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最後に残るのは愛です『破獄』by吉村昭

2021年03月17日 | 小説レビュー

『破獄』by吉村昭

 

~昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。昭和23年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎。

その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る闘いを描破した力編。読売文学賞受賞作。「BOOK」データベースより

 

吉村昭氏の作品は、『羆嵐』『漂流』『高熱隧道』に次いで、4作目ですが、どれもAmazonのレビューは4.4~4.5という非常に評価の高い作品ばかりです。

というのも、吉村昭氏の精緻な描写や極限状態での人間の思考・行動などを大変リアルに情感たっぷりに描く筆力の高さによると思います。

『羆嵐』では、「羆VS人間」の極限での闘い、『漂流』では、「孤島の自然に挑む人間の闘い」、そして『高熱隧道』では「地熱と極寒の山を貫く人間の英知と体力の結集」を見事に描き切りました。

この『破獄』は、日本中を震撼させた連続脱獄犯の佐久間清太郎(仮名)の生涯を描いた作品で、「佐久間VS看守」の凄まじい攻防戦が描かれております。

戦前~戦中~戦後という日本の歴史が大きく動いた中での事件であり、当時の世相と相まって、大変興味深く読ませてもらいました。

心理戦ともいうべき闘いに常に勝利し続けた佐久間でしたが、それまでの拘束や監視、閉じ込めという徹底した防御策を悉く打ち破ってきた佐久間に対して、最後の収監先となった府中刑務所長の太陽政策が、佐久間の心の氷を溶かして、穏やかな獄中生活を送らすことが出来たということです。

佐久間自身が「もう疲れた」と言ったように、人間は締め付けられれば締め付けられるほど、反発する強い力が生まれ、さらなる対立を生んでしまうということですね。

聖書の中の一節にある、「コリントの信徒への手紙~第13章」から、「いつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つである。このうちで最も大いなるものは、愛である」とあります。

人を信じ、希望を持ち、そして愛することを続けていけば、世の中がもっと丸く治まると思います。

そういうことを暗に語り掛けてくれた作品ではないかと思いますね。

★★★☆3.5です。


それでも生きていく『トリップ』by角田光代

2021年03月10日 | 小説レビュー

『トリップ 』by角田光代

~普通の人々が平凡に暮らす東京近郊の街。駆け落ちしそびれた高校生、クスリにはまる日常を送る主婦、パッとしない肉屋に嫁いだ主婦―。
何となくそこに暮らし続ける何者でもないそれらの人々がみな、日常とはズレた奥底、秘密を抱えている。小さな不幸と小さな幸福を抱きしめながら生きる人々を、透明感のある文体で描く珠玉の連作小説。直木賞作家の真骨頂。「BOOK」データベースより


「人生上手くいかへんよあぁ~」と、つくづく思う時があると思います。この作品の登場人物は、小さな町に暮らす、どこにでもいそうな人たちの日常の物語です。
連作短編集で、それぞれの主人公が見かけた風景や人物が次の物語に繋がっていき、なかなか面白いです。
みんなそれぞれに、大なり小なり不安と不満を抱えていて、それでも日常は過ぎていくわけで、その中でもがいたりあがいたりしながら生きています。
それでも不満や不安は解消されることなく、心と身体を侵食していきますから、どうしても現実逃避(トリップ)してしまうのでしょう。

登場人物の全てが中々個性的で面白いです。共感や気持ちを共有することはあまりありませんでしたが、誰しも多かれ少なかれ、「あぁ、わかる。」とか「こんな人いるよね。」という風に感じるかもしれません。
そしてそれぞれの物語の主人公たちは、色々と妄想したり逡巡したり、現実逃避したりしながらも、最後には「それでも生きていく!」と、小さな決意を胸に明日へ向かっていきます。
清々しくはありませんが、一瞬だけ爽やかな風が吹き抜けるような、それぞれのエンディングです。

それぞれの物語の続きは、結局、同じような日常の繰り返しなんでしょうけど、世界中でも日本中でも、多くの方がこのような感じで毎日を過ごしていると思います。
その中で、どれだけ意味と意義のある時間を過ごせるか?過ごせたのか?というところに人生の充実度が表れてくると思います。
「暗いと不平を言うよりも、進んで灯りをつけましょう」の精神で、日々暮らしていきたいと思います。

★★★3つです。