上田 早夕里著『深紅の碑文 上・下』 ハヤカワSFシリーズJコレクション
2013年12月19日第1刷
1,680円+tax
おススメ度:★★★★★
前作「華竜の宮」で25世紀の地球はホットプルームの噴出によって海面が250mも上昇した世界を描いた。続編となる本編では更なる“大異変”によって地球は分厚い氷で覆われるであろうという人類絶滅の危機がせまる。
その“大異変”を前にして、人類は陸上民と海上民が資源の争奪を激化しつつあった。本編では前作で中心人物として描かれた青澄誠司が再び登場する。彼はラブカ(反陸上民を標榜する海賊)と陸上民国家との戦いを終わらせるべく奔走するのだが両者の戦いは益々激烈化していった。
それは陸上民と海上民という「人種間の闘争」ではなく、互いに人間とは認めないまでの「異なる種同士の闘争」であったからだ。陸上民が最終的に放った兵器は“殺戮知性体”といわれる恐るべき殺人兵器であった。これは相手が人間であるとは認識していない何よりの証左とも言えた。
物語の大半はラブカの首領となったザフィールと陸上政府運との凄惨な戦いが描かれ、これに青澄誠司がからんで行く。この縦軸とも言える二人を取り巻く組織、人間模様を描くと同時に、宇宙にロケットを飛ばし地球人類の存在した証を何とか残そうと志す星川ユイとその組織を描く。
かって小松左京氏が「日本沈没」というSF大作において、大異変を迎え“日本人の行く末”を描いたのだが、上田 早夕里氏は更に“人類の行く末”を壮大なスケールで描こうとした。人類の歴史は本編のタイトル(深紅の碑文)にあるように、まさに“真っ赤な血色に染まった歴史”でもある。現在もイラクやシリアで繰り広げられている戦いは本編で描かれる殺戮戦を想起させる絶望的な「人間の業」と思われる。星川ユイの願いを込めたロケットにはこの負の財産とも言える“深紅の碑文”は積まれてはいない。
一見人類の希望とも受け取られるロケット発射に対し一抹の虚しさを感じるのは僕だけであろうか。
人間の生きざまとしてはラブカの首領であるザフィールに惹かれる。滅びゆく地球と共に人類も滅ぶ方が良いのかも知れない。
2013年12月19日第1刷
1,680円+tax
おススメ度:★★★★★
前作「華竜の宮」で25世紀の地球はホットプルームの噴出によって海面が250mも上昇した世界を描いた。続編となる本編では更なる“大異変”によって地球は分厚い氷で覆われるであろうという人類絶滅の危機がせまる。
その“大異変”を前にして、人類は陸上民と海上民が資源の争奪を激化しつつあった。本編では前作で中心人物として描かれた青澄誠司が再び登場する。彼はラブカ(反陸上民を標榜する海賊)と陸上民国家との戦いを終わらせるべく奔走するのだが両者の戦いは益々激烈化していった。
それは陸上民と海上民という「人種間の闘争」ではなく、互いに人間とは認めないまでの「異なる種同士の闘争」であったからだ。陸上民が最終的に放った兵器は“殺戮知性体”といわれる恐るべき殺人兵器であった。これは相手が人間であるとは認識していない何よりの証左とも言えた。
物語の大半はラブカの首領となったザフィールと陸上政府運との凄惨な戦いが描かれ、これに青澄誠司がからんで行く。この縦軸とも言える二人を取り巻く組織、人間模様を描くと同時に、宇宙にロケットを飛ばし地球人類の存在した証を何とか残そうと志す星川ユイとその組織を描く。
かって小松左京氏が「日本沈没」というSF大作において、大異変を迎え“日本人の行く末”を描いたのだが、上田 早夕里氏は更に“人類の行く末”を壮大なスケールで描こうとした。人類の歴史は本編のタイトル(深紅の碑文)にあるように、まさに“真っ赤な血色に染まった歴史”でもある。現在もイラクやシリアで繰り広げられている戦いは本編で描かれる殺戮戦を想起させる絶望的な「人間の業」と思われる。星川ユイの願いを込めたロケットにはこの負の財産とも言える“深紅の碑文”は積まれてはいない。
一見人類の希望とも受け取られるロケット発射に対し一抹の虚しさを感じるのは僕だけであろうか。
人間の生きざまとしてはラブカの首領であるザフィールに惹かれる。滅びゆく地球と共に人類も滅ぶ方が良いのかも知れない。