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小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

『粘膜人間』by飴村 行

2021年01月24日 | 小説レビュー

『粘膜人間』by飴村 行

~「弟を殺そう」―身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐太は、弟の殺害を計画した。だが圧倒的な体力差に為すすべもない二人は、父親までも蹂躙されるにいたり、村のはずれに棲むある男たちに依頼することにした。グロテスクな容貌を持つ彼らは何者なのか?そして待ち受ける凄絶な運命とは…。第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した衝撃の問題作。「BOOK」データベースより

 

話題作というか、ずっと読みたくて図書館の予約かごには入れていたんですが、ホラー小説なので、僕自身の中で、なかなか優先順位が上がってこなくて・・・ しかし、ようやく借りて読みましたら、とっても面白かったです!発想が奇想天外で、章立ても良く考えられています。

飴村行氏のデビュー作である本著『粘膜人間』が、第15回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞した作品で、その後、味を占められたのか?『粘膜〇〇』という作品を立て続けに上梓されていますね

さて、本作ですが、確かにホラーというかスプラッター的要素があって、それも映画化すればB級ホラーの名作として語り継がれるような物語です。

気持ち悪い格闘・殺害シーンや、恐ろしい拷問の描写が、「これでもか!」と出てくるのですが、どこかユーモアがあって、クスっと笑ってしまうような感覚です。

特に河童三兄弟のキャラが秀逸で、かなり物語を盛り上げてくれましたね。

目次だけ見ると短編集のようですが、連作短編となっており、全体を通して楽しめました。

気持ち悪い描写が大丈夫な方になら、おススメしてみたい作品です。

★★★☆3.5です。


薄く浅く…残念『李歐』by高村 薫 

2021年01月22日 | 小説レビュー

『李歐』by高村 薫 

~惚れたって言えよ―。美貌の殺し屋は言った。その名は李欧。平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。「BOOK」データベースより

 

拡散しすぎて焦点がボヤけた感じ『マークスの山 上・下巻』by髙村薫

に次いで、高村薫女史の作品は二作目ですが、僕には全く合いません

マークスの山のレビューでも書きましたが、何か大ぶろしきを広げて、「どんな結末に持っていくんや!?」と読者を引っ張るんですが、全く期待外れというか、冗長なストーリー展開でダラけまくりでした。「最後までよく読んだよ」と自分で自分を褒めたいです。

一彰と別れた李欧が世界の市場を相手に大暴れして、とてつもない財力を手にするらしいのですが、何ともハリボテ感というか取って付けたようなお話でした。

緊迫感がほとんどない割に、変なとこだけリアルなこだわり(工場のシーンとか、拳銃の構造など)があり、肝心のストーリーはボヤけた感じで、物語に没入できませんでした。

李欧のカリスマ性は、何となく伝わったんですが、そのカリスマが、なぜ平凡な一彰に惹かれ、生涯のパートナーとして選んだのかという説得力が全くなく、モヤモヤした感じでした。

また中途半端な男色描写も良くわからず、原口や笹倉のキャラクターについても中途半端で、怖さや緊迫感は全然ありません。

なのにいきなり工場があんなことになって・・・ その後は何の追及もなく、無事に一彰は中国に渡り、最後はハッピーエンドという、全く面白くない小説の代表選手のような作品でした。読むのに時間がかかった分、評価は低くなりました。

★★2です。


町田氏の「猫愛」が溢れる作品『猫のエルは』by町田康

2021年01月18日 | 小説レビュー

『猫のエルは』by町田康

~「それでは第十二号議案、『猫君の暴虐に関しての対策案について』ですが、この件についてご意見のある方はおられますか」―諧話会議。
はやく魔法がとけるといいですね。いつとけるかはわかりませんけれども。―猫とねずみのともぐらし。
こんな眼で私を見るものはこの世にひとりしかいなかった。私方に二十二年間住まった錆猫、ココアである。―ココア。
でもそれでいいのだいったん死んでこの世に帰還したエルは生きてるだけで儲けだから―猫のエルは。
「私はできれば犬になりたい。犬になって元の家に戻りたいんです。可能でしょうか」―とりあえずこのままいこう。猫の眼で、世界はこんなふうに見えている。文章と絵で贈る、5つの猫の物語。


レビュー数は二桁と少ないのですが、とっても評価が高かったのと、町田康氏の作品なので図書館で借りてきました。
5つの短編が収められており、効果的に配置されているヒグチユウコさんのイラストと相まって、不思議な世界観を演出しております。
町田氏の「猫愛」がそこかしこに溢れていて、目を細めながら読みました。
イソップ童話のような物語やエッセイ風のものまで多岐にわたる5編なので、視点や物語のテイストが変化して面白い読み物だと思います。
「さすがは町田氏!」と拍手を送る一方で、猫派より犬派の私にとっては、そこまで感情移入できなかったのが残念です。

★★★3つです。


思いのほか拍子抜け『墨攻』by酒見賢一

2021年01月08日 | 小説レビュー

『墨攻』by酒見 賢一

~大国が覇を競う古代の中国。平和を説き、戦争で助けを求められればあらゆる手段で依頼者を守るスペシャリストの集団、墨子教団がいた。いま小城が呑まれようとするなか、教団の俊英・革離はひとり救援に駆けつける。二万の軍勢に囲まれた町を彼は守り通せるか?映画化もされた中島敦記念賞受賞の傑作小説!「BOOK」データベースより

