「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

長編だが期待はずれ『宿屋めぐり』by町田康

2020年03月31日 | 小説レビュー
『宿屋めぐり』by町田康


「主よ。主よ。教えてください。俺は正しい航路を進んでいるのですか」
主の命で大刀奉納の旅道中の鋤名彦名は、謎のくにゅくにゅの皮に飲み込まれ贋の世界へはまりこむ。
真実を求めながらも嘘にまみれ、あらぬ濡れ衣の数々を着せられて凶状持ちとなった彦名。
その壮絶な道中の果ては。野間文芸賞受賞作。「BOOK」データベースより

大好きな町田康作品の中でも、『告白』と双璧をなす長編として有名な『宿屋めぐり』を借りてきました。

752ページの大作なので、図書館でカウンターに出されてきたときは「おおっ!分厚いやん!」と、少し怯みました

『告白』も680ページの超長編でありますが、熊太郎の不器用な人柄と、思弁的頭脳の煩悶が見事に描かれ、何をどう足掻いても、マイナス、反作用、そしてどん底かと思ったら、まだ底があったという、本当に悲しくもつらい内容でした。

しかし所々で、動物が絡む笑いのシーンや、盟友:弥五郎との深い友情の温もりもあり、本当に名作だと思っています。

ところが、この『宿屋めぐり」の主人公:彦名は、本当にいい加減な駄目な奴で、全く同情や共感ができません。

何とか一念発起?気持ちを入れ替えて、性根をすえて、物事に取り組もうとするのですが、すぐに諦め、ええ加減な態度・対応をしてしまって、泥沼にはまっていきます。

そして、『主(しゅ?あるじ?と読むのか?)」という、彦名の上司というか殿というか、絶対的な神様のような人物が、彦名の過去の思い出の中で登場するのですが、存在が何ともミステリアスで強大で、空恐ろしい存在です。

最後の最後に、その主と彦名の対面の場面があるのですが、対話のシーンは読ませるものの、最後の締め方がイマイチで、少し残念でした。

まぁそれにしても、これだけの大作を「良くぞ書き上げた!」と、労いの拍手は送りますが、ストーリーとしてはイマイチです。

一週間かけて読みきりましたが、★★★3つどまりですね。



コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため

2020年03月30日 | 雑感・日記的な
今晩、小池都知事が記者会見で、「夜間のクラブやバー、カラオケ、ライブハウスなどへの出入りを自粛していただきたい」との要請を出したとのことです。

もちろん上記の場所は、感染リスクが高いと言えますが、もっと危険な場所もあるのでは?と思います。

それは「パチンコ店」でしょう!

僕も半年前ぐらいまで、結構な頻度でパチンコ店に通っていましたが、最近はパッタリと行ってません。

僕の主観ですと、パチンコ店の客層は、半分以上が60代以上の高齢者といえます。

パチンコ店内の様子は、いわゆる「3密(密閉、密集、密接)」の条件を満たしていると思います。

お客さん同士の会話というのは、ほとんどありませんが、隣のお客さんとは肩が触れるほどの密接距離ですし、台のハンドルは、誰が触ったかわからん状態です。

自分が行かないから言うのではありませんが、今こそパチンコ店への出入りを自粛した方が良いと思いますね。

なかなか読ませます!『GOTH』夜の章・僕の章by乙一

2020年03月19日 | 小説レビュー
『GOTH』夜の章・僕の章by乙一


~連続殺人犯の日記帳を拾った森野夜は、次の休日に未発見の死体を見物に行こうと「僕」を誘う…。
人間の残酷な面を覗きたがる者〈GOTH〉を描き本格ミステリ大賞に輝いた乙一の出世作。
「夜」を巡る短篇3作を収録。 「GOTH」シリーズシリーズ1冊目:「GOTH 夜の章」
世界に殺す者と殺される者がいるとしたら、自分は殺す側だと自覚する少年「僕」。
もっとも孤独な存在だった彼は、森野夜に出会い、変化していく。彼は夜をどこに連れて行くのか?「僕」に焦点をあてた3篇を収録。「GOTH」シリーズ2冊目:「GOTH 僕の章」


 「夏と花火と私の死体」、「暗いところで待ち合わせ」に次いで、ミステリのみならず、ホラー、ファンタジーの分野でも名高い乙一氏の作品三作目です。

『GOTH』は、そのタイトルと、表紙のシンプルさから、ずっと気になっていた作品です。もとは、『GOTH―リストカット事件』として、2002年に発売されたものを二冊に分けて2005年に文庫化された作品です。

『夜の章』と『僕の章』に分かれていて、順番からすれば、『夜の章』から先に読むと良いみたいです。

なかなか読み応えがある連作短編集で、それぞれのストーリーの中には色々な仕掛けが満載で、「犬」をはじめ、とんでもない叙述トリックが埋め込まれています。

最後の『声』が一番ドキドキしますし、最後最後のどんでん返しというか、オチの意外性にはビックリさせられること間違いなしです。

「鮮やかやねぇ~!」というほどの切れ味はありませんが、もう一度読み返したくなるような。じっくりと考えさせられるトリックでした。

上下巻を通じて、主人公の高校生の男の子の特異性は言うまでもなく、共感できる人間性はありません。しかし、ヒロインの「森野夜」の人間性をもう少し掘り下げてくれると面白みも増えたかも知れませんね。

