「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

きれいにまとめるね『無花果の森』by小池真理子

2019年02月23日 | 小説レビュー
『無花果の森』by小池真理子

~夫の暴力から逃れ、失踪。過去を捨て、未来を見失い、世間に怯える絶望の暗い谷底にかすかに射した一条の光―
孤絶にあえぐ現代人の心の闇に迫る傑作長編。「BOOK」データベースより


相変わらず情景や心理描写が巧みな作家さん「小池真理子」女史です。

巻末の解説を読んでみて、益々物語に深みが増しました。

夫の暴力から逃れて、岐阜県の大崖市(架空の街です。大垣市と掛けてるのかな?)にたどり着いた主人公の泉。孤高の老画家、天坊八重子の家に偽名を使って住み込みで家政婦として働き始めます。

とにかく大崖の空気が重い・・・常に雨が降っていて、ジメジメ、ドンヨリとして天気に読んでいて不快指数が増します

そういう情景描写のせいか、泉の性格のせいか?物語がずっと暗いままです。

鉄治と出会ってから、少し晴れ間ものぞきますが、相変わらずドンヨリした空気をまとって物語が進みます。

「このまま綺麗には終わらんよね」と思いながら読み進めますと、予想通りの展開。しかし、最後には爽やかなエンディングが待っていました。

伏線というか、泉の過去に何がったのか?(不妊症の疑い)や、初めに泉が泊まったホテルで朝食をとっていた中年の「ツカモトがご迷惑をかけまして」というあたり(何故、鉄治の上司が大崖に辿り着いていたのか?)など、伏線を敷いた割には回収されません。

そういうことも手伝って、読後感には「?」が残りました。

しかしながら、オカマのサクラもエエ味を出していましたし、登場人物が少なくて読みやすさはあります。小池さんの世界観は存分に発揮されていたと思いますし、良作だと思いますよ。

★★★☆3.5です。

中々やけど、あと一歩かな?『孤独の歌声』by天童荒太

2019年02月21日 | 小説レビュー
『孤独の歌声』by天童荒太

~凄惨な連続殺人が発生した。独り暮らしの女性達が監禁され、全身を刺されているがレイプの痕はない。
被害者の一人が通っていたコンビニでの強盗事件を担当した女性刑事は、現場に居合わせた不審な男を追うが、突然彼女の友人が行方不明に…。
孤独を抱える男と女の、せつない愛と暴力が渦巻く戦慄のサイコホラー。
日本推理サスペンス大賞優秀作を新たな構想のもとに、全面改稿。「BOOK」データベースより


天道荒太氏の作品は初めてですが、読み出しからいきなり引き込まれる展開に「これは大作の予感!?」と思いました。

3人の主人公が、それぞれの孤独を抱えながら、誘拐監禁事件を中心に交わっていきます。

僕好みではない「一人称」で語られているので、始めの方は違和感もありましたし、セリフや頭の中の妄想シーンなんかを読んでいても、何となく興ざめする部分もありました。

しかし、ストーリー展開が速く、なかなか読ませる展開なので、途中から気にすることなく物語にダイブすることが出来ました。

こういうミステリーのクライマックスにありがちな「なんでそこにタイミングよく主人公が居るのよ!」というご都合主義の展開はなく、綺麗にまとめてエンディングに向かっていきます。

行き過ぎた描写やグロも抑え気味で、女性が読んでも大丈夫だと思います。

こういう小説を読むと、やはり歪んだ犯罪を起こしてしまう犯人というのは、少なからず育ってきた環境が影響を及ぼしてしまうんやろうなぁ~。と考えてしまいます。

環境と一言で言っても、「親」、「兄弟・姉妹」、「同級生」、「先生」、「友だち」、「先輩・後輩」、「同僚」、そして「妻・夫」、「子ども」、「孫」と、自分を取り巻く多くの人物から影響を受け、そして孤独感や幸福感を味わったりするんだと思います。

自分自身でも、何気ない一言や仕草で色々な人を傷つけたりしたこともあるでしょう。

逆に、思いがけず相手の人が感謝してくれていたようなこともあったと思います。

この社会に生きている限り、色んな影響を及ぼす可能性があるということを考えながら、日々過ごして生きたいと思います。

★★★3つです。

警察小説だがホームドラマ感が強い『ビート』by今野敏

2019年02月18日 | 小説レビュー
『ビート』by今野敏

~警視庁捜査二課・島崎洋平は震えていた。
自分と長男を脅していた銀行員の富岡を殺したのは、次男の英次ではないか、という疑惑を抱いたからだ。
ダンスに熱中し、家族と折り合いの悪い息子ではあったが、富岡と接触していたのは事実だ。
捜査本部で共にこの事件を追っていた樋口顕は、やがて島崎の覗く深淵に気付く。
捜査官と家庭人の狭間で苦悩する男たちを描いた、本格警察小説。「BOOK」データベースより