 

全て読み終えてからのお楽しみ『後宮小説』by酒見賢一でも書きましたが、僕は森秀樹さんの書いた漫画『墨攻』が大好きでした。漫画しか知らなかったんですが、『後宮小説』を読んで酒見賢一氏の存在を知り小説版の『墨攻』を読んでみたくなり、借りてきました。

漫画版を熟読してきたので、内容は大体覚えており、「はいはい、こうなるわな」と思いながらページをめくりました。

しかし、割とあっさりと終わってしまったんで、少し拍子抜けでした

まぁ、小説としてはわかりやすく、非常に読みやすいので、是非とも読んでほしいですが、漫画版の方が色々な場面に強烈なインパクトがあり、キャラクターの立て方も抜群ですし、ストーリーも長く続きます。

革離の活躍の場面が多く、敵も強大になってくるので面白いです。機会があれば漫画版の方を読んでほしいですね。

★★★3つです。


同時通訳って大変!『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』by米原万里

2021年01月06日 | 小説レビュー

『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』by米原万里

~同時通訳者の頭の中って、一体どうなっているんだろう?異文化の摩擦点である同時通訳の現場は緊張に次ぐ緊張の連続。思わぬ事態が出来する。いかにピンチを切り抜け、とっさの機転をきかせるか。日本のロシア語通訳では史上最強と謳われる米原女史が、珍談・奇談、失敗談を交えつつ、同時通訳の内幕を初公開!「通訳」を徹底的に分析し、言語そのものの本質にも迫る、爆笑の大研究。「BOOK」データベースより

 

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』by米原万里を読んで、「なかなか面白い作家さんやね」と思ったので、米原万里さんの作品で評価が高いものを図書館で借りました。

『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』というタイトルからして「恋愛の話とか?エッセイとかかなぁ?」と、思って読み始めましたら、全く違う内容で驚きました

海外のニュース映像とかで同時通訳の言葉が流れたり、海外のスターが来日した時の通訳の人の言葉などを聞いていても、漠然と「スゴいなぁ~」とか、感心することはありましたが、この本を読むと、「通訳って、こんなに大変な世界なんや」ということが良くわかります。

んで、タイトルの意味は、通訳する人がどれぐらい流暢に日本語を駆使して、どれぐらい正確かということを4段階で分けたという意味でした。

1番:貞淑な美女(発言者の意図を正確に理解し、響きも美しく文法もしっかりした日本語で通訳)

2番:不実な美女(発言者の意図をあまり反映していないが、美しい日本語で通訳)

3番:貞淑なブス(発言者の意図を正確に理解しているが、伝える日本語が下手くそ)

4番:不実なブス(発言者の意図を反映もせず、日本語も下手くそ)

ということですね。

実際に通訳士として仕事をされているプロの方なので、4番はほとんどいないとのことですが、逆に1番も本当に稀な存在というか、そういう場面には、まず出会えることが大変貴重であるというケースです。

得てして、2番か3番に集約されるとのことですが、これを様々なケースや実体験に基づいて、ユーモアたっぷりに解説してくれています。

今まで、それほど通訳の方に対しての思いというのは無かった私ですが、この本を読んで、あらためて、国際会議や首脳会談における通訳士の方の果たす役割というのは本当に大きいものがあるなと感心しました。

機械があれば、是非読んでみてください。

★★★3つです。


まさに外道の所業『実録・外道の条件』by町田 康 

2021年01月04日 | 小説レビュー

『実録・外道の条件』by町田 康 

~なにゆえかくも話が通じないのであろうか。丁重な文面であるのにもかかわらず、その文面のなかにときおり顔をのぞかせる強い調子、攻撃的な排他性のごときを改めて強く感じ、その根拠として彼らが標榜しているボランティアという概念について、普段そんなことについてまるで考えたことのなかった私が、この困惑を契機に深く考えるようになってしまったというのは、いったいいかなる因果・因縁であろうか(「地獄のボランティア」より)。芥川賞受賞第一作となった傑作小説集。「BOOK」データベースより

 

「ノンフィクション?エッセイ?それとも作り事?」と、まぁ本当のところはどうなのか?そんなことはどうでもいいのです!「町田康は素晴らしい」の一言に尽きます!

4つの短編が収められており、どれも楽しく読めます。というか「マーチダ氏は本当にお人良しで、気が弱くて、とてもいい人やね」とホノボノします。

このタイトルからして、「外道」という方々が大暴れするような、北野武のハードボイルド映画のようなものを想像するからもしれませんが、まったく違います!

でも外道な人達に翻弄されるマーチダ氏が中々可哀そうで大変な物語ばかりです。エッセイのようでありますが、まぁ実際にこれに近い体験を町田氏がされていることは間違いないと思います。本当にリアリティがあって、良くできたお話です。

特に、「地獄のボランティア」は本当にヒドい話ですし、「紐育外道の小島 1998年7月」の富山しゅず子女史が、その後どうなったのかとても心配です

町田康ファンなら、必読の一冊でしょう!

※ちなみに表紙のイケメンは町田康氏本人で、カメラマンは、かの有名な荒木経惟氏です。

★★★☆3.5です。