min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

山本兼一著『火天の城』

2009-09-27 16:46:47 | 時代小説
山本兼一著『火天の城』 文春文庫 2009.1.30第3刷 590円+tax
(本作品は2004年6月に文芸春秋社より単行本として刊行されたものの文庫化)
オススメ度★★★★☆

本作品は織田信長が安土の地に自らの壮麗な城を築いた時の一部始終を描いた壮大な城つくりの物語である。
もちろん信長が築いたと表現したが、築かせた、という意味である。その陰には幾千幾万の城を築いた人々と、その築城の頂点に立って指揮した普請大名の他に当然技術的な取り纏めを行った大工の総棟梁が存在した。
この物語の主人公は信長から築城の設計から施工の全てを任された岡部又右衛門とその息子、そして岡部一門の大工たちの苦闘を描いたものである。

信長は軍事的、政治的な面において未曾有の才能を発揮した天才と伝えられるが、一方茶の湯及び茶器を初め、絵画、建築など美術、芸術の方面にも並々ならぬ関心を示し、その鋭い感性と類稀なる美意識は他の武将をはるかに凌駕していたと言われる。
信長の軍事的な側面からの築城はもちろん重要な要素であるが、美意識の集大成としての「安土城築城」は大工たちにとって無理難題の集大成であったとも言える。

物語の骨子はこの築城に纏わる技術的な数々の難題を解いていく過程を描くばかりではなく、岡部又右衛門とその息子の、大工として生まれ落ちた者どうしの壮絶な葛藤を描いたところに着目したい。
親の目からすれば息子は何時までも半人前で、偉大な父を持った息子は時にその親の存在自体が大きな妨げに思えてくる。激しい親子間の葛藤の後に本当の親子としての絆は生まれるのか?
現代においても会い通じる親子の葛藤が本作の大きなテーマのひとつであろう。

ところで巻末の解説にも書かれていることであるが、安土城の築城に関しては充分な歴史的資料が現存しておらず、例えば使用した木材がどこから得られたかというような基本的な情報すら明らかではないという。
そんな中、作者である山本兼一氏は綿密な歴史資料の収集、調査を行った上で、誰しも考え付かなかったような想像力を駆使してその木材の入手ルート、隠されたエピソードを辣腕をふるって創作してゆく。その手並みはお見事と感嘆するしかない。
あと、城の礎となる城壁の石積みに、あの「近江穴太(あのう)の石工」が登場するが、戦国時代の築城物語に興味がある読者には堪えられない魅力である。