~昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。昭和23年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曽有の4度の脱獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎。
その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る闘いを描破した力編。読売文学賞受賞作。「BOOK」データベースより
吉村昭氏の作品は、『羆嵐』、『漂流』、『高熱隧道』に次いで、4作目ですが、どれもAmazonのレビューは4.4~4.5という非常に評価の高い作品ばかりです。
というのも、吉村昭氏の精緻な描写や極限状態での人間の思考・行動などを大変リアルに情感たっぷりに描く筆力の高さによると思います。
『羆嵐』では、「羆VS人間」の極限での闘い、『漂流』では、「孤島の自然に挑む人間の闘い」、そして『高熱隧道』では「地熱と極寒の山を貫く人間の英知と体力の結集」を見事に描き切りました。
この『破獄』は、日本中を震撼させた連続脱獄犯の佐久間清太郎(仮名)の生涯を描いた作品で、「佐久間VS看守」の凄まじい攻防戦が描かれております。
戦前~戦中~戦後という日本の歴史が大きく動いた中での事件であり、当時の世相と相まって、大変興味深く読ませてもらいました。
心理戦ともいうべき闘いに常に勝利し続けた佐久間でしたが、それまでの拘束や監視、閉じ込めという徹底した防御策を悉く打ち破ってきた佐久間に対して、最後の収監先となった府中刑務所長の太陽政策が、佐久間の心の氷を溶かして、穏やかな獄中生活を送らすことが出来たということです。
佐久間自身が「もう疲れた」と言ったように、人間は締め付けられれば締め付けられるほど、反発する強い力が生まれ、さらなる対立を生んでしまうということですね。
聖書の中の一節にある、「コリントの信徒への手紙~第13章」から、「いつまでも存続するものは、信仰と希望と愛と、この三つである。このうちで最も大いなるものは、愛である」とあります。
人を信じ、希望を持ち、そして愛することを続けていけば、世の中がもっと丸く治まると思います。
そういうことを暗に語り掛けてくれた作品ではないかと思いますね。
★★★☆3.5です。