「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

幸せの形とは?『ラブレス』by桜木紫乃

2018年10月30日 | 小説レビュー
謎の位牌を握りしめて、百合江は死の床についていた―。
彼女の生涯はまさに波乱万丈だった。
道東の開拓村で極貧の家に育ち、中学卒業と同時に奉公に出されるが、やがては旅芸人一座に飛び込んだ。
一方、妹の里実は地元に残り、理容師の道を歩み始める…。
流転する百合江と堅実な妹の60年に及ぶ絆を軸にして、姉妹の母や娘たちを含む女三世代の凄絶な人生を描いた圧倒的長編小説。「BOOK」データベースより


「幸せって何?」と、自分自身に問いかけたくなる作品です。

百合江という主人公の波乱万丈の人生を、その母ハギ、妹の里実、百合江の娘の綾子・理恵、里実の娘・小夜子の視点で描かれる長編です。

北海道の釧路あたりを中心とした道東が舞台で、寒さと貧しさに震える環境が何とも言えない寂しい影を文章に落としています。

「何とか幸せになって欲しい」と願いながら読むのですが、最後の最後まで報われません。

しかし、終章で語られる言葉の一つ一つに、諦念の底から見えてくる温かな光のようなものを感じることが出来ました。

伊坂幸太郎の小説にあった台詞に「その人が幸せであったかどうかなんて、棺桶の蓋が閉まる瞬間までわからないんだから」とありました。

百合江は、人から見れば幸せな境遇では無かったかも知れませんが、本人は決してそう思っていなかったとわかります。

里実もハギも理恵も、みな一様に背負わされてきた、背負ってきたものが余りにも大きすぎて、蛇行しながら、フラフラになりながらも、人生を泳ぎ抜き、また泳ぎ続けていきます。

最後の最後、棺桶の蓋が閉まるときに、「幸せな人生やった」と思える人生を、あと20年、30年と生きていきたいと思います。

★★★3.5です。

おもしろいプロット『儚い羊たちの祝宴』by米澤穂信

2018年10月26日 | 小説レビュー
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。
夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。
翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。
優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。
甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。
米澤流暗黒ミステリの真骨頂。「BOOK」データベースより


米澤穂信氏の作品は5作目です。
僕の中での評価は決して高くないのですが、こないだ読んだ満願(短編集)は中々良かったです。

そして、この『儚い羊たちの祝宴』も短編集でした。

読み始めから、「おおっ!なかなかいけそうやん!?」と少し期待し、次の物語を読み終えると、「これは何か繋がりを感じる!」と。

そして、『バベルの会』という読書サークルを通じて繋がっていることに気づきます。

それぞれの物語は、大金持ちの上流階級一族の物語である連作短編集なんですね。

それぞれが繋がっているといっても、直接的な関与はなく、一つ一つが完結しています。

そして、最後の表題の物語が始まり、最後の最後で「おおっ!」と驚愕のエンディングを迎えます。

米澤氏の文体があまり好きではなかったんですが、今作はいい感じですよ!

★★★☆3.5です。

さすがの手腕『流星の絆』by東野圭吾

2018年10月21日 | 小説レビュー
惨殺された両親の仇討ちを流星に誓いあった三兄妹。
「兄貴、妹は本気だよ。俺たちの仇の息子に惚れてるよ」14年後―彼らが仕掛けた復讐計画の最大の誤算は、妹の恋心だった。「BOOK」データベースより


「うまくまとめてくるよねぇ~」と、思わず微笑んで本を閉じました。

最近読んだ小説が駄作続きやったので、ようやく一息つけた感じです。

読み始めから一気に物語に引きずり込まれる筆力は流石の東野圭吾です!

三人で詐欺を始めるまでの経緯が、些かハシょられてはいますが、一気に読めます。

もう少し三人の兄妹が過ごしてきた過酷な日々を描き、それぞれの性格やキャラクターづくりにページを割ければ完璧だったと思いますが・・・、すでに620ページを費やしていますから、それも無理なのかも知れません。

一方で戸神父子の方も描きかたが物足りなく、こちらも今一つです。

それでも後半で一気に真相までたどり着く過程は緊張感がありますし、どんでん返しや伏線回収も見事です。

ラストの仕掛けには思わず笑みがこぼれますし、ハッピーエンドに持っていく手腕は巧みですね!

