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もののふ道を貫き通す!『もののふ莫迦 』by中路 啓太

2020年10月21日 | 小説レビュー

『もののふ莫迦 』by中路 啓太

~豊臣秀吉の天下統一前夜。肥後国(熊本)田中城では村同士の諍いの末、一人の男の命が奪われんとしていた。彼の名は岡本越後守。
だが、男は潔く首を差し出そうとするも、突如来襲した秀吉軍に城内は大混乱に陥ってしまう。
九死に一生を得た男は、武器を取って応戦するが、これがめっぽう強かった。その戦いぶりを見込んだ敵将・加藤清正は、最愛の女性「たけ」を人質に軍門に降らせ、朝鮮の陣に従軍させることに成功するが―。
豊臣に故郷・肥後を踏みにじられ、復讐心に燃える軍人・岡本越後守。豊臣にひたすらに忠節を尽くさんとする猛将・加藤清正。男の意地と意地が、朝鮮の戦場で激突する! 「BOOK」データベースより)


時代小説の王道を行く中路啓太氏ですが、作品を初めて読みました。563頁の大作ですが、それほど時間を要さなかったのは、内容が面白かったからでしょう。

「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞作らしく、しっかりとした時代考証に裏付けられた佳作だと思います。また、巻末の解説がとてもわかりやすく、「ふむふむ、その通り」と納得しましたね。

歴史上の有名武将たちの傍らで活躍した無名の男が主人公という話ですが、全く無名でもなく、実は「沙也加」という謎の男がいたんですね! 秀吉の朝鮮出兵の際に加藤清正麾下の武将として朝鮮の地を踏んだのですが、「この戦に大義なし」として出奔し、朝鮮側に付いて、鉄砲製造技術や刀槍の鍛造技術、日本軍の戦術など、貴重な情報をもたらし、日本軍側を苦しめた男だそうです。

そういう人物がいたということは間違いないらしいのですが、諸説あって日本名が定かでなく、本書の主人公である「岡本越後守」も、その一人だということです。

いずれにしても、「もののふ道=武士道」を貫き通した男前の侍というのは、どんな物語でも輝くもので、本書においても格好よく、そして人間味溢れる好漢として描かれています。

準主役ともいえる、「たけ」と「粂吉」の存在も物語を大きく引き立て、静かなエピローグを厳かなカタルシスに導いてくれます。

中路啓太氏の文章はとても読みやすいので、その他の作品も読んでみたくなりました。
★★★☆3.5です。

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公安捜査官の活躍シリーズ『凍土の密約』by今野 敏

2020年10月15日 | 小説レビュー

『凍土の密約』by今野 敏


~赤坂で発生した殺人事件の特捜本部に、警視庁公安部でロシア事案を担当する倉島が呼ばれた。被害者は右翼団体に所属する男だ。
二日後、今度は暴力団構成員が殺された。2つの事件に共通する鮮やかな手口から、倉島はプロの殺人者の存在を感じる。鍵はロシア、倉島は見えない敵に挑む。公安捜査官の活躍を描くシリーズ第3弾。「BOOK」データベースより


曙光の街』、『白夜街道』、そして、今作の『凍土の密約』、次いで『アクティブ・メジャーズ』、そして第5弾が『防諜捜査』、という、警視庁公安部警部補でエース候補の倉島が活躍する物語『倉島警部補シリーズ』の中の第3弾を、今野敏
ファンの同僚から、何の気もなく借りて一番に読んでしまいました
第一弾から読むのが一番いいんでしょうけど、途中から読んでも大丈夫です。

相変わらず文章が読みやすいですし、展開も早く、あっという間に読んでしまいました。
しかし、今野敏氏は本当にたくさんの本を出していますよね!筆が止まらないんでしょう。
名作も多いですが、「それなりやね」というのもあります。それでもハズレが少ない作家さんと言えるでしょう。
★★★3つです。

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様々な形の愛が表現されています『異人たちとの夏』by山田太一

