「心ゆたかな暮らしを」  ~Shu’s Page

小説のレビュー、家族の出来事、趣味の事、スポーツ全般など、日々の出来事をつづりながら、一日一日を心豊かに過ごせれば・・・

風流な男の生き様『一夢庵風流記』by隆 慶一郎

2020年11月29日 | 小説レビュー

~死ぬも生きるも運まかせ。たった一騎で戦場に斬り込み、朱柄の槍を振り回す―。

戦国時代末期、無類のいくさ人として、また、茶の湯を好む風流人として、何よりもまた「天下のかぶき者」として知られた男、前田慶次郎。

乱世を風に舞う花びらのように、美しく自由に生きたその一生を描く、第2回柴田錬三郎賞受賞の話題作。「BOOK」データベースより

言わずと知れた『花の慶次』の原作本です。

少年ジャンプで連載され、マンガの世界ではもちろんのこと、パチンコ『花の慶次』シリーズは、2009年の登場以来、現在に至るまでの間、30種類のバージョンが世に出され、パチンコファンを熱狂させてきました。私もお世話になった一人です。※あのボタンを何度叩いたことか・・・

さて、本作ですが、前田慶次郎が活躍する544頁の快作です!とっても面白く、マンガのストーリーやキャラクターとかぶせて想像し、思い出しながら楽しく読めました。

男にも女にも惚れられる快男児『前田慶次郎』ですが、史実にはほとんど登場することがなく、ある意味では無名の武将とも言えます。

よって、本作の前田慶次郎の本当に男らしい言動、洗練された所作は、知識、膂力、潔さなどは隆慶一郎氏の創造による人物像なのですが、とても格好よく描かれています。

敵として現れた者が、ことごとく慶次の魅力に憑りつかれ、味方となり、付き従っていく様は気持ちいいです。

痛快!爽快!男の生き様!『死ぬことと見つけたり(上・下巻)』by隆 慶一郎でも書きましたが、隆氏は男の生き様を描くのが本当に秀逸で素晴らしいです。

是非、読んで欲しい一冊です。

★★★☆3.5です。

 


重いテーマに挑戦したが『レインツリーの国』by有川浩

2020年11月11日 | 小説レビュー

『レインツリーの国』by有川 浩


~きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった―。「BOOK」データベースより


う~ん・・・。読み終えて色々な感情が渦巻いているというのが正直な感想ですね。良かった点、悪かった点、初めて気づかされたことなど、本当に色々な感想です。レビュー評価も、良い評価と悪い評価に分かれており、難しいところですね。


ストーリーは、小説のレビューを掲載しているブログを見た主人公が、管理人の言葉遣いや感性に共感を覚え、思わず長文のメールを送るところから始まります。数度の長文メールのやり取りを経て、「会いたい!会ってみたい!」となるのは世の常ですよね。
現実問題として、「会ってビックリ!(◎Д◎)!」くらいで済めばいいのですが、犯罪に巻き込まれたりするケースも多々あり、ネットから始まる身元不明者との付き合いは、やはり慎重に慎重を期すべきだと思います。
本作の場合、それが、まぁまぁうまくいきかけるんですが、彼女の方には隠していた重大な秘密があったんですね。それは「感音性難聴」という聴覚障害でした。
中盤あたりで、そのことが明らかになり、主人公の男性も当然ショックを受けます。
自分の取った感情的な行動を反省しつつ、「だからって!あんな態度とることないやん!」みたいな自己弁護や、独りよがりの思いが溢れてきたり・・・。それでもヒロインの女性を愛する気持ちの強さと、自分の過去の生い立ちなどが複雑に入り乱れて、恋の行方もわからなくなっていきます。


さて、有川浩氏の作品といえば『三匹のおっさん』でも感じましたが、少し浅いんですよね。 予定調和を感じつつ、時間つぶしに軽く読むタイプの作家さんなんかな?とも思ったりしますが、軽く読める作品を多く世に出している作家さんが取り上げたテーマが「聴覚障害をもつ少し卑屈な女性と、健聴者であるが、過去に悲しい家族との別れを背負っている男性」の恋物語では、少し重荷ではなかったかと思います。

