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言の葉

2008.11.28 開設
2022.07.01 移設
sonnet wrote.

2022炎帝戦観戦記

2022年07月23日 | 俳句

7月21日にプレバト俳句の炎帝戦が放送された。
この番組では年4回のタイトル戦がある。
春の「春光戦」(2018年までは「俳桜戦」)、夏の「炎帝戦」、秋の「金秋戦」、冬の「冬麗戦」で、いずれも季語を冠している。
2021年春光戦までは名人・特待生だけの出場で、前回の上位数名がシード。残り枠を予選で勝ち上がって10名前後で競うシステムだったが、昨年の炎帝戦では違う方法で行われた。
過去に番組に出演して「才能あり」を獲得したすべての人に参加資格があり、応募期間中に兼題の俳句を提出エントリーし、上位者が出場できるというものである。
また今年1月の冬麗戦は、昨年詠まれた全364句の中から優秀句を詠んだ14名が参加し、ここでも名人・特待生以外に4名が選ばれていた。

今回は昨年の炎帝戦と同じ方法で、231名のうち58名が投句エントリーし、上位15名が出場資格を得て行われた。
名人・特待生以外では4名が選ばれた。
兼題写真は「スマホのメール表示」で、順位と夏井先生の解説、添削は以下の通りだった。

1位 産声送信 ドバイは大夕焼  中田喜子(名人6段)
【自 解】海外赴任した夫婦に子供が産まれ、日本にいる両親に産声を送るというもの。
赴任先はドバイで、季語は「大夕焼」がふさわしいと思った。
【解 説】褒めないといけないのは写真ではなく産声を送ったということ。新鮮でリアリティがある。
そして兼題写真のメール件数③にもしっかり寄っていて、まず産声、次に写真と思わせる。
赴任先のドバイのチョイスもよく、季語「大夕焼」はドバイの広がりとともに、生まれたという安堵、喜びなども示唆している。
一句の奥行きに気持ちのいい光景が広がっている。

2位 恋を終わらせ 平日の 海月(くらげ)見る  犬山紙子(特待生5級)
【自 解】もう別れようかと悩んでいた恋人に「別れましょう」とメールをしたものの、まだ気持ちはふわふわしていて、お勤めを休んで水族館に行き、クラゲを見て癒されたというもの。
【解 説】別れのメールを送った後、相手はまだ未読の時の宙ぶらりんの状態なども想像できる。
傷心でお休みし、水族館で見たのが「海月」という選択がよかった。揺れ動く失恋の心を水族館の冷ややかさと薄暗い空間が癒してくれる。そして、通常俳句に「見る」と書く必要はないが、ここでは必要である。ゆらゆら揺れるクラゲの向こうに、自分の心を見つめているような気持ちも描かれている。

3位 メールぴこんぴこん シャワー中だってば  森口瑤子(名人初段)
【自 解】メールやラインはすごく便利ではあるが、時には自由を奪われたような気分になることもある。
入浴中に続けざまに着信音が聴こえた時のことを詠んだ。
【解 説】こういうやり方もあるかと思った。
何より「ぴこんぴこん」が上手い。オノマトペにリアリティ、実感があり、読者の耳にもちゃんと聴こえてくる。
「だってば」もいい。ちょっと甘えた大人かわいい感じがよく出ている。

4位 羽蟻わく 今宵ロマンス詐欺メール  東国原英夫(永世名人)
【自 解】羽蟻とは繁殖期に羽が生えたアリやシロアリのことで家を侵食していく。
ネットにいかがわしいデートメールや出会い系のメールが何件も湧いてくるように届き、寂しい心の隙間に侵入してくるようである。
【解 説】大げさで少々やりすぎの感もあるが、この内容ならここまでやらないとバランスが取れないので思い切ってやるしかない。
「わく」という動詞がいい。今まさに人の知らない間に密やかに家の中を食い始める羽蟻。人の心を食い尽くすように忍び寄ってくる詐欺メール。それを「わく今宵」でちゃんと押さえている。