2020年10月09日 | 小説レビュー

『異人たちとの夏』 by山田太一

~妻子と別れ、孤独な日々を送るシナリオ・ライターは、幼い頃死別した父母とそっくりな夫婦に出逢った。こみあげてくる懐かしさ。心安らぐ不思議な団欒。しかし、年若い恋人は「もう決して彼らと逢わないで」と懇願した…。
静かすぎる都会の一夏、異界の人々との交渉を、ファンタスティックに、鬼気迫る筆で描き出す、名手山田太一の新しい小説世界。第一回山本周五郎賞受賞作品。「BOOK」データベースより


親子愛、夫婦、恋人、友情など・・・、色々な感情が揺さぶられる作品です。山田太一さんという作家さんの作品は初めて読みましたが、中々良かったです。
1988年の作品ですが、それほどの古さは感じません。現実離れした世界観でしたが楽しみながら読めました。

 


大林宣彦監督のもと、主演が、風間杜夫、そして秋吉久美子,片岡鶴太郎,永島敏行,名取裕子の豪華キャストで映画化されています。第12回日本アカデミー賞最優秀賞2部門(脚本賞・助演男優賞)受賞、優秀賞11部門受賞のほか、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞など1988年度の映画賞を独占した話題作だそうです。

予告編を見て観たいと思いました。

いずれにしても、ファンタジー作品で、ありえない物語なんですが、現実との境界がボヤけていて、実際に起こっていた事件のようリアルに感じました。

そして、とても読みやすく、時に涙しながら読みましたが、最後のケイとの別れのシーンは怖かったですね。
曽野綾子さんの解説もわかりやすく、良い作品だと思います。


★★★☆3.5です。

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全て読み終えてからのお楽しみ『後宮小説』by酒見賢一

2020年10月08日 | 小説レビュー

『後宮小説』by酒見 賢一

 

~時は槐暦元年、腹上死した先帝の後を継いで素乾国の帝王となった槐宗の後宮に田舎娘の銀河が入宮することにあいなった。物おじしないこの銀河、女大学での奇抜な講義を修めるや、みごと正妃の座を射止めた。ところが折り悪しく、反乱軍の蜂起が勃発し、銀河は後宮軍隊を組織して反乱軍に立ち向かうはめに…。

さて、銀河の運命やいかに。第一回ファンタジーノベル大賞受賞作。「BOOK」データベースより

 

酒見賢一という作家さんの名前を見て何とも思わなかったのは不覚でした。僕の大好きなコミックスの一つに『墨攻』という作品があります。

革離という墨家集団(中国の秦始皇帝時代の戦術家・戦略家)出身の主人公が活躍する物語なんですが、とてもリアルで面白いんです。おすすめです。

墨攻=森秀樹さんというイメージで捉えていたので、小説の『墨攻』が原作であり、酒見賢一さんが記されたものだと全く失念しておりました。

その酒見賢一氏のデビュー作であり、「第1回日本ファンタジーノベル大賞」を受賞した作品が、この『後宮小説』なんですね。

さて、この物語は、王朝も人物もすべて架空の中国史小説風ファンタジーという異色作なんですが、選考会では井上ひさし氏によって「シンデレラと三国志と金瓶梅とラストエンペラーの魅力を併せ有す、奇想天外な小説」と高く評価された作品です。しかしながら、まるで中国の歴史書の一部を読んでいるかのような錯覚を覚える作品でした。

キャラクターづくりが秀逸で、好感が持てる人たちが多く登場します。また物語の展開スピードが速く、読んでいて気持ちいいです。

そしてクライマックスで盛り上がり、穏やかにエンディングを迎えますが、その後の歴史と後日談が語られて、Finとなるのですが、そのあとに筆者自身が語る「蛇足」の解説というか、あとがきのような部分が面白く、最後の最後まで読ませてくれました。

是非、色んな人に読んで欲しい小説なんですが、小説を読む前にレビューとか、『後宮小説』についての解説文などは絶対に読まないでくださいね。

★★★★4つの快作です!