有川氏の描きたい世界観や思いは伝わってくるものの、最後にハッピーエンドに持っていくためのスケジュール通り、読者の予想を裏切らない形で、簡単に収束していきます。

そもそも「健聴者」という言葉自体なじみがなかったので、色々と勉強になりましたが、筆者のあとがきや、山本弘氏の解説にもあるとおり、『障害者』を取り扱った小説とかは、とても難しいということです。

 受け取り手の感受性によって、評価に非常に大きな隔たりがあると思いますし、それでもこういう聴覚障害者と健聴者との恋愛という難しいテーマに挑戦した筆者の決断には敬意を表したいと思います。

主人公の関西弁が鼻についたりする部分や、二人のメールでのやりとりに若干の面倒くささを感じたりしましたので、評価としては少し下がります。
★★★3つです。


いやな予感がした!『ヘブンメイカー(スタープレイヤーⅡ)』by恒川光太郎

2020年11月07日 | 小説レビュー
 
~高校二年生の孝平はバイクで事故にあい、気づくと見知らぬ町にいた。「死者の町」と名付けられた地で、孝平は他の人間とともに探検隊を結成し、町の外に足を踏み出す。一方、自暴自棄になっていた佐伯逸輝は、砂浜で奇妙な男に勧められクジを引くと―見知らぬ地に立ち、“10の願い”を叶えられるスターボードを手に入れる。佐伯は己の理想の世界を思い描くが…。『スタープレイヤー』に連なる長編ファンタジー第2弾「BOOK」データベースより
 
評価が高い恒川光太郎氏の作品なので、あんまり何にも考えず図書館で借りてきました。表紙を見て「スタープレイヤーⅡ」という文字が目に入り「はっはぁ~ん・・・これは続編や何かの続編や」と理解しました。
 
スタープレイヤー』という作品が先にあって、その後の世界を描いたのが『ヘブンメイカー』だったんですね。
 
 
まぁしかし、せっかく借りてきたので、読み始めました。
 
読み始めは、「まぁ、良くあるというか、10個の願いが叶えられます!あなたは全能の神のような存在です!さぁ、何から始めますか?」という感じ。
 
すぐに辻褄が合わなくなったり、「そんなん、こうしたら終わりやん」などという論理破綻を見せることなく、恒川氏一流の巧みな文章力と設定、息をつかせぬ展開で一気に読ませてくれて、まさに一日で読み終えました。
 
とっても面白かったですし、「映画化されてもいいのでは?」と思いました。
 
まぁ、逸稀君も普通の一般青年だったのですが、力を手に入れてからすることが中々面白くて、それでいて導かれるように聖人になり、最後には・・・。
 
まぁ読んでみてくださいよ!『スタープレイヤー』から『ヘブンメイカー』の順でね
 
★★★☆3.5です!

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』by米原万里

2020年11月06日 | 小説レビュー

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』by米原万里

~一九六〇年、プラハ。小学生のマリはソビエト学校で個性的な友だちに囲まれていた。男の見極め方を教えてくれるギリシア人のリッツァ。嘘つきでもみなに愛されているルーマニア人のアーニャ。クラス1の優等生、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。それから三十年、激動の東欧で音信が途絶えた三人を捜し当てたマリは、少女時代には知り得なかった真実に出会う!「大宅壮一ノンフィクション賞」受賞作。「BOOK」データベースより

 

244件のレビュー評価があるのに、★★★★★5つが76%を占めているということだけとっても、中々の作品であることがわかりますよね。

表題の作品を含む、3つの短編が収められており、米原万里さんがプラハのソビエト学校に通った日々に体験した社会主義思想を取り巻く物語です。

日本人の小さな女の子が感じた価値観、社会観、そして日本に帰国してから眺めていた中東欧地域の国々の緊迫した情勢、さらに大人になって、かつての友人を訪ねて歩くドキュメンタリー映画のような作品でした。

3つの中では、ヤスミンカの話が一番好きですね。

なかなか、こういう思想を持つ方と、じっくりお話をしたこともないですし、理解や共感できない部分もありますが、「まぁ、こういう時代や思想があったということを知っておく」という意味では、読んで損はないと思います。

