min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

荒ぶる血

2006-05-13 15:45:13 | 「ハ行」の作家
ジェイムス・カルロス・ブレイク著『荒ぶる血』(原題:UNDER THE SKIN)
文春文庫 2006.04.10 762+tax

昨年『無頼の掟』でもって本邦で一躍注目を浴びたジェイムス・カルロス・ブレイク。
邦訳第二弾が本編『荒ぶる血』だ。時代及び舞台背景は前作同様1900年代初頭の米国とメキシコの国境付近だ。
著者は何故にこの時代と地域を好んで描くのであろうか?それは著者自身がメキシコで生まれテキサスで育った理由もひとつであろうが、何よりもこの禁酒法が施行された時代のアメリカが特段著者にとって魅力的なのではなかろうか。
この時代、米国都市部では密造酒をはじめ賭博、売春といったありとあらゆる犯罪を取り仕切るマフィアが横行した時代であったと思われる。
同じ時期、地方更に辺境の地はどのような状況下にあったのだろうか。ほとんど我々の想像外の世界であったろうことは確かだ。
船戸与一の言葉ではないけれど【国家の矛盾は辺境にこそ集約される】の通り、本編の舞台となったテキサス州及び近隣の州はまさに「無頼の土地」とも言うべき、暴力と富こそが正義の世界であった。
現代の自由、民主主義、更にグローバリズム云々を叫ぶアメリカ社会と違い、よりプリミティブな生活と心情を持った人々の、富への渇望、暴力への衝動、あからさまなセックスへの欲望の渦巻く当時のアメリカ。人間の本来の姿を描くには格好の舞台だと想われる。

1910年代に起こったメキシコ革命によって騒然となったメキシコ、エルパソ。反乱軍の将軍のひとりパンチョ・ピジャ(実在の人物)と彼の右腕であり冷酷な処刑人である“肉食獣”(エル・カルニセロ)と呼ばれ恐れられた男がエルパソのとある娼館の戸を叩いたことから物語は始まった。
“肉食獣”(エル・カルニセロ)が選んだ娼婦は仲間から“幽霊”と呼ばれた痩せぎすで長身のアバという女であった。

本編の主人公である“おれ”ことジミー・ヤングブラッドと彼が身を寄せたガルヴェストン島の暗黒組織マセオ兄弟及びジミーの相棒たち。
メキシコ革命で蹂躙された元アメリカ地方警備隊の中隊長で今は大農場主であるドン・セサール。
ドン・セサールが見初めて拉致した美貌の娘、ダニエラ・サラテ。

以上の登場人物がおりなすいくつものプロットがやがてパッチワークのように貼り合わせられた時、途方もない惨劇が待っていたのだ。リミッターが外れたような暴力シーンに溢れながらも読後感がある種爽やかなのは何故だろう?人間の性(さが)と業(ごう)について考えさせられる一篇で特段におすすめの一篇。