5位 アルパカを 返す手配り 雲の峰  藤本敏史(名人10段)
【自 解】動物番組でタレントさんがアルパカと生活し、ロケの終了でスタッフが動物プロダクションに返す手配をしているという情景を詠んだ。
【解 説】アルパカと季語「雲の峰」を取り合わせた句がないわけではない。ただ中七にオリジナリティがある。
「手配り」に兼題のメール・スマホを使って連絡を取り合っている様子が想像できる。

6位 白雨(はくう)受く ネットショップの 段ボール  安藤和津
【自 解】物をネットで買うことが当たり前になって、どこの家の玄関前にも段ボール箱が積み上げてある。我が家も同じである。
突然の雨でその段ボール箱が切なく悲しげに濡れそぼっていた時の情景を詠んだ。
【解 説】中七下五のフレーズについては、今どきのことで類想のような句がないとは言わない。
しかし誉めなければいけないのは上五が上手いということ。
季語の「白雨」は雲が明るい空から降る雨で、にわか雨のイメージが強いが、「白」の一字が負の印象を強くしない。
さらに動詞「受く」を選んで軽く受け止めている感じがよい。
今どきのコロナ禍の置き配という新しい文化を描いている。

7位  緋ダリアや 「メール不達」の メール来る  千賀健永(名人6段)
【自 解】昔お付き合いしていた女性にメールしてみようと送ったら、「送信できません」という不達メールが来た。
その寂しさを季語の「ダリア」の緋色のものと取り合わせてみた。
【解 説】取り合わせた季語がいい。ダリアは好き嫌いが分かれる花で、赤は情熱的な感じを持つ人もいる反面、不穏なイメージを持つ人もいる。
それが中七下五のフレーズとそこはかとなく響き合っている。
もったいないのは上五で、「や」と詠嘆するより
添削 ダリアは緋 「メール不達」の メール来る
としてもよい。そうすると、ダリアはいろんな色があるが緋色。スマホの中にはいろんなメールが届いているが、送信できなかったメールが今画面にあるという対比になる。

8位 社食から花火 原稿音読す  久代萌美
【自 解】花火大会を見に行く予定があったが、急遽メールでシフトが送られてきて、深夜のニュース番組対応をすることになった。
社員食堂で原稿の下読みをしながら、東京湾の花火を窓越しに見たという体験を読んだ。
【解 説】メールとか携帯とか一言も書いてないが、「社食」で自分は花火大会に行けず仕事をしているとわかる。
語順は手元の原稿から入った方がよい。そして「音読」は子どもの国語の宿題のようなイメージもあるので、
添削 原稿を下読み 社食から花火
にするとよい。

9位 月見草 文箱の底に 出さぬ文  梅沢富美男(永世名人)
【自 解】メールから手紙に発想を飛ばした。
夜に書いた手紙を朝になって出そうか迷い、結局出せないまま文箱の中にしまう女心を詠んだ。
夜に咲いて朝方にはしぼむ「月見草」と取り合わせた。
【解 説】季語に「月見草」を選んだのがよい。夜に密やかに咲いて朝には萎んでしまう。
それによって、手紙は恋心をしたためたようなものではないかと想像させる。
ただ、迷って出さない手紙が残っているという発想の句は、俳句の世界ではたくさんある。直す必要はないが普通の句だった。

10位 夏の雲 逝くな逝くなと 文字叩く  勝村政信
【自 解】友人の奥様の葬儀があった。空には夏の雲が浮かんでいた。
みんな無言でスマホを叩いていた。ふと、メールしたらあの雲に届くかもしれないと思った。
【解 説】「夏の雲」「入道雲」「雲の峰」などの季語と人の生き死にを取り合わせた句がないわけではない。
しかしこの句には妙な切迫感ある。そして「文字叩く」は決して上手い表現とは言えない。むしろ稚拙ささえある。
しかし、そこにリアリティがあり、この句の魅力、力になっている。
ただし上五の「夏の雲」が妙に落ち着いている。ここは詠嘆した方がいい。
 添削 夏雲や 逝くな逝くなと 文字叩く

