~白昼、老人は渋谷の交差点で何もない空を指して絶命した。死の間際、老人はあの空に何を見ていたのか。突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。
老人が死んだ同じ日、一人の公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる刑事・相馬。廃屋に残された夥しい血痕、老人のポケットから見つかった大手テレビ局社長の名刺、遠い過去から届いた一枚の葉書、そして闇の中の孔雀。二つの事件がひとつに結ばれた先には、社会を一変させる犯罪が仕組まれていた。
鑓水、修司、相馬の三人が最大の謎に挑む。~上巻「BOOK」データベースより
~失踪した公安警察官を追って、鑓水、修司、相馬の3人が辿り着いたのは瀬戸内海の小島だった。そこでは、渋谷で老人が絶命した瞬間から、思いもよらないかたちで大きな歯車が回り始めていた。
誰が敵で誰が味方なのか。あの日、この島で何が起こったのか。穏やかな島の営みの裏に隠された巧妙なトリックを暴いた時、あまりに痛ましい真実の扉が開かれる。すべての思いを引き受け、鑓水たちは巨大な敵に立ち向かう! ~下巻「BOOK」データベースより
『日本の司法制度に一石を投じる大作!『幻夏』by太田愛』に次いで、太田愛さんの二作目です。上下巻あわせて920頁のボリュームですが、ストーリー展開が巧みで引き込まれます。
前半がやや冗長に感じますが、下巻に入ってからの戦時中のエピソードの下りなど、大変な緊迫感をもって物語に重みと深みを与えています。
いよいよ宣戦布告からクライマックスに入るのですが、中々の盛り上がりをみせ、見事な終幕を迎えます。
鑓水、相馬、修司の三人組が個性的なはずなんですが、今作ではそれぞれの違いがわかりにくく、セリフも「誰が言ってるのか?」というのが今一つダイレクトに伝わりにくかったです。
それでも読み応え抜群の大作で、特に戦時中の大本営や報道機関のあり方など、とても勉強になりましたし、今の時代ならそこまでの言論統制や国家総動員法などということは有り得ないとは思いますが、我々国民も政治に諦めるのではなく、一人一人が関心を持って、日々の暮らしの中の疑問について、真剣に考えていかなくては取り返しがつかないことになるかもしれません。
作中に、とても印象に残っているセリフがあります。
「しかし、いいですか、常に小さな火から始まるのです。そして闘えるのは、火が小さなうちだけなのです。やがて点として置かれた火が繫がり、風が起こり、風がさらに火を煽り、大火となればもはやなす術 はない。もう誰にも、どうすることもできないのです」
かわぺい@高校国語教師さんの「【書評】戦争と報道の罪~『天上の葦』(太田愛)」より抜粋
このセリフは、この物語の主人公の一人ともいえる、「正光秀雄氏」の言葉で、戦時中、大本営海軍報道部所属だった正光と、大手新聞社の記者であった喜重巌氏の会話の中での一文です。
各地で日本軍が玉砕、撤退している敗色濃厚な状況にあった昭和19年頃、報道管制がかかり、日本の報道は歪められ、法律が変えられ、国家総動員で戦争に立ち向かうという、とんでもない戦争の大火に巻き込まれていった様を憂いているのです。
こういう歴史を伝えていただけるような世代の方々がどんどんとお亡くなりになっていきます。
そういう意味でも、このような小説によって、少しでも戦争の悲惨さや報道の在り方などが語り継がれ、若い人たちにも関心を持ってもらうことが大切だと思います。
★★★☆3.5です。