★★★☆3.5です。

発想は面白いが・・・、『慈雨』by柚月裕子

2020年03月17日 | 小説レビュー
『慈雨』by柚月裕子

~警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。
旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。
手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。
場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。
安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。
「BOOK」データベースより


『孤狼の血』、『盤上の向日葵』に次ぐ、柚月裕子さんの三作目です。2019年4月に発刊されたので、結構新しい作品です。

とても評判が高かったので、図書館ですぐに予約しましたが、ようやく読むことが出来ました。

柚月さんは、相変わらず文章がとても上手で読みやすく、キャラクターの立て方や人物描写が上手です・・・、が、しかし、今作はなんともしまりのないストーリーでがっかりでした。

警察小説とお遍路を組み合わせて、おもしろい展開ですし、過去の事件と冤罪の行方、そして遅々として進まない現在の事件の捜査状況など、ハラハラさせる設定は良いと思います。

しかしながら、ミステリー小説として読んだ場合、犯罪が暴かれる瞬間の「なるほど!そういうことか!」という驚きや、「そういう犯人やからこんな時間差が!」という驚きは全然ありません。

さらに、冤罪の行方についても、ハッキリとした描写はありませんし、その後、神さんも鷲尾さんも緒方もどのようになっていくのかということが読者の想像に委ねられて終わります。

『慈雨』というタイトルの意味が最後の最後に登場しますが、「それほど?」というのが率直な感想です。

出版社の意向なのか、作者の意向なのかわかりませんが、ミステリー小説などと謳わない方が良いと思いますし、『孤狼の血』の雰囲気でやっていかれるのも一つの選択肢かと思います。

ギリギリなんとか
★★★3つです。

程よい安吾ワールド『オモチャ箱 狂人遺書』by坂口安吾

2020年03月15日 | 小説レビュー
オモチャ箱 狂人遺書』by坂口安吾


~世間が顔をしかめる女たちが、安吾の前に頻出する。
安吾はそれを“自然”だとし、その文学の中に析出する。
安吾が析出した女たちは、40年の時空を超え、今、更に光を放ち、生き出し、動き出す。安吾が“予言者”であることを証明するかのように。
敬愛する牧野信一の人と文学を語る秀作「オモチャ箱」、坂口安吾晩年の力作「狂人遺書」ほか八篇を収録。「BOOK」データベースより


職場の同僚に「坂口安吾おもしろいねぇ~」という話をしていると、「これ面白いよ」と貸してくれました。
・母の上京・オモチャ箱・散る日本・水鳥亭由来・飛騨の顔・都会の中の孤島・中庸・砂丘の幻・狂人遺書・青い絨毯、という10編の短編集です。

坂口安吾は、なかなか物事を捉える視点が鋭く、一つ一つの言葉についてかみ締めて考えさせられるため、読むのに時間がかかりますが、今回は短編集なので、ほどよく消化できました。

「散る日本」や「水鳥亭由来」、「オモチャ箱」は、特に好きな作品です。そして秀吉の晩年を描いた「狂人遺書」は、「ほんまに秀吉が書き遺したんちゃう?」と思えるぐらいの力作です。
そのほかの短編も読み応えがありますし、坂口安吾の世界観を程よく理解できる作品集ですよ。

現代を生きる若者にも、是非とも読んでもらいたい作家の一人です。

★★★3つです。

共感できず・・・。『さくら』by西加奈子

2020年03月09日 | 小説レビュー
『さくら』by西加奈子

~スーパースターのような存在だった兄は、ある事故に巻き込まれ、自殺した。誰もが振り向く超美形の妹は、兄の死後、内に籠もった。母も過食と飲酒に溺れた。僕も実家を離れ東京の大学に入った。あとは、見つけてきたときに尻尾に桜の花びらをつけていたことから「サクラ」となづけられた年老いた犬が一匹だけ――。そんな一家の灯火が消えてしまいそうな、ある年の暮れのこと。僕は、何かに衝き動かされるように、年末年始を一緒に過ごしたいとせがむ恋人を置き去りにして、実家に帰った。「年末、家に帰ります。おとうさん」。僕の手には、スーパーのチラシの裏の余白に微弱な筆圧で書かれた家出した父からの手紙が握られていた――。「内容紹介」より

とても評判の高い作品であり、『さくら』というタイトルしか知らず、何の先入観もなく読み始めました。

『著者からのコメント』
「さくら」は、ある家族の物語です。
彼らは少し風変わりな五人と優しい一匹。色とりどりの春と、屈託のない夏と、センチメンタルな秋と、静かな冬、彼らに巡ってくる、そして誰にでも巡ってくる季節の、そしてその中で起こった小さな、でも、かけねの無いある「奇跡」の物語です。
だからこれはあなたの物語であり、私の物語であり、どこかで眠ってる誰かの物語でもあります。
これを読んでくれたあなたが、恋人に会いたくなったり、お母さんに手紙を書いたり、友達の肩を叩いたり、そう、いつもより少し優しくて、暖かい気持ちになってくれたなら、私はとても幸せです。