今回自分がいいと思った俳句は、2位の犬山紙子さん、3位の森口瑶子さん、6位の安藤和津さんだった。

10位以下は順位だけで俳句の発表はされなかったが、TVerで公開されるとのことだったのでチェックした。

11位 夕涼の竹富 未読メール百  かたせ梨乃 
12位 晩涼のRe:Re:Re: セットリストの見せ場  横尾渉(名人10段)
13位 故人との 弾みしメール 夜の秋  千原ジュニア(名人10段)
14位 真夏来て サブスクの trf  ミッツ・マングローブ(名人2段)
15位 風鈴鳴る 千の躊躇を 弔って  村上健志(永世名人)


2022春光戦観戦記 2

2022年04月03日 | 俳句


夏井先生の解説と添削。

1位 影のような 野良犬に 桜ながし
【自 解】桜の中に野良犬がいた。汚れてみすぼらしくハッとしたが、影のように見えた犬まで風景になって綺麗に見えた。
【解 説】「桜ながし」とは鹿児島あたりの方言で「桜が咲く頃の長雨」をこう言うそうである。
ネット歳時記から出始めたようだが、ほとんどの歳時記にはまだ掲載されていない。
この句のひとつの挑戦は、まだあまり使われていない季語を定着させようとしていること。
足して17音になる破調ではあるが、ジャンルとしては完全に自由律の俳句と言っていいだろう。
絢爛と咲く桜を散らせる雨の中に佇んでいる野良犬。それを見てハッとした作者のハプニング感が読み取れる。
薄墨色の影と薄墨色の雨、絵のような作品である。
その絵画のような中に「桜」の一字がポッと灯る、そう言う効果も持っている。

2位 馬の子に 弄(いじ)られてゐる アナウンサー
【自 解】YouTubeでハプニング映像を見たら、新人アナウンサーが中継しているそばで、子馬が噛み付いたり鼻先をつけたりして、なんだか弄んでいるようで微笑ましかった。
【解 説】「馬の子」が春の季語になる。場面がスッと立ち上がる語順もいい。
惜しいのは「いじられている」と言うことで軸足がアナウンサーに寄ってしまう。
添削 馬の子に なつかれ過ぎて アナウンサー
そうすると、馬の子が「好いている」ことで軸足を子馬に寄せ、季語を主役に立てるポイントがグッと上がる。

3位 光風や 控え選手の ペンの減り
【自 解】試合にハプニングが起きれば控え選手に出番があるかもしれないと、発想を飛ばしてみた。
記録したりデータを分析したりで出番はないままだが、大切な役割を担っている控え選手を詠んだ。
季語の「光風」は、明るくポジティブな感じがした。
【解 説】描写はきちんとできている。どんなスポーツか細々と書かなくてもいいことを作者はわかっている。
ただ季語の「光風」は「風光る」の傍題になるが、敢えてこれを使う必要があったか?
素直に「風光る」でもいいと思われるが、作者は「や」と詠嘆したくて4音の「光風」したのだろう。

4位 日曜の 空港ホテル 雪の果
【自 解】大雪のために飛行機が飛ばなくなり、空港ホテルに連泊した体験を詠んだ。
「雪の果」は今年最後の雪という春の季語。
【解 説】基本型通りにきっちり言葉を入れているが、テーマのハプニング色を入れれば順位が少し上に行っただろう。
添削 春雪に 閉ざされ 空港ホテルの夜