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うすら寒くなる近未来ディストピア小説『1984年』ジョージ・オーウェル 

2020年10月07日 | 小説レビュー

『一九八四年[新訳版] 』byジョージ・オーウェル 

~“ビッグ・ブラザー”率いる党が支配する全体主義的近未来。
ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。彼は、完璧な屈従を強いる体制に以前より不満を抱いていた。
ある時、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことを契機に、彼は伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが…。二十世紀世界文学の最高傑作が新訳版で登場。「BOOK」データベースより)


とても評価の高いベストセラー小説です。『ディストピア小説』の代名詞のような作品で、「ディストピア」で調べると以下のような記述があります。

 ~よくSFなどで題材とされ、「表面的には秩序だって管理の行き届いた世界に見えるが、その内実は極端なまでの管理社会であり言論の自由などがない」社会として描かれることが多い。ジョージ・オーウェルの小説「1984年」などがとくに有名かと思われる。
また、自由な上層階級社会の下に人間扱いされない下層階級が描かれることも多く、ディストピア小説のはしりとされるH・G・ウェルズの「タイムマシン」においては、抑圧された労働者階級が地下に潜り無知な天使と化した旧上層階級を捕食する様子が描かれる。
尚、人類が伝染病や核戦争で滅亡していなくなってしまった世界をディストピアと呼ぶことがよくあるが、これらの世界観はポストアポカリプス「終末の後」と呼ばれる全くの別物であり、誤用である。

とのことです。

まさに、この物語は、「表面的には秩序だって管理の行き届いた世界に見えるが、その内実は極端なまでの管理社会であり言論の自由などがない社会」が描かれています。

世界は3つの大きな国(「オセアニア:南北アメリカとイギリス,及びオーストラリア・ニュージーランドと南アフリカを加えた,今でいう英語圏」、「ユーラシア:ロシアを中心としたポルトガルからベーリング海峡までの現在のヨーロッパ大陸」、「イースタシア:中国を中心とした日本を含む東アジア地域」に分かれていて、常に戦争状態にあるという近未来予測小説的な不思議な世界観です。

主人公のウィンストンは、党が支配するオセアニアの末端党員として日々の業務の淡々とこなしながら、監視社会に疑問と不満を心の中に浮かべつつも、行動を起こすことが出来ないでいます。

そんな中で無意識的に日記を付け始めたことから、少しずつ考え方や行動が変わってきます。

そして恋人ジュリアを得て、ウィンストンの行動は更に大胆になる一方で、「そう遠くない未来に自分は拘束され、拷問され、そして蒸発させられる」ということを確信していきます。

「このまま二人でうまく逃れられたらいいのになあ~」と思いましたが、そんな簡単にいく訳もなく・・・。

物語は後半から一気に進行し、党による拘束、拷問、洗脳、再人間化教育ともいえる施術を施し、ウィンストンの人格を破壊し、再生していきます。まぁ、これがなかなか見事なものでして、「こうして党独裁の社会とは築かれていくんかなぁ~」と思わされてしまいます。

歴史の中の独裁者、独裁国家の実例を挙げながら、まさに物語中のオセアニアが実在しているかのような錯覚さえ覚えます。

現代の日本のように、当たり前のことを当たり前だといえる世の中、自由に行き来が出来て、どんな人とも自由に会ったり、話が出来たり、そういう日常を貴重に思わなければなりません。

マイナンバーカードが導入されるときに「監視社会の始まりだ!」と声高に叫んだ人たちがいますが、近い将来に、自宅での会話が傍受され、街角での行動などがカメラに映り、何を買い、何を食べ、誰と会って、どんな話をしたかなどが国家の監視下におかれていくことも考えられないことはありません。そういう、うすら寒くなるような小説でした。

巻末の付録と解説もあわせて読むことをお勧めします。

★★★3.5です。

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