とありますが・・・、「ならんね!少なくとも俺はならんよ!」と言いたいです。

西加奈子さんの作品というか、人物描写などは好きな方なんですが、今回はテーマが重い上に、「キャラが立っている」、「個性的」なんていう表現を通り越して、「狂人の域」というか・・・。
長谷川家の家族以外にも、とても強烈なキャラクターが登場しますが、それぞれがトンガリ過ぎていて、一冊の本の中に納まりきらないような感じがしました。

妹が最愛の兄にしてしまったことは、まさに「取り返しのつかへん罪」ですし、壊れていく家族のもとを黙って去っていった父親が、数年後にひょっこり戻ってきても何の波風も立たない家族の雰囲気にも違和感を感じました。

家族の全員が何か重大なことを心の中に隠していながら、またそれに家族も気付いていながら、普通に暮らして笑っていられるというのはおかしいですし、共感できませんでした。

西加奈子さんの文章は読みやすいので、スラスラと読みましたが、あまり「良かった」とは言えません。
愛犬の「サクラ」が出てくる場面だけが、心温まるシーンであり、それ以外は救いようがない感じです。

★★☆2.5です。

しっかりと完結!読み心地がいい!『ダークライン』byジョー・R. ランズデール

2020年03月06日 | 小説レビュー
~『ダークライン』byジョー・R. ランズデール


~テキサスの田舎町に引っ越してきた「私」は、森で焼け落ちた屋敷の跡を発見。
同じ夜、少女が首無し死体で発見された。
人生で最高に輝いていた夏休みと、それを彩ったおぞましくも懐かしい事件。「MARC」データベースより


いろんなジャンルの小説を読んでいますが、外国ミステリーの翻訳版も好きなジャンルのひとつです。

この『ダークライン』は、ジョー・R. ランズデールという、アメリカを代表する作家の一人で、西部劇、ホラー、SF、ミステリ、サスペンスなど幅広いジャンルの作品を世に出されている方です。

もうひとつ『ボトムズ』という作品が有名で、どっちを読んでも良いそうですが、『ボトムズ』の方が、若干シリアスで、暗いイメージだそうですので、『ダークライン』を読んでよかったです。

僕は、『ダークライン』を読みながら、小さい頃にテレビで見たアニメ、世界名作劇場『トムソーヤーの冒険』を思い出しながら読みました。



『トムソーヤーの冒険』は、アメリカの片田舎の少年たちの冒険の話やったんですが、ほのぼのとしたストーリーの中に、「インジャン・ジョー」という恐ろしい男が登場してきます。



このインジャン・ジョーが出てくる度に、ドキドキしながら見ていたことを覚えています

さて、『ダークライン』のストーリーも、何となく『トムソーヤーの冒険』に似ているような雰囲気で、テキサス州あたりの田舎で繰り広げらる家族を中心とした物語です。

「ホラーサスペンスミステリー」と称される本作ですが、怖さはそれほどでもなく、どこか明るい光が差していて、読みやすかったです。

旧きよきアメリカに色濃く影を落としていた人種差別の問題が描かれているのですが、深刻さはなく、主人公の父親や母親が本当に良い人で、気持ちよかったですね。

そして何より、愛犬の『ナブ』の存在が物語に温もりと笑顔と輝きを与え続けてくれており、「あぁ~やっぱり動物が出てくる話はいいよねぇ~」と、目じりが下がる思いで読んでいました。

物語がある程度しっかりと収束していき、納得できる仕上がりでした。

★★★3つです。

思ってたより恐怖は・・・。『メドゥサ、鏡をごらん 』by井上夢人

2020年03月05日 | 小説レビュー
~作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。
傍らには自筆で〈メドゥサを見た〉と記したメモが遺されており、娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。
だが、何かがおかしい。次第に高まる恐怖。そして連鎖する怪死! 身の毛もよだつ、恐怖の連鎖が始まる(講談社文庫)。 「内容紹介」より


『ラバーソウル』以来の井上夢人氏の作品です。

あまりホラーミステリは好みではないんですが、結構な前評判だったので、図書館で借りてきました。

なんせ、タイトルからして「これは怖いよ」という雰囲気がありありでしょう

読み始めてすぐに、ぐいぐいと引き込まれ、怖さというよりも、「この謎の行方は?答えはなんや!誰か解いてくれ!」という思いでページを捲る手が止まりません。

『ラバーソウル』も、とてもよく出来たプロットで、ぐいぐい引き込まれましたが、結末は案外でした。

本作も、途中からクライマックスまでは良く出来ているのですが、いよいよというあたりで、いわゆる「ミイラ取りがミイラに」という展開にガッカリし、最後までモヤモヤしたままで終わりました。

途中までがとても良かっただけに残念です。

★★★3つです。