5位 青き日も 苦き日もあり 青慈姑(あおぐあい)
【自 解】これまでを振り返ると、青臭い失敗もあって人生を遠回りしたことがあった。
しかしそのおかげで楽しい今がある。
クワイの中でも品質の良い青慈姑と取り合わせた。
【解 説】処世訓めいた上五中七と、青を重ねたことが評価の分かれるところである。
また、季語の「青慈姑」もちょっと取り合わせた感じになっているのがもったいない。
主役に立てるべき慈姑を最初に持ってきて描写すると良くなる。
添削 青慈姑ころん 若き日とは苦し

6位 子供等の 後ろの蜂の ホバリング
【自 解】蜂たちが巣を守ろうとして、羽ばたきながら空中で静止している。
背後のそれに気づかず、子供たちが楽しそうに遊んでいる様子を読んだ。
【解 説】ささやかな情景をちゃんと描写している。
しかし俳句で蜂のあの様子を表現するのに、「ホバリング」はすでにたくさん使われている。
巣を守っているなら、擬人化してはどうか。
添削 子供等の 後ろを蜂の 防衛軍

7位 長閑なり 細くたなびく 湯の放屁
【自 解】コロナ禍で旅行もままならない中、ようやく温泉に来られた。
のんびり湯に浸かっている時オナラが出た。それも含めてなんと長閑なことかと思った。
【解 説】そもそも「たなびく」の使い方を間違えている。
たなびくとは雲や霧や煙などが横に長く漂う様子を言う。
作者は放屁の泡が湯の中から上がっていることの描写に使っている。
たなびくを使いたいなら、湯の表面を漂う描写にすればよい。
添削 長閑なり 湯にたなびける 放屁の泡

8位 刀折損 続ける殺陣や 花吹雪
【自 解】舞台の本番中に刀が折れたことがあったが、芝居を止めることはできず続けた。
その殺陣のシーンに花吹雪が舞っていた。
【解 説】ハプニング感はある。しかし「刀折損」から入ると季語の鮮度が落ちてしまう。
ましてや舞台の紙の花吹雪である。
添削 花らんまん 折れて続ける 殺陣シーン

9位 迫る電柱 顔面5mmの春   
【自 解】二十数年前の春にバイク事故に遭った。
暖かくなりヘルメットをフルフェイスから半キャップに替えていたが、厚みの差で大怪我はしたものの命に別状はなかった。
【解 説】俳句を読んだだけでは、5ミリの謎が読み手に残ってしまう。
野球のバッターが「ボールがスローモーションで見える」という表現をすることがあるが、同じ感じにすると臨場感が出るかもしれない。
添削 顔面潰る 電柱スローモーに春
こうすると主役の季語「春」が少し立ってくる。

10位 カンガルー泊めて 2DK朧
【自 解】30年以上前の若い頃、テレビ番組でカンガルーとボクシングをするという仕事をした。
撮影が夜中までかかり、動物プロの方が急用で帰ってしまい、カンガルーを自分の部屋に連れて帰ったことがあった。
部屋でお互い見つめあい、困惑と疲労と眠気でボーッとしていた春の夜の思い出。
【解 説】「カンガルー」と季語の「朧」の取り合わせにはすごい魅力がある。
しかし「泊めて」と「2DK」が具体的に書き過ぎている。
普段は「具体的に描写を」と言っているが、この句の場合は敢えてぼんやりさせた方が効果的。
添削 カンガルー 預かってゐる 朧かな
「朧」の句としてこんな素晴らしい俳句はないと、我ながら添削して感動している。
こうやっていたらダントツの1位だった。


2022春光戦観戦記

2022年04月01日 | 俳句


昨日、プレバト俳句タイトル戦の「春光戦」が放送された。
昨年の「金秋戦」上位3名と永世名人2名がシード。
これに予選で勝ち上がった5名が加わって行われた。
今回の兼題は「ハプニング」。順位は以下の通りだった。

1位 立川志らく(名人5段)
    影のような 野良犬に 桜ながし

2位 森口瑤子(名人初段) 
    馬の子に 弄られてゐる アナウンサー

3位 村上健志(名人10段) 
    光風や 控え選手の ペンの減り

4位 横尾渉(名人8段) 
    日曜の 空港ホテル 雪の果

5位 馬場典子(特待生2級)
    青き日も 苦き日もあり 青慈姑(あおぐあい)