安心して読める作品です。

★★★☆3.5です。

虚しさしか残りません『黄色い目の魚』by佐藤多香子

2018年10月18日 | 小説レビュー
~海辺の高校で、同級生として二人は出会う。周囲と溶け合わずイラストレーターの叔父だけに心を許している村田みのり。絵を描くのが好きな木島悟は、美術の授業でデッサンして以来、気がつくとみのりの表情を追っている。友情でもなく恋愛でもない、名づけようのない強く真直ぐな想いが、二人の間に生まれて―。16歳というもどかしく切ない季節を、波音が浚ってゆく。青春小説の傑作。


はぁ~・・・σ(^_^;)?
「虚無感」というのがピッタリの感想です。

まさに「虚しく何も無い」物語でした。

初っぱなから男の子の一人称で始まり、「これは嫌な予感」と思いながら読み始めましたが、いきなり打ち切られ、別の女の子の話になります。

「短編集なんか?」と思い、女の子の章が終わり、「まぁこれはこれで別の話に期待」と思いきや、なんと二人が出会い、物語はこの二人の微妙な恋物語へと繋がり、個性敵な周辺居住者が絡んできて・・・。

とまぁ何かを期待させますが、結局、物語を捏ねくりまわしただけで、一応感動のラストを迎えます。

本屋大賞というフレコミと、風変わりなタイトルに惹かれましたが、大きく期待を裏切られました。

台詞も心理描写も響かず、やたらと擬音を多用する文体にも違和感を覚えました。

もちろん感情移入できるわけもなく、一昔前に一世を風靡した「バーチャファイター」のポリゴンを見ているような気がしました。

人間の動きをコンピューターで、それらしく再現してる感じですね。

作り物の雰囲気が最後まで漂っていて、虚しさしか残りませんでした。

佐藤多香子氏の作品はいろいろ出ているみたいですが、もう手に取ることはないでしょう。

★★2つです。

全て物足りない『首無の如き祟るもの』by三津田信三

2018年10月16日 | 小説レビュー
奥多摩の山村、媛首村。
淡首様や首無の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。
三つに分かれた旧家、秘守一族、その一守家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。
戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。
本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る。「刀城言耶」シリーズ傑作長編。「BOOK」データベースより


とても評判の高い作品ですが、僕には全く合いませんでした┐('~`;)┌

表紙と題名からわかるように、ホラー&ミステリーです。しかも長編です。

人の名前や地名などが、わざと?読みにくい漢字を当ててあり、読みづらい上に、説明も長く、読むのに体力がいります。

台詞や描写に緊張感がなく、登場人物も、どこか間抜けな感じがして、感情移入もできません。

首なしの死体がバンバン出てくるのですが、おどろおどろしさや、禍々しさはなく、ホラーとしての恐怖感も足りません。

トリックが二重三重にも張り巡らされていて、何度も裏切られますが、「はいはい、そうだったのね」と、してやられた感はありません。

密室殺人のトリックを解くのが好きな方にはオススメですが、僕にはダメでした。

★★☆2.5です。

命の炎を燃やし尽くした究極の恋愛『冬の伽藍』by小池真理子

2018年10月11日 | 小説レビュー
煉獄の中で、私は天上の果実を口に含んでいた…。
夫を事故で失った高森悠子は、薬剤師として勤めることになった軽井沢の診療所で医師・兵藤義彦と出会う。
彼もまた、妻の美冬を自殺で亡くしていた。
義彦に恋心を抱きながら、好色なその義父・英二郎の誘いを拒みきれない悠子。
エロス匂い立つ、長編恋愛小説。「BOOK」データベースより


小池真理子作品の連読です。

やっぱり小池さんの作品は相変わらず情景描写、心理描写が美しく繊細です。

第一章は、冬の軽井沢を舞台に物語は進行します。

悠子と義彦が出逢い、そして義彦の義父である英二郎が絡んできて、物語は危ういバランスを保ちながら、まさにタイトロープの如くハラハラ、ドキドキの展開で事件が起こるまでを書いています。

そして第二章では、悠子を中心とした手紙のやりとりのみで、幾年もの歳月が経過し、そしていよいよ第三章で二人の運命がクライマックスを迎えます。

この書き方、章の組み立てが斬新で絶妙なんですね。

無駄なものを省きながら、それでいて読者に対してストレートに響く言葉の数々、そして目に浮かぶような情景描写、何もかもが儚く美しい「小池ワールド」に彩られています。

いよいよクライマックスを迎えるとき、一度は「これで終わってしまうんかい!?」と、落胆させておいての、素晴らしいエンディングに鳥肌が立ちました。

俗人的に言わせてもらえば、あと2、3ページを費やして、二人っきりの世界を描いて欲しかったと思いますが、それも必要ないですよね。

凄まじい環境を共有した二人が、まさに命を削ってつくりあげた究極の恋愛の形がここに描かれています。

★★★☆3.5です。

心乱される短編集『ソナチネ』by小池真理子

2018年10月04日 | 小説レビュー
生きて、愛して、死ぬ、ということ。
その途方もない歓喜と悦楽。
あなたの心をかき乱す、七つの物語。「BOOK」データベースより


