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小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

稚拙な展開に残念・・・『我が心の底の光』by貫井徳郎

2020年06月30日 | 小説レビュー

『我が心の底の光』by貫井徳郎

 

~八〇年代のこの国に生を享けながら、豊かさとは無縁に、飢えて育った峰岸晄。感情を殺して生きる晄の、心の底に差す光は何なのか?全編を覆う「無温の世界」。身を震わせるラストの衝撃!胸を撃ち抜く傑作長編! 「BOOK」データベースより

 

う~ん、どうでしょう?貫井徳郎ファンの一人としては、何とも言えない感想です。

初めて読んだ貫井徳郎氏の『慟哭』の出来が素晴らしすぎて、それから数冊読んでいますが、そうやって考えてみると、『慟哭』以上の作品は全くありませんでした。期待が大きすぎるのでしょうか?

今回の『我が心の底の光』という作品は、児童虐待(ネグレクト)によって、死の淵をさまよった一人の悲劇的な主人公が、危機的な状況から脱出して、その後の人生を歩んでいく物語です。

ある一定の年代ごとの連作短編集になっていて、楽しめそうな雰囲気がありましたが、途中から「そんな簡単にうまいこといくかい?」と、突っ込みどころが満載で、興ざめしながらも最後まで読み進めました。

その求心力は、「主人公にハメられていく人たちと、主人公の間に何があったのか?」というところが朧げに隠されていて、終盤になってようやくその理由がわかってきます。

最後の最後にタイトルである「わが心の底の光」の『光』が何であったのか明かされるんですが、「ええっ、そこ!?」っていうほど間の抜けたオチでした。

これだけのことをしでかした上で、最後に守りたかったのはコレか?という感じで、腑に落ちませんでした。何も知らずに犠牲になった幼馴染の怜菜も可哀そうで・・・。

主人公の晄が、どのようにしてその知恵と知識を手に入れ、実行に移すことが出来たのかという裏付けがなされておらず、ハメられる人々も簡単に騙されていく様に稚拙さを感じましたし、主人公をはじめとする登場人物たちの感情の揺れ動きや思いの深さについての裏付けもありません。

残念ながら、

★★☆2.5です。


猿の惑星(PLANET OF THE APES)シリーズ観たよ!

2020年06月26日 | 映画・音楽

猿の惑星』って、子どもの頃に観たような観てないような?朧げな記憶と、なんとなくのストーリーしか知りませんでした。

 

先週、嫁さんがDVDを借りてきたのは、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』、『猿の惑星:新世紀(ライジング)』、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』の三部作でした。

前から興味はありましたが、「わざわざ借りてきてまで・・・」と思っていたんで観る機会はありませんでした。

まず嫁さんと長女が創世記、新世紀を続けざまに観たところ、「メッチャ面白かったよ!」と、話すもんですから、次女と二人で追いかけまして、一気に三部作を観終えました。

中々見応えがある作品で、どの作品もそれぞれに良さがあり、見どころも十分でした。

 

こうなったら、一応つながっているという約半世紀前の作品「猿の惑星」も観たくなりました!


読みやすい反面チープさも『握る男』by原宏一

2020年06月26日 | 小説レビュー

『握る男』by原宏一

 

~昭和56年初夏。両国の鮨店「つかさ鮨」の敷居をまたいだ小柄な少年がいた。

抜群の「握り」の才を持つ彼の名は、徳武光一郎。その愛嬌で人気者となった彼には、稀代の策略家という顔が。鮨店の乗っ取りを成功させ、黒い手段を駆使し、外食チェーンを次々手中に収める。

兄弟子の金森は、その熱に惹かれ、彼に全てを賭けることを決意する。食品業界の盲点を突き成り上がった男が、全てを捨て最後に欲したものとは。異色の食小説誕生。「BOOK」データベースより

 

見出しだけを読むと、いわゆる、『成り上がり小説』、『サクセスストーリー』という予感がします。しかしながら、中身はどんよりと暗く、主人公の二人が成功への階段を登っていく様も決して格好よくはありません。

原宏一氏の小説は初めて読みましたが、大変読みやすい反面、描写やセリフにややチープさを感じますし、全ての登場人物に好感が持てず、読んでいて爽快感や高揚感はありませんでした。

鮨屋での修行生活のあたりには、「なるほど」と気付かされる点や、社会で生きていく為のスキルなど、参考になる箇所もありましたが、乗っ取りが成功し、「いよいよ日本の外食産業を席捲していくぞ!」というあたりから、やや荒唐無稽な感じがして、興ざめすることもありました。

クライマックスからエンディングにかけても、少し無理筋の感がありましたし、前評判ほどではないなと感じました。

★★★3つですね。


叙述トリックに走りすぎたか『出版禁止』by長江俊和

2020年06月22日 | 小説レビュー

~『出版禁止』by長江俊和

~社会の暗部を暴き続ける、カリスマ・ドキュメンタリー作家の「心中事件」。相手は、有名女優の妻ではなく、不倫中の女だった。そして、女だけが生き残る。

本当は、誰かに殺されたのではないか?「心中」の一部始終を記録したビデオが存在する。不穏な噂があったが、女は一切の取材に応じなかった。7年が経った。

ひとりのルポライターが彼女のインタビューに成功し、記事を書き上げる。月刊誌での掲載予告。タイトルは「カミュの刺客」。しかし、そのルポは封印された―。いったい、なぜ?伝説のカルト番組「放送禁止」創造者が書いた小説。「BOOK」データベースより