6位 藤本敏史(名人10段) 
    子供等の 後ろの蜂の ホバリング

7位 梅沢富美男(永世名人) 
    長閑なり 細くたなびく 湯の放屁

8位 北山宏光(特待生3級) 
    刀折損 続ける殺陣や 花吹雪

9位 千原ジュニア(名人8段)  
    迫る電柱 顔面5mmの春  

10位 東国原英夫(永世名人)
    カンガルー泊めて 2DK朧


2022冬麗戦観戦記 2

2022年01月20日 | 俳句


夏井先生の解説と添削。

1位 片襷(かただすき)硬し 四日の 身を通す
【自 解】初めて選挙出馬したのが1月4日で、人生を賭けた大勝負だった。
片襷はビニール製で冷たく硬く身震いした。
あの時の緊張や決意を詠んだ。
【解 説】「四日」が新年の季語。1月1日から7日まではそれぞれが季語になっており、その日が俳句にあれば、他の月ではなく1月である。
「片襷」には3パターン考えられる。
ひとつは「まな板はじめ」のような新年の行事。次に「正月早々の選挙」。もうひとつ「駅伝」もあるが、2〜3日に行われる箱根駅伝は除外してよい。
まな板はじめ、弓はじめのような晴れの行事と俗な行事が一句の中に2つあり、なかなかの奥行きである。
「硬し」という感触、「身を通す」という映像でありつつ心情表現にもなっている言葉。
全部の言葉の質量が計算され、選び取られている。

2位 地球史の 恐竜遠し 炬燵の夜
【自 解】「人生ゲーム」は人の歴史。そこから地球の歴史を連想した。
子どもの頃、恐竜図鑑を見て2億年も前のことを思い、時間の遠さ、重さを感じた記憶がある。
【解 説】上五・中七で、これまでの作者なら「冬銀河」などの季語を添えて「雄大な句になった」「カッコいい俳句ができた」と満足していた。しかしそれでは全体が空想の俳句になってしまう。
「炬燵」の季語を選んだ成長ぶりにささやかな感動を覚える。
また「炬燵」を思いついても、これまでは「かな」を付けて安易な詠嘆をしてしまいがちだった。
「炬燵の夜」として、暖かい夜の知的で豊かな時間が表現され、地球史の膨大な時間と短い時間の対比もできた。
【私 感】今回、この俳句が一番好きだった。本当にメキメキ俳句の腕を上げている。

3位 嚔(くしゃみ)して スペードの位置 忘れたり
【自 解】ゲームをトランプにしてみた。
「神経衰弱」をして、伏せたカードの場所を憶えていたが、くしゃみをした拍子にどこだか分からなくなった思い出から。
【解 説】「嚔」という季語を上手に使っている。
スペードだからトランプとわかり、そう思った瞬間に「神経衰弱」のゲームをしているのだと理解できる。
書かないで分からせる言葉の力がある。
集中力が切れた瞬間が「嚔」に戻り、季語を立てている。
「して」と言うと、俳句で避けるべき原因結果の語り口になるが、この語順の方がリアリティが高く、因果関係を語っているようで邪魔にはなっていない。

4位 雪吊や 登校拒否の 吾と祖母と
【自 解】自分は「人生ゲーム」をやったことがない。子どもの頃長い引きこもりだったので当然である。
祖母が学校に行かない自分を連れて、金沢に旅行に行ったことがあった。
制服を着た同年齢の学生たちがいて、私服の自分と祖母で兼六園の雪吊りを見た。
樹木を拘束していそうで、でも縛って守らないと折れてしまう…、当時の自分の立場と重ねていた。
【解 説】読めば読むほど奥行きの深い句である。
評価が分かれるのが「雪吊」の季語が動くかどうかという点である。
しかし、この句ではそういう議論をしてはいけないと思う。
作者にとってこれは、抜き差しならない記憶の鍵であり、作者独自のリアリティが強く感じられる。
作者の体の中にある季語として評価できる。
【私 感】「季語が動く」とは、他の季語を用いても俳句が成立するのではないかということ。
夏井先生の「議論してはいけない作者の記憶の鍵」にグッときた。

