踏んでみた。
【解 説】「し」の付く単語を畳みかける手法で、リズムが生まれている。
ただ、直すほどではないが「星空」が悩みどころである。夜のおしゃれ感を出したかったのか?

9位 夏暁(なつあけ)の おなら逞し ロンパース 藤本敏史名人10段
【自 解】子どもが幼い頃、早朝に泣き声で起こされることが多かった。
寝不足気味で辛かったが、おむつを替えていると大きなオナラをして、元気に成長していることに安心し、笑えた。
【解 説】惜しいのは語順。「おなら」から始めた方が面白い。
俗な方向にいくと思わせて、下五の「ロンパース」で赤ちゃんだったのかとする。
添削 おなら逞し 夏暁(なつあけ)の ロンパース

10位 白シャツは 何より白く 退院す 千原ジュニア名人6段
【自 解】20歳の時に、急性肝炎で死にかけたことがある。
黄疸がひどく、衣類にも色がつくほどだった。
夏頃にようやく治って退院する時、新品の白シャツを着た思い出を詠んだ。
それは病室の壁やカーテンの白より、シーツの白より白く感じた。
【解 説】シビアな体験を読んだいい句ではあるが、どこに改善点があるかというと、「何より」という漠然とした語句。
添削 白シャツの 全き白や 退院す
添削 白シャツの 白はこの白 退院す
などとしてはどうか。

過去に犬山さんが出演した回はよく覚えている。
初めて出た時、兼題が「日光 華厳の滝」だった。
その時彼女が詠んだ句は、「…三十路の肌を保湿する」といった感じのものだった。
「才能なし」の最下位で、夏井先生から「季語(滝:夏の季語)を保湿美容液呼ばわりとは何事!」と叱責されていた。
次に出て「才能あり」を取った時は、俳句もしっかり憶えている。
兼題写真はたしか「海辺の町を行く路線バス」だったと思う。
 故郷の 干物ゆらめく 褥暑かな
季語の「褥暑」でムシムシした暑さ、干物の匂いを喚起させ、単純に美しく懐かしいだけではない故郷への複雑な思いが表現されていると絶賛された。
私も大好きな句である。

先週の番組での兼題は「蜩(ひぐらし)」だった。
セミは夏の季語だが、ヒグラシは秋の季語になる。
今日は、二十四節気の「処暑」。
ようやく暑さが和らぎ、穀物が実り始める頃。

ワクチン接種予約する

2021年06月14日 | 俳句

6月3日、「新型コロナウイルスワクチン予防接種に関するお知らせ」が届いた。
6月7日(月)午前9時から電話かインターネットによる予約が開始されたが、どこも繋がりにくいというニュースをさんざん聞いていたので、2〜3日は敬遠しようということにした。

その間、夫が近所のかかりつけの内科クリニックに行って尋ねると、まだ75歳以上で埋まっていて、予約しても8月以降になり、市の集団接種を奨められ、あまり歓迎しない雰囲気を感じたと言う。

予約3日目の9日(水)午前10時過ぎ、夫がダメ元の様子見で電話の方を選んでかけてみた。
すると1回目ですぐに繋がった。
面倒な自動音声応答かもしれないと思っていたが、話しぶりから係員が出ているようで、あっけないほどスムーズに予約できた。

慎重派の夫は、「一緒に接種して副反応が出たらマズいからずらした方がいい」と言い、私はそこまでしなくても…と思っていたが、それぞれの希望日、時間もすんなり受け入れられた。
かくして、夫は6月18日と3週間後の7月9日。私は3日ずらして、6月21日と7月12日に予防接種を受ける。
会場は市庁舎に隣接する文化会館で、30分ほどで行ける距離にある。

                 風わたる緑蔭を占め息深く

日差しが強くなってきた最近、ウォーキングと日光浴が目的の散歩ではあるが、疲れると早々に木陰に入る。
風がそよ吹くと鬱蒼たる青葉がざわめき、空気を濾過しているような感じがする。
人もいないことだし、マスクをはずして深呼吸する。
季語は「緑蔭」。
「風わたる」の表現が凡庸だが、他に思いつかない。

関東は今日梅雨入りした。

2021春光戦観戦記 2

2021年04月03日 | 俳句


夏井先生の解説、添削も記しておく。

1位 浜風光る スクイズの土埃 
【作者自解】じゃんけんのチョキから野球の捕手のサインを連想し、発想を飛ばしてみた。
季語の「風光る」に「浜」を付け、甲子園だと分かってもらえるかチャレンジしてみた。 
【解 説】今回の兼題では「子どもの遊び」と「志村さん」に分かれた中、発想を上手に飛ばしている。
季語の「風光る」に「浜」をつけているが、これはケースバイケースでなんでもして良いとは思わないで欲しい。
しかしこの句は後半が野球であり、浜風が吹く球場は甲子園かもしれない、だったら春の選抜高校野球かもしれないと、作者の思い通りに読者を誘導している。
【私 感】横尾君は2度目の優勝。着実に力をつけている。