 

 

とても興味深い設定に「こんなパターンは初めてかも?」と、期待しながら読み出しました。

文書表現や描写に若干の拙さがあり、「うまく事が運びすぎやん」と、興ざめする部分はあるものの、中々引き付けてくれる展開で最後まで一気に読み切りました。

色々と細かな叙述トリックやアナグラムが仕掛けてあるんですが、「仕掛けの為のストーリー展開になっている」という、よくあるパターンですね。

終盤に二転三転するんですが、今ひとつ納得いきませんし、考察サイトを読んでみても、「ふ~ん、そうなん?」と、テンションが下がる感じでした。

小説の設定上の物語とはいえ、人の命を奪うということに、もう少し意味や重みを持たせるべきだと思いますし、そこがボヤけてしまうと、全体がボヤけてしまうんで、それこそ本末転倒です。

テクニックに走りすぎて、読者に訴えるべきテーマやメッセージが伝わらず、そういう意味では残念な小説でした。

しかしながら、筆者がやりたかった「読者を騙す」という意味では成功したとも言えるので、

★★★3つですかね


発想が振り切ってます!『殺人出産』by村田沙耶香

2020年06月19日 | 小説レビュー

『殺人出産』」by村田沙耶香

 

~今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日、突然変化する。表題作他三篇。「BOOK」データベースより

 

コンビニ人間』以来の村田沙耶香さんの作品です。『殺人出産』という、何ともおどろおどろしいタイトルですが、中身の描写や表現はソフトです。タイトルの「殺人出産」の他に、「トリプル」「清潔な結婚」「余命」という短編が収められています。しかし、村田さんの作品は二作目ですが、文章というか発想は、かなり振り切ってますよね!

コンビニ人間』も興味深く読ませてもらいましたが、今回の作品は、ある意味パロディというかブラックコメディというか・・・。まともに考えたらあり得ない世界観です。

一番長編の「殺人出産」が、ある意味では一番面白くなかったです。

その他の短編も同じく、突拍子もない発想なんですが、「将来ありえるかもね?」という怖さも感じます

京都市でも、こんな動きがありました。↓

性的少数者カップルを認証 パートナーシップ宣誓制度、京都市も導入へ」

最近のLGBTの認知度はもちろんのこと、事実婚や同性パートナーシップ証明制度なんて、100年前には考えられなかった倫理観ですし、そういうことを考えると「100年後には、こんな殺人出産の世界になってるかもね」と思ったりもします。

コンビニ人間』でも、「何が普通か?多数派の意見がいつも正しいのか?」ということを突き付けられました。

今回の作品も、現代では「普通ではない」という考え方が、180度回転して、とんでもない世界になっているというお話です。

『トリプル』では、カップル(男女)で付き合うことがおかしくて、トリプル(男男女、女女男、女女女、男男男)で恋愛関係を構築することが流行の最先端。

『余命』では、医学の進歩により普通に寿命を全うして自然死することが難しく、生きたいだけ生きられるという時代に、「どのように自死することが格好いいか?」なんてことが雑誌で特集されるような世の中。

なんていう面白い作品が収録されています。

あっという間に読めるので、興味のある方は是非!

★★★3つです。


そんなに面白くなかったです『ロートレック荘事件』by筒井康隆

2020年06月17日 | 小説レビュー

『ロートレック荘事件』by筒井康隆

 

夏の終わり、郊外の瀟洒な洋館に将来を約束された青年たちと美貌の娘たちが集まった。

ロートレックの作品に彩られ、優雅な数日間のバカンスが始まったかに見えたのだが…。

二発の銃声が惨劇の始まりを告げた。一人また一人、美女が殺される。邸内の人間の犯行か?アリバイを持たぬ者は?動機は?推理小説史上初のトリックが読者を迷宮へと誘う。前人未到のメタ・ミステリー。~「BOOK」データベースより

 

ずっと読みたかった筒井康隆氏『ロートレック荘事件』です。

筒井康隆氏の作品は、『旅のラゴス』に以来二作目です。『旅のラゴス』がとても面白かったので、これも楽しみにしていたんですが、何てことはない、僕のあまり好みのジャンルではない「叙述トリック」ものでした。

読者をミスリードしながら、「ええっ!こいつがっ!」って感じで、最後に犯人が明かされるんですが、それまでの展開も面白くなく、キャラクターにも魅力を感じず、描写もイマイチで、まったくダイブできないままに真相が明らかになりました。

