司馬遼太郎著『坂の上の雲 六』 文春文庫 2009.11.20 第31刷 638円+tax
オススメ度:★★★★☆
第6巻では主に当時の帝政ロシアの内情と、後方霍乱を狙った明石元二郎の諜報と革命扇動の活躍を描いている。
満州においては帝国陸軍は戦費が脆弱ゆえの兵員、兵器不足に悩まされ、次に予想される奉天会戦に勝って日本が優位な状態で講和に持ち込まなくては国家の財政は完全に破綻することは明らかであった。
出来ればロシアの内情が不安定な要素が噴出しつつあった状況を利用し、ロシア内部から戦争続行が不可能ならしむることが火急の課題であった。
大本営はここにちょっと毛色の変わった明石元二郎大佐を起用し、当時の金で100万円もの大金を預け諜報活動に専念させた。
彼の風采は貧相で、どこから見ても日本の軍人というより韃靼人にしか思われなかったようである。
その彼が目を付けたのがストックホルムに在住した亡命フィンランド人クリヤスクであった。
彼は「フィンランド過激反抗党」の党首であり、帝政ロシアの侵略に反抗するフィンランドやポーランド国内の抵抗組織ばかりではなくロシア国内の多くの反体制組織と通じていた。
明石はこうしたクリヤスクの人脈を利用し、ありとあらゆる抵抗組織の中心人物と知り合うことが出来、彼らの求めに応じて抵抗の為の資金を提供したのであった。
後に各国の様々な反帝政ロシアの抵抗組織を集めた「パリ大会」を開催するまでに到り、実際この後にロシア国内においても抵抗運動が大いに盛り上がったという。
通常、国家間で戦争が起きる場合にはそれ以前から互いの諜報組織が暗躍するのは世界の常識であるが、我が国においてはそのような組織的「軍事諜報機関」を欧米には置いていなかった。わずかに日本大使館に派遣した駐在武官が軍事情報を収集する程度で、明石が行ったような諜報、後方霍乱の活動は望むべくもなかった。
当時はもちろん、現代においても明石元二郎という人物の評価はほとんどされていないのが実情であるが、彼の活動の影響たるや帝国陸軍でいえば数個師団に、海軍でいえば東郷の連合艦隊に匹敵する軍事的価値を生み出したともいえる。
さて、話を現代に移すと我が国の現状では未だに先進各国が有する諜報機関を持っていない。
巷に噂程度に「内閣情報室」やら自衛隊の「陸幕別班二部」なる情報機関が存在する、あるいは存在したと聞くが英国や米国そしてロシアやイスラエルのような強力な情報機関ではない。
いくら戦争放棄を宣言した国家とはいえ、その国土防衛上何ら手当てをしない、というのはあまりにも非常識な「国家」といえるだろう。
オススメ度:★★★★☆
第6巻では主に当時の帝政ロシアの内情と、後方霍乱を狙った明石元二郎の諜報と革命扇動の活躍を描いている。
満州においては帝国陸軍は戦費が脆弱ゆえの兵員、兵器不足に悩まされ、次に予想される奉天会戦に勝って日本が優位な状態で講和に持ち込まなくては国家の財政は完全に破綻することは明らかであった。
出来ればロシアの内情が不安定な要素が噴出しつつあった状況を利用し、ロシア内部から戦争続行が不可能ならしむることが火急の課題であった。
大本営はここにちょっと毛色の変わった明石元二郎大佐を起用し、当時の金で100万円もの大金を預け諜報活動に専念させた。
彼の風采は貧相で、どこから見ても日本の軍人というより韃靼人にしか思われなかったようである。
その彼が目を付けたのがストックホルムに在住した亡命フィンランド人クリヤスクであった。
彼は「フィンランド過激反抗党」の党首であり、帝政ロシアの侵略に反抗するフィンランドやポーランド国内の抵抗組織ばかりではなくロシア国内の多くの反体制組織と通じていた。
明石はこうしたクリヤスクの人脈を利用し、ありとあらゆる抵抗組織の中心人物と知り合うことが出来、彼らの求めに応じて抵抗の為の資金を提供したのであった。
後に各国の様々な反帝政ロシアの抵抗組織を集めた「パリ大会」を開催するまでに到り、実際この後にロシア国内においても抵抗運動が大いに盛り上がったという。
通常、国家間で戦争が起きる場合にはそれ以前から互いの諜報組織が暗躍するのは世界の常識であるが、我が国においてはそのような組織的「軍事諜報機関」を欧米には置いていなかった。わずかに日本大使館に派遣した駐在武官が軍事情報を収集する程度で、明石が行ったような諜報、後方霍乱の活動は望むべくもなかった。
当時はもちろん、現代においても明石元二郎という人物の評価はほとんどされていないのが実情であるが、彼の活動の影響たるや帝国陸軍でいえば数個師団に、海軍でいえば東郷の連合艦隊に匹敵する軍事的価値を生み出したともいえる。
さて、話を現代に移すと我が国の現状では未だに先進各国が有する諜報機関を持っていない。
巷に噂程度に「内閣情報室」やら自衛隊の「陸幕別班二部」なる情報機関が存在する、あるいは存在したと聞くが英国や米国そしてロシアやイスラエルのような強力な情報機関ではない。
いくら戦争放棄を宣言した国家とはいえ、その国土防衛上何ら手当てをしない、というのはあまりにも非常識な「国家」といえるだろう。