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一気読みの快作!『犯人に告ぐ 上・下』by雫井悠介

2019年03月23日 | 小説レビュー

『犯人に告ぐ 上・下』by雫井悠介

~闇に身を潜め続ける犯人。川崎市で起きた連続児童殺害事件の捜査は行き詰まりを見せ、ついに神奈川県警は現役捜査官をテレビニュースに出演させるという荒技に踏み切る。
白羽の矢が立ったのは、6年前に誘拐事件の捜査に失敗、記者会見でも大失態を演じた巻島史彦警視だった―史上初の劇場型捜査が幕を開ける。
第7回大藪春彦賞を受賞し、「週刊文春ミステリーベストテン」第1位に輝くなど、2004年のミステリーシーンを席巻した警察小説の傑作。「BOOK」データベースより


雫井脩介氏は文章が上手ですね。情景描写や人物描写にそれほど長けてるとは思えませんが、あえてそこに注力するよりも、雫井さんのスタイルとして、「ストーリーで勝負!」みたいな感じでしょうか?勝手に想像してます。

これまで読んだ作品では、『火の粉』、『仮面同窓会』、『望み』そして、今回の『犯人に告ぐ』で4作目となります。

地方採用の警察官としては昇進の一つの目標である『警視(中小規模警察署なら署長クラス)』に、40代そこそこでなっていた主人公の巻島史彦。精悍な顔つきと風体から「ヤングマン」と、やや茶化されたような呼称で呼ばれている刑事です。

刑事としては優秀なんですが、警察内部の意識対立(警視庁と神奈川県警や、警察内部の対立など、今野敏作品を読んでいれば良くわかる対立構図ですね)よって、捜査が思い通りに進まず誘拐犯人を取り逃がし、幼い子どもの命が犠牲になります。その責任を取らされる形で臨んだ記者会見でブチ切れてしまい、地方の警察に左遷されてしまうんですね。

その地方で、6年間の雌伏の時を過ごしていた巻島に、6年前の捜査の責任を取らせたイケ好かない上司の「曾根」から呼び出しがかかり、連続児童殺害事件のテレビ公開捜査の陣頭指揮を執るように命を受けます。

地方での6年の刑事生活の中で、「津田」という年配の刑事の人柄に触れて、巻島が本能に火が付き、優秀な捜査官としてグレードアップして戻ってきます。

相変わらず、イケ好かない上司、テレビを通しての視聴者からの反発、そして視聴率重視のテレビスタッフなど、巻島の足を引っ張るような輩を見事に排除しなががら、6年前の事件と現在進行形の連続児童殺人事件が巻島の心の中で絡み合い、巧みなストーリー展開によって、大波小波が引いては寄せて、一気に読クライマックスに向けて盛り上がっていきます。

最後にどんでん返しも用意してあり、事件も無事に解決して、スッキリとしたエンディングを迎えます。

惜しむらくは、犯人の人間性の裏側にあるものの答えなどが少しぼやけていたかな?という点ぐらいですかね。

豊川悦治主演で映化もされており、なかなかの良作でしたね。映画版の『犯人に告ぐ』も観てみたいです。

★★★☆3.5です




もうひと捻り欲しかった『リピート』by乾くるみ

2019年03月21日 | 小説レビュー
『リピート』by乾くるみ

~もし、現在の記憶を持ったまま十ヵ月前の自分に戻れるとしたら?この夢のような「リピート」に誘われ、疑いつつも人生のやり直しに臨んだ十人の男女。
ところが彼らは一人、また一人と不審な死を遂げて…。
あの『イニシエーション・ラブ』の鬼才が、『リプレイ』+『そして誰もいなくなった』に挑んだ仰天の傑作。「BOOK」データベースより


イニシエーション・ラブ』、『セカンド・ラブ』の乾くるみ氏の作品です。ちょうど、図書館で予約している本が届かなくて、合間に読みました。

乾さんらしく、とても読みやすい文章です。タイムトラベルミステリーとして、現実としてはありえない設定にも関わらず、それほど違和感も感じません世、矛盾点や疑問点も少なく、とても良く練られた内容でした。

しかしながら、「それだけ」で、もう少し捻りというか、何か「あっ!」と驚く仕掛けが欲しかったですね。

★★★3つです。

よく踏み込んだが『友罪』by薬丸岳

2019年03月15日 | 小説レビュー
『友罪』by薬丸岳

~「凶悪犯罪を起こした過去を知ってもなお、友達でいられますか?」
―ミステリ界の若手旗手である薬丸岳が、満を持して「少年犯罪のその後」に挑む、魂のエンタテイメント長編。(内容紹介より)

読み始めてしばらくしてから「これは、神戸の少年Aをモチーフにしているんやな」と思いましたが、解説を読んで「そうではない」と断言されていたので、そうではないのかと思い直しました。

中盤までは「これは久々の星4つクラスかも!」と期待しながら最後まで読みましたが、クライマックスが近づくにつれて、何となく気持ちが萎んでいきました。

悪くないんですよ、本当に悪くない小説です。

テーマとしては、「過去を背負って生きていくということとは?」ということですね。

当たり前のことですが、人は生きているだけで、今日の出来事が明日には過去になります。

その過去の失敗や罪(大小を問わず)を背負って、人は生きていかなければなりません。

今作では、
①少年時代に日本中を震撼させる重大な殺人事件を犯した
②AV女優として多くの作品に出演した
③息子が車で小学生を轢き殺してしまった
④親友が苛められているのを見て見ぬ振りをして自殺に追い込んでしまった
⑤仕事に熱中するあまり、我が子をなおざりにしてきた