5位 冬旱(ふゆひでり) 地図から消えた 村の数
【自 解】「人生ゲーム」から故郷の福島に発想を飛ばし、2011年の大震災を思った。
季語の「冬旱」で、地球規模で消えていく村があるのではないか。
【解 説】兼題写真からこういう句にいく発想の深さにハッとした。
「地図から消えた村」というのは、災害や戦争によってもあるかもしれない。
「村」とあるが、人が住めなくなった地域、国も示唆している。
しかし惜しいのは季語の選択で、この文脈では旱によってという因果関係が読めてしまう。
別のいい季語を探してみてはどうか。

6位 雪晴の転勤 ミニマリストの棚
【自 解】人生の転機から「転勤」を連想して詠んでみた。
「今年はより一層頑張ろう!」という決意でいろんなものを整理し、それを象徴するのは本棚ではないだろうかと思った。
【解 説】ミニマリストとは必要最小限の物で暮らす人のこと。
長い単語を持ち込んで果敢に挑戦しているのは褒めたい。
季語「雪晴」との取り合わせも前向きでいい。
しかし、物のあまりない棚とか、荷物の少ない転勤とかを書いて、この人物はひょっとしてミニマリストかもしれないというのを読者の感想として残しておいた方がいい。
添削 もの少なき転勤 雪晴の街へ

7位 裏漉す蕪(かぶ)や アドベントカレンダー
【自 解】アドベントカレンダーとは、クリスマスまでの日数をカウントダウンしていくカレンダーのこと。
子ども3人を育てており、乳児の離乳食を作りながら、上の2人がクリスマスを心待ちにしている暮らしを詠んだ。
【解 説】長い言葉を一句に落とし込んでいくのは本当に難しいが、よく挑戦した。
もったいないのは前半。裏漉しの調理だと介護食、病院食などの可能性も考えられる。
アドベントカレンダーはまだ歳時記にはないが、いずれなるかもしれない。
強い季節感があり、従って主役となるべき季語の「蕪」が脇役になってしまっている。
いっそ蕪を使わず「離乳食」としてはどうか。そうするとクリスマスのワクワク感と合って、親子のイメージ、そして聖母マリアのイメージが沿ってくる。
添削 離乳食煮て アドベントカレンダー
【私 感】聖母マリアのイメージまで沿わせるとは、さすがの添削。

8位 あざ笑う 鬼の顔ある 歌留多かな
【自 解】ボードゲームから連想して、お正月の遊びのかるたで詠んでみた。
上方のいろはかるたの「ら」は「来年のことを言えば鬼が笑う」で、思案する人とそれを笑う鬼が描かれていた。
【解 説】「顔ある」が少々説明的。それを映像に替える工夫をした方がいい。
例えば鬼の絵がどんな色だったかの描写にしてはどうか。
添削 あざ笑う 鬼の絵赤き 歌留多かな 

9位 寅の尾を 目指す迷路よ 年賀状  
【自 解】人生ゲームから「迷路」に発想を飛ばした。
子どもの頃、手描きの年賀状にして、干支の寅の体に迷路を書いて尾をゴールにしていた。
【解 説】この年賀状の絵柄を知っている人は理解できるが、見てない人は映像が立ち上がってこない。
作者が「ゴール」と言ったそれを書くとわかりやすくなる
添削 寅の尾がゴール 年賀状の迷路