2位 サザエさんに 後出しあいこ 吾子の春
【作者自解】アニメ「サザエさん」の番組最後に、3歳の我が子がじゃんけんするが、まだ理解できずにサザエさんと同じものを出す。
「後出し」で「あいこ」が微笑ましく感じられた。
【解 説】上五が字余りになるが、「に」は必要なので許容できる。
下五の「の」は、他の選択肢に「よ」「や」の詠嘆があるが、そうすると親バカ臭が強くなるので、このまま穏やかに収めておくのがいいだろう。
【私 感】折に触れ子どもをモチーフに俳句を詠んでいくと、趣のある成長記録になるに違いない。

3位 「最初はグー」 聞こゆ志村忌 春の星
【作者自解】じゃんけんに「最初はグー」を付けたのは志村けんさんである。
コロナで亡くなられたが、星になって収束を願っているに違いない。
生まれた時も亡くなったのも春で「春の星」とした。
【解 説】「忌」とありながら明るさを感じさせる句。それは志村さんの人生、業績に他ならない。
【私 感】追悼句は、思いを強調しすぎないよう注意しなければ。

4位 けいどろの 牢に鐘楼 花の寺
【作者自解】「けいどろ」は、警察が泥棒を捕まえて牢に入れるという子どもの遊び。
桜の咲いているお寺の境内で遊ぶ子どもたちの情景を詠んでみた。
【解 説】中七の「に」だと、「牢に鐘楼を使っています」という散文的な表現になってしまう。
添削 けいどろの 牢は鐘楼 花の寺
一文字「に」を「は」にしていたら、この句が1位になっていた。
【私 感】相変わらず素敵な発想をする。

5位 「ちょき」だす子 春の光を 突き破る
【作者自解】春の日差しの中で遊ぶ子どもたち。
やっと「チョキ」で勝ち、大喜びで走りだす子を描いた。
【解 説】「ちょき」で負けるケースもある。これだとただ「チョキを出した子」に過ぎない。
「勝つ」という情報が入ると、「突き破る」と合体して勢いがつくのではないか。
添削 「ちょき」で勝つ 子は春光を 突き破る
【私 感】チョキの2本の指が春光を突き破るとは面白い発想である。

6位 うららかや 次女出すチョキは まだ未完
【作者自解】次女は幼く、チョキの2本の指の形がうまくできず、その微笑ましさに季語の「うららか」を合うのではないかと思った。
【解 説】「未完」とは「まだ」ということである。よって不要。
添削 次女の出す チョキはうららかなる 未完
【私 感】こちらも子どもを詠んだ句。季語を活用形にする手法は使えそう。

7位 志村けんさん一周忌(前書き)
   山も笑う 「最初はグー」の 発明者
【作者自解】「最初はグー」を考案した志村けんさんへの追悼句として「前書き」を付けた。
季語の「山笑う」に「も」を入れたのがどう評価されるか不安だが、志村さんも笑っているに違いないという思いを込めた。
【解 説】「発明者」がどうしても説明臭がある。思い切って、
添削 山も笑う 最初の最初の「最初はグー」
【私 感】こちらも追悼句。添削句に、作者は「出来ない」と嘆息し、全員が唸った。

8位 木の芽晴れ あいこ三回 照れ笑い
【作者自解】じゃんけんで3回も続けてあいこになると、嬉しいような恥ずかしい気持ちになる。
【解 説】三段切れになっている点と、照れ笑いの「照れ」が問題である。
添削 木の芽晴れ 笑う三回目の あいこ
【私 感】心情語、感情語は書かない。読者が理解し、感じることである。

9位 助手席の シートに温み 鳥曇
【作者自解】じゃんけんはお互い違う決断をすることから、別れのシーンを詠んだ。
それに季語の「鳥曇」が合うのでは。
【解 説】発想の糸口が読者にわかるようにしてくれればよかった。
助手席があれば「シート」は不要。
添削 助手席に 君のぬくもり 鳥曇
【私 感】今更ではあるが、わずか17音。言わずもがなの語句は避け、描写に使う。

10位 永き日の じゃんけん多き 初デート
【作者自解】じゃんけんのシチュエーションを考えた時、初デートの初々しい距離感で、いろんなことをじゃんけんで決めていた思い出から。
【解 説】1番の問題は「多き」という説明的な言葉。
添削 じゃんけんを 何度日永の 初デート
【私 感】唯一特待生5級で出場し、健闘した。 

選抜高校野球の決勝戦を録画していたので、冒頭の画像に拝借した。
キャッチャーのサインか、スクイズか、土埃のどれかを探して、スクイズのシーンだけが見つかった。
ちなみに優勝は東海大相模高校だった。