min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

乾 浩著『北夷の海』

2009-04-04 10:34:21 | 時代小説
乾 浩著『北夷の海』 新人物往来社 2002.1.31第1刷1,900円+tax

オススメ度★★★☆☆

なかなかマニアックな内容の本だ。北海道がまだ蝦夷地と呼ばれた時代の、北海道そのものではなく更に北に位置する樺太の探検と、そして東に位置する択捉島の探検を扱った書物なのだから。
本書は次の三篇から構成されている。

1. 北夷の海
2. 東韃靼への海路
3. 遥かなる氷雪の島

1.2.にて樺太そして今のロシアと中国の国境、黒竜江の付近への探検が描かれ、3.にて択捉島への航路の開拓と島の探検が描かれている。
1.2.での主人公は歴史的にも有名な間宮林蔵と、いまひとりやはり実在した人物松田伝十郎で、3.の択捉探検は近藤重蔵と高田屋嘉兵衛が主人公だ。
全編を通じ一番印象に残ったのは間宮林蔵である。身分の低い武士(出自は百姓であった)で、幕府の命令とは言いながら、北方にかける情熱はなみなみならぬものが伺われ、特に探検行を通じたアイヌの人々との交情は大和民族としての誇りとも言える希少な人物であった。
間宮林蔵のアイヌ民族への理解、敬愛の情は本編ばかりではなく他の歴史作品でも重ね重ね取り上げられているが、もしこれが彼の本当の姿であったならば嬉しい限りである。
また、樺太西海岸を北に向け遡行するくだりの情景描写は過去ほとんど描かれたことがないだけに極めて興味深いものがあった。

作者、乾 浩氏は本書を上梓した当時は現役の教職につかれており、『北夷の海』で「第25回歴史文学賞」を受賞されたとあるが、どうも万人の耳目を集める賞ではないようで、世間に広く読まれる機会がないであろうことが想像され残念である。