今野敏氏が、本著に対する思いをあとがき寄せているのですが、「自分の警察小説の中での一つの集大成ともいえる作品です」と語っている通り、骨太の中身の濃い作品でした。

こういう作品を経て、『隠蔽捜査』シリーズが書き始められたことを思うと、まさにキャラクターづくりや、ストーリーの展開、そして警察組織の描き方等に、かなりの磨きがかかって完成したシリーズだと思います。

1980年代からずっと、今野敏氏の作品を追い続けてきた方にとっては、今日の今野敏氏の活躍ぶりをみるにつけ、感慨深いものがあるでしょうね。

さて、今作の感想ですが、相変わらず、心理、情景、人物描写も細やかで、楽しめました。

警察署が舞台の『警察小説』なんですが、今作は特に『ヒューマンドラマ』感が強かったですね。

犯人の目星は中々つかなかったですが、少なくとも「こいつは犯人じゃない」というのはすぐにわかりましたね。

主人公・樋口顕のキャラが若干薄いので、イマイチ物語にのめり込めませんが、なかなか良く出来たシリーズだと思います。

★★★3つです。

やっぱりいいね『AX』by伊坂幸太郎

2019年02月14日 | 雑感・日記的な
『AX』by伊坂幸太郎

~最強の殺し屋は―恐妻家。
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。
こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。
『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!書き下ろし2篇を加えた計5篇。「BOOK」データベースより


やっぱり伊坂幸太郎氏の作品はいいですね!

『グラスホッパー』『マリアビートル』も、どちらも楽しく読ませてもらった作品ですし、ワクワクするような殺し屋のコードネーム、『檸檬』、『蜜柑』などが今作でも初っ端から登場したので、「どんな話になるんやろ?」と、期待しながら読みました。

伊坂幸太郎氏の作品に良く出てくるのが「父と息子」のつながりです。

特に大人びた、少し斜に構えたような感じの息子と、そんなにベタベタとした愛情表現はなくても、しっかりと大きな心で息子を見守っている父親との温かい心の交流が描かれていました。

この「AX」でも、殺し屋を生業とする父・『兜(コードネーム)』と、その息子・克巳との何気ない日常の会話や、互いを慮る気持ちが、爽やかな文章の端々に読み取れます。

僕には息子がいないので、その感覚はわかりませんが、少なくとも子を思う親の気持ちというのは、通じるものがありますね。

さてストーリーの方ですが、殺し屋同士の闘いや、『医者』の持つ、不気味な雰囲気が、中々の緊張感を与えてくれます。

クライマックスからエンディングに向けた仕掛けも良かったですし、兜一家が遭遇する様々な関係者?の独特のキャラクターづくりにも、伊坂テイストが散りばめられていて楽しめます。

読後感も爽やかですし、またこういう『殺し屋シリーズ』を書き下ろしてもらいたいものです。

★★★☆3.5です。

ちょっと飛躍しすぎかな?『人魚の眠る家』by東野圭吾

2019年02月13日 | 小説レビュー
『人魚の眠る家』by東野圭吾

~娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。
彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前だった。
娘がプールで溺れた―。
病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。
そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。
過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか―。「BOOK」データベースより


久しぶりの東野圭吾作品です。

どういう話なんやろ?と全く先入観ナシに読み始めました。

「人間の死」の定義について、色んな角度から考えさせられる作品でした。

途中までは興味深く読まされましたが、段々とストーリー展開やキャラクターづくりに若干の無理があるように感じられ、「そこまでする?」とか「そんな風に考える?」とか、いろいろな「?」が出てきます。

東野圭吾氏らしく、とても読みやすい文章ですし、クライマックスでは中々の盛り上がりを感じましたが、現実離れしすぎていて、何となく白けます。

さらにエンディングにいたるところで、今までの伏線が無理やり回収されていく様子や、色んな登場人物が全て円満にまとまっていく様には「ハイハイ・・・」と興ざめします。

もう少し、シリアスな結末とか、大どんでん返しとか、色々と期待していていただけに、落胆も大きいです。

篠原涼子主演で映画化されているようですが、評判はどうなんでしょうね?

