~豊臣秀吉の天下統一前夜。肥後国(熊本)田中城では村同士の諍いの末、一人の男の命が奪われんとしていた。彼の名は岡本越後守。
だが、男は潔く首を差し出そうとするも、突如来襲した秀吉軍に城内は大混乱に陥ってしまう。
九死に一生を得た男は、武器を取って応戦するが、これがめっぽう強かった。その戦いぶりを見込んだ敵将・加藤清正は、最愛の女性「たけ」を人質に軍門に降らせ、朝鮮の陣に従軍させることに成功するが―。
豊臣に故郷・肥後を踏みにじられ、復讐心に燃える軍人・岡本越後守。豊臣にひたすらに忠節を尽くさんとする猛将・加藤清正。男の意地と意地が、朝鮮の戦場で激突する! 「BOOK」データベースより)
時代小説の王道を行く中路啓太氏ですが、作品を初めて読みました。563頁の大作ですが、それほど時間を要さなかったのは、内容が面白かったからでしょう。
「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞作らしく、しっかりとした時代考証に裏付けられた佳作だと思います。また、巻末の解説がとてもわかりやすく、「ふむふむ、その通り」と納得しましたね。
歴史上の有名武将たちの傍らで活躍した無名の男が主人公という話ですが、全く無名でもなく、実は「沙也加」という謎の男がいたんですね! 秀吉の朝鮮出兵の際に加藤清正麾下の武将として朝鮮の地を踏んだのですが、「この戦に大義なし」として出奔し、朝鮮側に付いて、鉄砲製造技術や刀槍の鍛造技術、日本軍の戦術など、貴重な情報をもたらし、日本軍側を苦しめた男だそうです。
そういう人物がいたということは間違いないらしいのですが、諸説あって日本名が定かでなく、本書の主人公である「岡本越後守」も、その一人だということです。
いずれにしても、「もののふ道=武士道」を貫き通した男前の侍というのは、どんな物語でも輝くもので、本書においても格好よく、そして人間味溢れる好漢として描かれています。
準主役ともいえる、「たけ」と「粂吉」の存在も物語を大きく引き立て、静かなエピローグを厳かなカタルシスに導いてくれます。
中路啓太氏の文章はとても読みやすいので、その他の作品も読んでみたくなりました。
★★★☆3.5です。