min-minの読書メモ

冒険小説を主体に読書してますがその他ジャンルでも読んだ本を紹介します。最近、気に入った映画やDVDの感想も載せてます。

君たちに明日はない

2007-05-05 09:29:12 | 「カ行」の作家
垣根涼介著『君たちに明日はない』新潮社 2005.3.30初版

なんとも因果な商売ではないか「リストラ首切り屋」とは。バブル崩壊後の日本の会社は未曾有のリストラに狂奔したのは記憶に新しい。自らの会社の人事部門が直接手を下すのではなく、リストラの通達、説得工作をアウトソーシングで「専門会社」に委託する。
こんな事が実際にあるのかどうか定かではないが、あるのかも知れない。
指名され呼び出されるリストラ社員もたまらないが、これを遂行する側だって相当なハードな職務である。
一日に5,6人の面接をびっしりこなさなければならない。本編の主人公はまだ30代初めの独身男であるが、その手腕はなかなかのものである。
リストラ対象の会社は多岐に渡る。主人公の真介が凄腕であることは間違いないものの、単なる非情な首切り人かと言えばそうではない。いくつかのエピソードの中でなかなかしゃれた人情味を発揮させる。
一方、やたら年上好みの男であることがこの作品の隠し味?となっており、冒頭の一遍でなかなか味なことをしてくれるが、最後の最後にほろりとさせる算段となっている。
垣根涼介氏といえば数々の犯罪小説で真骨頂を発揮してきた作家であるが、こうした軽妙な作品も上手にこなす作家であることがわかる。
派手なアクションシーンがなくとも作者一流の「人間を見る眼」に一本筋が通っており、それぞれの登場人物がものの見事に魅力的に描かれている。
今まで読まなかったのは本編の題にちょっと躊躇いがあったのだが、作者の今まで思っていたものとは違う側面、魅力を発見した気がする。オススメの一作だ。