という5つのケースをそれぞれに背負って生きている人物が交錯していきます。

主題というか、物語の中心は、①と④の人物が同じ町工場に勤め始めるところから始まります。

とても重たいテーマですが、薬丸岳氏の丁寧な筆致で、ページを捲る手が止まりません。

それぞれの人物が過去に向き合い逃げることなく、前向きに生き抜いていこうとする感じでエンディングを迎えます。

しかしながら、締め方がイマイチで、爽やかも終わっているように感じますが、逆に言えば、適当に濁したという感も否めません。

絡んできた脇役達が放っておかれたまま「このままで終わってええんか?終わるんか?」と、問いたくなりました。

難しいテーマに、深く切り込んでいった筆者の努力には敬意を表しますが、締めくくり方に少々物足りなさを感じたのが残念です。

★★★☆3.5でした。

本作は、生田斗真と瑛太のダブル主演で、昨年の5月に映画化されています。

『映画版 友罪』

夏帆や山本美月、富田靖子なんかも出演してますし、佐藤浩市や坂井真紀も良いスパイスを提供してくれているようです。 映画も観てみたいですね。

伊坂氏らしいね『ホワイトラビット』by伊坂幸太郎

2019年03月05日 | 小説レビュー
『ホワイトラビット』by伊坂幸太郎

~仙台で人質立てこもり事件が発生。SITが交渉を始めるが―。
伊坂作品初心者から上級者まで、没頭度MAX!書き下ろしミステリー。「BOOK」データベースより


本来なら緊迫感溢れる、「誘拐」、「監禁」、「押し込み強盗」などのストーリーをどこかコミカルに面白おかしく描いてくれるのが伊坂幸太郎氏ですよね!

今回の『ホワイトラビット』にも、その伊坂テイスト満載です。

伊坂幸太郎氏といえば、過去の作品で出てきた好キャラクターが、新たな作品でも再登場して活躍するのが、一つの味になってますよね。

今作でも、あのクールなキャラクター『黒澤』が、良い仕事をしてくれまています(^^)d

さらに、『レ・ミゼラブル』の引用も多用されており、物語に深みを与えてくれています。

さて、ストーリーですが、伊坂氏お得意の『時系列入れ替え法』で、物語が進みながらも「あぁ、これはこうなって、ここに至るんか!」って、小さな種明かしを楽しみながら読み進められます。

クライマックスの盛り上がりよりも、「ちゃんとハッピーエンドで終わってよ」と予定調和を期待していると、最後にはちゃんと、落としてくれます。

まぁ、安心して読み終えられる作品ですが、その分、緊迫感やどんでん返しは、物足りなさがありますね。

まぁ、「時間がある方にはどうぞ」という感じです。

★★★3つです。

表現も美しいが評価が分かれるところ『マチネの終わりに』by平野啓一郎

2019年03月01日 | 小説レビュー
『マチネの終わりに』by平野啓一郎

~結婚した相手は人生最愛の人ですか?ただ愛する人と一緒にいたかった。なぜ別れなければならなかったのか。恋の仕方を忘れた大人に贈る恋愛小説。「BOOK」データベースより


僕は好きな部類に入りますが・・・、評価の分かれる作品だと思います。

情景描写が美しく心理描写も精緻で互いの揺れ動く心の裡が良く描き出されています。

とはいっても、登場人物の台詞回しなどが高尚すぎて、ややついていけない部分が多くありました。

クラシック音楽や外国映画に造詣が深い方なら大丈夫なんでしょうが、説明や感想を述べ合う箇所が、ややしんどいですね。

天才ギタリスト・蒔野聡史と、美人ジャーナリスト・小峰洋子の二人が、強く惹かれあいながらも、様々な障害によって引き裂かれてしまいます。

読者としては、何とか二人が結ばれて欲しいと願いながら読み進めるのですが、どうしても叶わない運命に、かなりの焦燥感が募ります。

脇役の三谷や、陽子の母親などが、とても良いスパイスとして効いているので、物語が引き締まって良かったです。

エンディングは爽やかですが、当然「この後、どうなんのよ?」という疑問は残ります。

しかしながら、読み終えて「時間の無駄やったな」ということは全くなく、いろいろな知識も増えますし、著者の語彙の豊富さも勉強になります。
僕の大好きな「バッハ 無伴奏チェロ組曲(ギターバージョン)」も登場します。

また、比喩表現が巧みで、唸らされる箇所が多々出てきますので、一つ二つ紹介しますね。

~「それは、繊細なニットに引っかかってしまったアクセサリーか何かのように、慎重に取り扱わなければ彼女の心に取り返しの付かない痕を残してしまいそうだった。」

~「一旦芽吹くと、洋子の中には、夏休みの朝顔のように三谷の存在がいくつも鮮やかな花を咲かせ、感情の隙間にその蔓を絡ませていった。一つ一つの花は、決して長くは保たなかったが、蕾の数はなかなか減らず、どうやらこの夏いっぱいは続きそうだった。-蒔野に会うまでは。」

・・・等々、美しく、「言いえて妙」の表現を使われる著者です。

そして、今年の秋には、福山雅治と石田ゆり子のダブル主演で映画化されるそうです!


『映画版 マチネの終わりに』

福山はハマり役やと思いますし、石田ゆり子が、小峰洋子をどのように演じるのか?少し線が細い感じもしますが、どうでしょうね楽しみです!


さて、★の数ですが、4つ付けたい気持ちもありつつの、
★★★☆3.5ですね。