★★★3つです。


祝500作目!壮大で摩訶不思議な三部作!『アラビアの夜の種族Ⅰ、Ⅱ、III 』By古川 日出男

2020年11月03日 | 小説レビュー

『アラビアの夜の種族Ⅰ、Ⅱ、III 』By古川 日出男

~聖遷暦1213年。偽りの平穏に満ちたエジプト。迫り来るナポレオン艦隊、侵掠の凶兆に、迎え撃つ支配階級奴隷アイユーブの秘策はただひとつ、極上の献上品。それは読む者を破滅に導き、歴史を覆す書物、『災厄の書』―。アイユーブの術計は周到に準備される。権力者を眩惑し滅ぼす奔放な空想。物語は夜、密かにカイロの片隅で譚り書き綴られる。「妖術師アーダムはほんとうに醜い男でございました…」。驚異の物語、第一部。

~侵掠したフランス軍壊滅の奇策、「読む者を狂気へ導く玄妙驚異の書物」は今まさにカイロの片隅で、作られんとしている。三夜をかけて譚られた「ゾハルの地下宮殿の物語」が幕を閉じ、二人めの主人公がようよう登場する頃、ナポレオンは既にナイルを遡上し始めていた。一刻も早く『災厄の書』を完成させ、敵将に献上せねばならない。一夜、また一夜と、年代記が譚られる。「ひとりの少年が森を去る―」。圧巻の物語、第二部。

~栄光の都に迫る敵軍に、エジプト部隊は恐慌を来し遁走した。『災厄の書』の譚りおろしはまにあうのか。奴隷アイユーブは毎夜、語り部の許に通い続ける。記憶と異界を交差しながら譚りつむがれる年代記。「暴虐の魔王が征伐される。だが地下阿房宮の夢はとどまらない―」。闇から生まれた物語は呪詛を胎み、術計は独走し、尋常ならざる事態が出来する!書物はナポレオンの野望を打ち砕くのか??怒涛の物語、第三部完結篇。

『BOOK』データベースより

 

記念すべき、わが小説レビュー500作目は、500作目にふさわしい大作です!図らずも500作目にして、このような素晴らしい小説に出会えたことは感無量です。

もともと小説を読むことは好きだったんですが、思い起こせば2014年9月、『イニシエーションラブ』を読んで、「小説って、やっぱり素晴らしい!」と思い直し、一気に読書欲が再燃し、レビューを付けていくことにしました。

過去に読んだ作品も何作か加えて、数える事「500作品!」まぁ読みましたね!読んで読んで読みまくりましたね。小説を片時も離さず、時間があれば小説の世界に没入した6年あまりでした。

いつかは自分の読んだ小説を★★★★★の評価ごとにまとめて発表する機会をうかがっておりましたが、500作品を超えたので、これからボチボチと発表していきたいと思います。

 

さて、本作ですが3巻を合計すると1000頁超えの大作です。

物語は全体を通して、魔訶不思議な世界観と中世エジプトの妖艶な魅力が漂う妖しい雰囲気です。しかし、表紙の雰囲気と内容は全然違って、1000年の時を超えて紡がれる『冒険活劇ファンタジー』のような感じです。

「アーダム」、「ファラー」、「サフィアーン」という三人の主人公が一つのストーリーの中で交錯し、惹かれ合い、闘い、運命に抗いながら、それぞれの宿命と目的の為に奮闘します。

そして、もう一人の主人公「アイユーブ」をはじめ、キラリと光る脇役達も輝かしい彩を添えてつつ、それぞれの巻のクライマックスを迎えます。Ⅰ、Ⅱ、Ⅲと巻をまたぎながら、Ⅲで見事に集約されていき、否が応でも読み手の心を揺さぶります。

「徹夜本」と言われるだけあって、グイグイ引き込まれますし、時折混ざってくるユーモアと変なセリフにもクスッと笑わせられます。「阿房宮(地下迷宮)」で暮らす奇人変人、痴れ者、勇者、剣士、魔術師たちの暮らしぶりなど、ドラゴンクエストやファイナルファンタジーのような魔訶不思議な世界が広がっております。

『ハチワンダイバー』に登場する鬼将会ビルの地下・独立将棋国家を思い出しました。

さて、いよいよクライマックスでラスボスとの対決となるのですが、案外サッパリと終わり、ボナパルトの侵攻もあっさりと終わります。

しかし、それから最後の種明かしというか大どんでん返し、そして筆者のあとがきにも大いなる仕掛けが用意されており、日本推理作家協会賞、日本SF大賞をW受賞しただけの内容であると感心しました。