10位 箱の角 亡き犬の毛や 垂(しず)り雪
【自 解】子どもの頃犬を飼っていたことがある。課題で古い人生ゲームの箱を開けてみると、その犬の毛が入っていて悲しみが溢れ出した。
【解 説】やろうとしたことはとてもいいが小さいミスがある。俳句に盛るには材料過多。
「亡き犬の毛」が感動の焦点で、これに「垂り雪」の季語を合わせるだけで1句になる分量は十分ある。
しかし作者はゲームの箱の中にあったことを詠みたい。2句にしたらどちらもいい句になる。
中七・下五の追悼句は、改めて自分で詠むといい。
上五・中七で詠むなら、季語がないので新年の季語「双六」を用いてはどうか。
「毛や」と詠嘆するより、ここは淡々と述べた方が哀しみが深い。
「角」も「隅」とした方がいい。
添削 亡き犬の 毛が双六の 箱の隅
【私 感】俳句という器に載せる材料には、ふさわしい分量があるとはよく言われることである。

     ***************************************

画像は、先日散歩で行った公園の裸木。
木枯らしに身を晒しながら、春に向けて新芽を内包している。
春よ来い。コロナ収束の春よ来い。


2022冬麗戦観戦記 

2022年01月14日 | 俳句


昨日、プレバト俳句タイトル戦の「冬麗戦」が放送された。
昨年詠まれた全364句の中から優秀句を詠んだ14名が参加した。
名人・特待生以外では犬山紙子さん、IKKOさん、小倉優子さん、堀未央奈さん(元乃木坂46メンバー)が選ばれた。
今回の兼題写真は「人生ゲーム」。
順位は以下の通りだった。

1位 東国原英夫(永世名人)
    片襷(かただすき)硬し 四日の 身を通す
2位 千賀健永(名人4段)
    地球史の 恐竜遠し 炬燵の夜
3位 森口瑤子(名人初段)
    (くしゃみ)して スペードの位置 忘れたり
4位 千原ジュニア(名人8段)
    雪吊や 登校拒否の 吾と祖母と
5位 梅沢富美男(永世名人)
    冬旱(ふゆひでり) 地図から消えた 村の数
6位 横尾渉(名人7段)
    雪晴の転勤 ミニマリストの棚
7位 小倉優子
    裏漉す蕪(かぶ)や アドベントカレンダー
8位 藤本敏史(名人10段)
    あざ笑う 鬼の顔ある 加留多かな
9位 村上健志(名人10段)
    寅の尾を 目指す迷路よ 年賀状  
10位 犬山紙子
    箱の角 亡き犬の毛や 垂(しず)り雪

11位以下は俳句を発表されないという何とも厳しい演出だった。

追記
ネット検索したところ、4名の詠んだ俳句がわかった。
一応記しておく

  11位 ルーレット 回せど止める 炬燵猫  北山宏光(特待生3級)
  12位 顕微鏡の 蠢めく人生ゲーム  立川志らく(名人4段)
  13位 幸せの 尺度疫禍の ちゃんちゃんこ  IKKO
  14位 駒進め 人生を知る 年始め  堀未央奈

     *********************************************

ちなみに14名が参加資格を得た昨年の優秀句も記しておこう。

ラフレシアも 秋夕焼も 人を食うか  東国原英夫
宵宮の 慈雨は屋台の 人波へ  千賀健永
花疲れ リュックの底の 底に鍵  森口瑤子
手花火の 火に手花火と 手花火を  千原ジュニア
玉葱を 刻む光の 微塵まで  梅沢富美男
八合目の ドラム缶風呂 シャーベット  横尾渉
紅白帽 脱いで焼き立て 林檎パイ  小倉優子
魚群探知機 朝寒のがなり声  藤本敏史
まだマシな Tシャツを貸す 夜の雷  村上健志 
日盛りや 母の二の腕は 静謐  犬山紙子
スマホ死す 画面に浮かぶ 指紋と月  北山宏光
首吊りの家には 林檎は無いのか  立川志らく
住み込みの 夜のケーキの 苺かな  IKKO
独立の夜や ゴッホの 星月夜  堀未央奈