犯人がわかった後も、犯人自身の口からダラダラと動機や行動の告白があり、最後まで楽しめませんでした。

「これは読むべし」というランキングの中でも良く見かけるタイトルであっただけに残念でした。

★★☆2.5です。


小説とは斯くあるべし!『熱源』by川越宗一

2020年06月16日 | 小説レビュー
 
~故郷を奪われ、生き方を変えられた。それでもアイヌがアイヌとして生きているうちに、やりとげなければならないことがある。
北海道のさらに北に浮かぶ島、樺太(サハリン)。人を拒むような極寒の地で、時代に翻弄されながら、それでも生きていくための「熱」を追い求める人々がいた。
明治維新後、樺太のアイヌに何が起こっていたのか。見たことのない感情に心を揺り動かされる、圧巻の歴史小説。「BOOKデータベース」より
 
 
「第162回直木賞受賞作」ということで、発表されてからすぐに図書館で申し込み、やっと読むことが出来ました。
 
若い頃から小説は好きでしたが、本格的に読み始めたのは、ここ5、6年ほどでしょうか・・・。ミステリーを中心に色々な小説を読んできました。愛とか恋とか不倫とか、犯罪とか冤罪とか、少年とか老人とか、歴史ものとかSFとか、ホラーとかトリックとか・・・。 
それぞれに、それぞれの良さがありますし、感動もしましたし、落胆もしてきました。
 
この『熱源』を読んで、「やっぱり小説って、『作者が読者に何を訴えたいかというテーマが根幹にあるべきで、それ沿ったキャラクターを立てて、美しい描写と心のこもった台詞で繋げていき、起承転結に矛盾や取りこぼしのない形で締めくくる』という、しっかりとした骨太の物語であるべきやな」と改めて気付き、思いを深めました。
 
『直木賞受賞作』やから、こんなに絶賛するんじゃないですよ『直木賞』でも全然ハマらへん作品もたくさんありましたからね
 
さて、本作ですが、金田一京助氏が書いた『あいぬ物語』を基に、アイヌであるヤヨマネクフと、ポーランド人であるブロニスワフ・ピウスツキ、実在の人物を中心に、それぞれの生まれ故郷が、強大な力を持った国によって蹂躙され、翻弄されるながらも、自らのルーツを矜持として、大きな流れに逆らって生きていくというお話です。
 
「樺太(サハリン)」に暮らすアイヌの人たちを中心なんですが、「樺太(サハリン)」って、知っているようで、あまり詳しくは知りません。
 
この『熱源』という小説を通して、
 
・人間が生きていく意味、子や孫へ繋いでいく生き様
・日々湧き上がってくるはずの情熱、その源
・他民族、他人格を尊重し共存する形
・守り伝えていかなければならないこと
 
など、色々なことを考えさせられました。
 
最近でも黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に首を押さえつけられて死亡した事件があり、抗議デモが相次いでいます。その他にも、世界中で人種差別問題というのは、いつまでも根深く残っていると思います。
 
 
まさに、本書の伝えたかったことの一片が、ここにあるのかも知れません。スケールが大きく、様々なことを感じ、気づきを与えてくれた素晴らしい小説です。多くの方に読んでほしいですね。
 
★★★☆3.5です。
 

期待外れのエンディング『騙し絵の牙』by塩田武士

2020年06月10日 | 小説レビュー

『騙し絵の牙』by塩田 武士

 

大手出版社で雑誌編集長を務める速水。誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!「BOOK」データベースより

『盤上のアルファ』『罪の声』『盤上に散る』に次ぐ、塩田武士氏の4作目です。塩田氏の作品は、シリアスな場面なのに、どこかユーモラスな描写があったりして、ホッコリしたり、人間の内面の醜さや、逆にスッキリとした潔さなどを見事に描く作家さんです。

今回の『騙し絵の牙』は、表紙の写真のとおり、俳優の大泉洋氏をイメージして描いた作品らしく、のっけから「あぁ~この人物が大泉洋ね」と頭に描きながら読むことができました。

しかし、おちゃらけている場面では確かに大泉洋氏のイメージなのですが、「ちょっと格好よく書きすぎちゃう?」と思うこともしばしば・・・。

出版業界については若干ながらかじったことがある私ですので、専門用語や業界用語もわかりましたし、出版業界が抱えている現実的な問題など、色々と実感することが出来ました。

タイトルが『騙し絵』とあるので、「会社のみんなから好かれて頼りにされる主人公の実際の姿は実は!?」っていう展開が、どこで暴露されるのかと興味を持ちながら読みました。

終盤のクライマックスにさしかかり、「いよいよか!」というところで、最後の戦いに臨んだ主人公の運命は・・・?

敗者がリングを降り、そして関係者たちのその後の姿がエピローグで語られます。

まぁ、正直に言って、クライマックスまでがそれなりに楽しめただけに、エピローグの展開は、期待外れの的外れでした。

「タイトルに寄せようとして失敗したのか?タイトルが間違っていたのか?」は、わかりませんが、無理矢理に型に嵌めたようなラストには、決して拍手は送れませんでした。

実写化(もちろん大泉洋氏が主演)されるようですので、観てみたい気もしますがね。

★★★3つです。