『映画版 人魚の眠る家』

★★☆2.5です。

やはり甘め『朱夏』by今野敏

2019年02月09日 | 小説レビュー
『朱夏』by今野敏

~刑事の妻が誘拐された。救出の期限は3日。
樋口顕、42歳―。とびきり無骨で一途な男が突き止めた驚愕の真相とは…?
不撓不屈の刑事魂を活写する迫真の書き下ろし本格警察小説。「BOOK」データベースより)


『隠蔽捜査』シリーズでお馴染みの今野敏氏の作品です。

『隠蔽捜査』より前に書かれたものなので、『武打星』と同様に展開の甘さなどが目立ちます。

主人公の樋口刑事が、同僚の警察官とともに必死の思いで真犯人を探していくのですが、途中から「あぁ~こいつやな」と、すぐに推理が出来ます。

また、その真犯人にたどり着くのが、「同僚の夢の中の暗示」という、何ともしまらん話で、少し興ざめしました。

やはり今野敏氏は『隠蔽捜査』の今野敏氏ですね。

あわせて『樋口顕シリーズ』の『ビート』も借りてあるので、また合間に読みたいと思います。

★★☆2.5です。

少し甘め『武打星』by今野敏

2019年02月07日 | 小説レビュー
『武打星』by今野敏

~武打星=アクション・スターのこと。
世界中を熱狂させたブルース・リーに憧れた青年、長岡誠は、大学卒業後、徒手空拳で香港に渡った。
少年時代から続けてきた空手を活かし、アジアの新たな武打星となるために―。
猥雑で魅力的なこの都市で、誠は時に喜び、時に苦悩しながら、栄光への階段を一歩ずつのぼってゆく。
ストーリーテラー・今野敏の魅力が弾ける、痛快エンタテインメント。「BOOK」データベースより


『隠蔽捜査』シリーズでおなじみの、今野敏氏の作品です。

著者自身が空手家であり、ブルース・リーに憧れた世代の真っ只中だったらしく、香港映画やカンフー映画、そして武道に対するリスペクト感が溢れています。

物語としては、単身香港へ渡った、誠青年が、まさに身体一つで、映画スターへの道を切り開いていくというサクセスストーリーです。

『隠蔽捜査』シリーズほど、内容が練れていないので、セリフや情景描写に若干の甘さと、先の読める展開に少し物足りなさを感じました。
★★☆2.5です。

読みごたえあり!『腐葉土』by望月諒子

2019年02月05日 | 小説レビュー
『腐葉土』by望月諒子

~笹本弥生という資産家の老女が、高級老人ホームで殺害されているのが見つかった。
いつもお金をせびっている孫の犯行なのか?そこに生き別れたもう一人の孫という男が名乗りでる。
詐欺事件や弁護士の謎の事故死が、複雑に絡まりはじめ―。
関東大震災、東京大空襲を生き延び、焦土の中、女ひとりでヤミ市でのし上がり、冷徹な金貸しとなった弥生の人生の結末とは。
骨太ミステリーの傑作長編。「BOOK」データベースより



550頁におよぶ長編ミステリーでしたが、物語が間延びすることなく、最後まで興味深く読み終えました。

大正から平成まで85年にわたる波乱万丈の生涯を生き抜いた「笹本弥生」という老女が、高級老人ホームで何者かに殺害されるところから物語は始まり、事件を追いかける雑誌記者「木部美智子」が、明晰な頭脳と鋭い洞察力、そして行動力をもって、事件の真相に迫ります。

笹本弥生が経験した関東(東京)大震災と第二次世界大戦末期の東京大空襲の描写が凄まじく、物語に重みと深みを与えています。

戦後の混乱期の中で、世間から後ろ指を指されながらも、逞しく前向きに生き抜いた笹本弥生の残した10億円ともいわれる遺産を巡って、実の孫・笹本健文と、その異父兄弟・会田良夫との相続問題、そして弥生に数十年にわたって家政婦として仕えた典子、また良夫の両親の良一と弓子など、それぞれの人生の歩みが重くて、とても読ませてくれます。

並行して展開する大学研究費詐欺事件も、読んでいてリアリティがあり、それ一つでも、立派なミステリー小説が書けそうなほど内容があります。

そして、美智子と新聞記者の亜川の頭脳ゲームのようなやりとりや、テレビ、新聞、雑誌というそれぞれ違う媒体の争いというか棲み分けというか、マスコミ裏事情のようなものも興味深いです。

登場人物が多いので、少し混乱しますが、イヤになるほどではありません。

笹本弥生という大樹の根元に腐葉土のごとく降り積もった多くの人々の人生ドラマが伏線となり、やがて一つの結末に収束していく様は見事です。

謎解きの部分で、美智子が真相に迫りながら、犯人?の独白によって全てが明らかになるのですが、「騙された!」というよりも「そうやったんやね」と納得させられてしまうエンディングでした。

いずれにしても、大きく風呂敷を広げて、最後にグッとまとめ切る望月諒子女史の筆力に拍手を送りたいですね。

★★★☆3.5です。