相変わらず小池真理子さんの作品は素晴らしい世界観に包まれています。

七つの短編が収録されているのですが、どの作品からも、何とも言えない芳しい薫りが漂っていて、短編なのに、一つの物語を読み終える度に心の中の井戸に美しい宝玉を投げ込まれたように美しい波紋がふわ〜っと広がります。

巧く言葉で説明することが出来ませんが、やはり小池真理子さんが描き出す文章には、小池真理子さん特有の「危うく、儚げで、透き通っていて、それでいて震えるほど官能的」

そんな言葉や情景に満ち溢れています。

短編集だけあって、この『ソナチネ』は、老若男女問わず共感できる物語が一つ二つあると思います。

「もっと読みたい!この先はどうなるん?」と思うところで話が終わってしまうので、何とも言えない焦燥感と「ここで終わるからエエのよ」と納得する感情が綯い交ぜになって、心が乱されます・・・。

しかし、ますます小池真理子さんが好きになることは間違いなく、『交感』ではないですが、ファンレターを書きたくなりました。

★★★☆3.5です。

さすがは直木賞!『対岸の彼女』by角田光代

2018年10月03日 | 小説レビュー
専業主婦の小夜子は、ベンチャー企業の女社長、葵にスカウトされ、ハウスクリーニングの仕事を始めるが…。
結婚する女、しない女、子供を持つ女、持たない女、それだけのことで、なぜ女どうし、わかりあえなくなるんだろう。
多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く傑作長編。第132回直木賞受賞作。「BOOK」データベースより


角田光代さんの話題の作品ですね。直木賞受賞作品であり、映画化もされていて、そのタイトルは誰もが知っている有名作品ですね。

内気な主婦であるヒロインの小夜子は、様々な葛藤と悪戦苦闘しながらも現代を生きています。

もう一人のヒロイン、明朗快活な独身女社長の葵は、明るく元気に会社を切り盛りし 悩みごとなどないかのような毎日を過ごしています。

一見、正反対のように見える同い年の二人が出会い、意気投合して新しい事業を始め・・・、とストーリーは展開していきます。

現代を生きる小夜子と、葵の過去の出来事が交互に語られる形式で、物語は進行していくんですが、巻末にある森絵都さんの解説にも語られているように、読んでいくうちに、葵の女子高生時代の話が、まるで小夜子自身の過去のような錯覚を覚えます。

とても不安定で、「どうなってしまうん?」と、ハラハラしながら読み進めていくと、葵の凄まじくも悲しい過去の出来事が明かになり、小夜子と葵は訣別してしまいます。

ここで終われば、軽いミステリー小説なんですが、最後には、お互いがお互いを必要として、明るい未来に向かって小さくとも大きな一歩を踏み出して生きていこうとするハッピーエンドで締め括られています。

大きなどんでん返しとか、あっと驚く展開はなくても、「さすがは直木賞受賞作品やなぁ〜」と唸らせる読後感でした。

読者に対して、「周りの人々や環境に流されたり、甘んじることなく、希望を持って、自分自身の殻を破れば、明るい未来が拓けていくんだよ」と思わせてくれる、読み応えありの快作です!

★★★☆3.5です。

クオリティの高いミステリー『ユリゴコロ』by沼田まほかる

2018年10月01日 | 小説レビュー
ある一家で見つかった「ユリゴコロ」と題された4冊のノート。
それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。
この一家の過去にいったい何があったのか―。
絶望的な暗黒の世界から一転、深い愛へと辿り着くラストまで、ページを繰る手が止まらない衝撃の恋愛ミステリー!各誌ミステリーランキングの上位に輝き、第14回大藪春彦賞を受賞した超話題作!「BOOK」データベースより


まさに「一気読みの徹夜本」とは、この作品のことを言うのでしょう!

図書館に本を返しにいった際に、前から読みたかった『ユリゴコロ』が書架にあったので借りてきました。

昨日から読み始めたのですが、初っぱなから、中々のミステリー度合いで、グイグイと引き込まれました。

「謎が謎を呼び・・・」という展開で「どうなんのよ?」、「過去に何が起こったんや?」と、興味がページの先へ先へと引っ張られます。

過去に犯した過ちと悲劇の真相が明らかになり、さらに深まる悲劇が現代にまで続いていく、まさに「悲劇の連鎖」・・・。

出口のない苦しみと思いきや、驚愕と涙のクライマックス、そして爽やかなエンディングへと繋がる、沼田まほかるさん一流の「心に響くプロット」が施されています。
本当に「アッパレ!」としか言いようがありません。

映画版は、吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチが好演しており、こちらも「映画が小説を超えるのか?」楽しみです(^o^;)

★★★★4つです。