山本兼一著『雷神の筒』 集英社文庫 2009.3.25第1刷 667円+tax
(本作品は2006年11月に集英社より単行本として刊行されたものの文庫化)
オススメ度★★★★☆
織田信長の軍が長篠の戦いで甲斐の武田騎馬軍団を三段がまえの鉄砲隊で打ち破ったことはつとに有名な話である。
作者、山本兼一氏はこの長篠の戦いの戦法にも疑問を持つのであるが、その話は置いといて、では一体誰が織田の軍団に鉄砲を教えたのか?という点に照準を合わせた作品である。
作者が着目したのは橋本一巴という人物。どうも実在した人物のようであるが、『信長公記』ではほんの数行その名が記載されている程度の人物らしい。確かに信長に鉄砲を教えたとあるが、作中描かれる内容はほとんど作者の創造といっても良いようだ。
また、作中に雑賀の孫市が登場し、主人公橋本一巴とからむシーンが重要な要素となるのだがこれらも全てフィクションの世界のようだ。それはそれで全く問題はない。
さて、この作品で描かれる織田信長であるが、今まで読んだ時代小説の中でも際立っていやらしい織田信長像となっているかも知れない。
それは橋本一巴に対する過酷なまでの扱いのせいであろうか。織田信長は若き日より誰よりも鉄砲の威力、戦略上で鉄砲が占める重要性を認識しており、そのために橋本一巴を重用したのではあるが、その貢献に対してけっして手厚い処遇を与えたわけではない。
いやそれどころか、理不尽なまでに橋本一巴に対し要求度を高めてゆく様は異常なほどである。
何故そこまで橋本一巴を憎むのか?その答えのひとつの理由が、橋本一巴の持つ「したり顔」であった、とするところがいかにも信長らしい、といえば言える。
鉄砲伝来の事実関係(単にポルトガル人が伝えたわけではない)の別の角度からの描写や、信長の描き方、更に冒頭で述べた長篠の戦の模様の実態などなど、かなり作者独特な切り口で語られるところが新鮮であった。
実はこの作者、織田信長にまつわる作品を他に2作上梓しており本作が3番目。
逆に『火天の城』→『白鷹伝』と読むのも一興か。
(本作品は2006年11月に集英社より単行本として刊行されたものの文庫化)
オススメ度★★★★☆
織田信長の軍が長篠の戦いで甲斐の武田騎馬軍団を三段がまえの鉄砲隊で打ち破ったことはつとに有名な話である。
作者、山本兼一氏はこの長篠の戦いの戦法にも疑問を持つのであるが、その話は置いといて、では一体誰が織田の軍団に鉄砲を教えたのか?という点に照準を合わせた作品である。
作者が着目したのは橋本一巴という人物。どうも実在した人物のようであるが、『信長公記』ではほんの数行その名が記載されている程度の人物らしい。確かに信長に鉄砲を教えたとあるが、作中描かれる内容はほとんど作者の創造といっても良いようだ。
また、作中に雑賀の孫市が登場し、主人公橋本一巴とからむシーンが重要な要素となるのだがこれらも全てフィクションの世界のようだ。それはそれで全く問題はない。
さて、この作品で描かれる織田信長であるが、今まで読んだ時代小説の中でも際立っていやらしい織田信長像となっているかも知れない。
それは橋本一巴に対する過酷なまでの扱いのせいであろうか。織田信長は若き日より誰よりも鉄砲の威力、戦略上で鉄砲が占める重要性を認識しており、そのために橋本一巴を重用したのではあるが、その貢献に対してけっして手厚い処遇を与えたわけではない。
いやそれどころか、理不尽なまでに橋本一巴に対し要求度を高めてゆく様は異常なほどである。
何故そこまで橋本一巴を憎むのか?その答えのひとつの理由が、橋本一巴の持つ「したり顔」であった、とするところがいかにも信長らしい、といえば言える。
鉄砲伝来の事実関係(単にポルトガル人が伝えたわけではない)の別の角度からの描写や、信長の描き方、更に冒頭で述べた長篠の戦の模様の実態などなど、かなり作者独特な切り口で語られるところが新鮮であった。
実はこの作者、織田信長にまつわる作品を他に2作上梓しており本作が3番目。
逆に『火天の城』→『白鷹伝』と読むのも一興か。