独特の文体に好みが分かれるかもしれませんが、色んな人に読んでもらいたい作品ですね。

★★★★4つです。


この作家さんは凄い人なんですよ!『完全恋愛』by牧薩次

2020年11月02日 | 小説レビュー

『完全恋愛』by牧 薩次  

~第二次大戦末期の福島県の温泉地、東京からやってきた少年・本庄究は、同じく戦火を逃れてこの地に暮らしていた画家の娘・小仏朋音に強い恋心を抱く。やがて終戦となり、この地方で進駐軍のアメリカ兵が殺されるという事件が起こる。しかし現場からは凶器が忽然と消えてしまう。昭和四十三年、福島の山村にあるはずのナイフが、時空を超え、瞬時にして西表島にいる少女の胸に突き刺さる。昭和六十二年、東京にいるはずの犯人が福島にも現れる。三つの謎の事件を結ぶのは、画壇の巨匠である男の秘められた恋であった。「本格ミステリ大賞」受賞作品を文庫化。「BOOK」データベースより


何の先入観もなく「完全恋愛」というタイトルと表紙から連想したストーリーとは全く違い、2009年第九回「本格ミステリ大賞」を受賞した作品です。レビューの評価が分かれる作品ですが、ミステリ作品としての完成度も高く、僕は、なかなか良かったと思います。

冒頭の書き出しに、「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ。では、他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるべきか?」、という一文にグッと惹き込まれました。

物語は、一人の画家が生きた時代である戦争末期~戦後~高度経済成長~バブル期に至るまでの50年ほどの間に起こった3つの殺人事件を柱としたミステリー小説です。

実際の史実と同じように絡めてあるので、主人公の本庄究氏が実在の人物であったかのような錯覚を覚えました。

のちに段々と明らかになってくる仕掛けの為の細かな伏線が隅々に張り巡らされており、なかなかの緊迫感を持って物語は進みます。

クライマックスから、一気に謎解きが展開するんですが、なかなかのどんでん返しっぷりで、3回?4回ぐらいひっくり返ります。

中には「んっ?」と思うトリックというか仕掛けに疑問符も付きますが、555頁の内容に飽くことなく、一気に読み切りました。

余談ですが、あとがきを読んで初めて知ったんですが、牧薩次(マキサツジ)というペンネームは、辻真先(ツジマサキ)氏のアナグラムだったんですね。

しかしながら、皆さん知ってました? 辻真先氏ってスゴい人ですよ!

1932年生まれで、大学卒業後にNHKに入社するも、脚本の仕事がおもしろくなって、7年4カ月勤めたNHKを退職し、脚本家として歩みだしたんですって。

手がけた作品は、ざっと抽出しただけでも

「エイトマン、鉄腕アトム、オバケのQ太郎、ジャングル大帝、魔法使いサリー、リボンの騎士、パーマン、巨人の星、ゲゲゲの鬼太郎、サイボーグ009、アタックNo.1、サザエさん、タイガーマスク、ひみつのアッコちゃん、のらくろ、さるとびエッちゃん、天才バカボン、ふしぎなメルモ、おんぶおばけ、デビルマン、ど根性ガエル、キューティーハニー、ドロロンえん魔くん、バビル2世、魔女っ子メグちゃん、一休さん、勇者ライディーン、超電磁ロボ コン・バトラーV、超電磁マシーン ボルテスV、ドラえもん、おじゃまんが山田くん、Dr.スランプ アラレちゃん、忍者ハットリくん、あさりちゃん、うる星やつら、パタリロ! 、さすがの猿飛・・・etc」

我々の世代が小さい頃に、家のテレビで観ながら育ったアニメのほとんどが、辻真先氏の手掛けた脚本によるものだったんですね~!ビックリしましたよ。 

そして、72年に『仮題・中学殺人事件』でミステリ作家としてデビューし、現在でもTVアニメ『名探偵コナン』の脚本を手掛けるほか、大学教授として後進の指導にあたっているとのこと。本当にすごい人ですよね!

御年88歳の辻真先氏ですが、現在も小まめにTwitterで発言をされるなど、とっても元気な方です!

そして、本作ですが、なかなかのミステリー小説だと思いますよ。
★★★☆3.5です。