「今までに経験したことのない・・・」の何と多かったことか

　去年の夏から「今までに経験したことのない」という枕詞がついたニュースや天気予報が非常に多くなった。今年の夏も引き続いている。流行語大賞になってもいいぐらいである。9月に入っても同じような状況が続いている。

　雨と雨の合間に向かいの家のKさんが車を洗っていた。伸びた枝や雑草を抜きながら話をした。Kさんは2年程前から故郷の高知の実家に戻り3ヶ月に1度ぐらいの割合で空き家になっている家の様子を見に来るという生活をしている。ちょうど3日ほど前に帰られたみたいである。

　話は自然と豪雨被害の話になる。Kさんも高知の方で田んぼを持っていて米づくりをしているが今年の夏は天候に振り回されたと嘆いていた。それこそ「今までに経験したことのない雨の量」だったみたいである。高知の方は二期作なので5月には稲刈りが終わり、その分は被害にあわずに済んだのだが、8月の豪雨で腰ぐらいまで田に水がたまり、二期目はおじゃんになったそうだ。

　野菜も露地のものは壊滅状態でハウスのものだけが何とかものになっているという。ただし、ボイラーなどを使って調整しているので値段は高くついていると顔を曇らせていた。最近の葉物野菜の高騰はいたしかたないという言葉には説得力があった。

「この歳になって、こんなに自然に振り回されるとは思ってもいなかった。人間の力は弱いものです」としみじみ語っていた。

　Kさんの車の掃除は徹底していて隅々までピカピカにする。私のように15分ぐらいで済ますぞんざい派から見ると驚嘆以外の何物でもない。車掃除をしているKさんに9時過ぎに挨拶をして出かけて昼近くに戻って来ても車を磨いているということはよくあった。

　話をしながら掃除ぶりを観察していたが「スゴイ！そんなところまでふくんだ！」と思うことがしばしばあった。「見習ったら」と妻に言われたこともあったが、到底無理である。きれいさへのこだわりも能力の１つだ。と自分のずぼらさを正当化して開き直るしかない。

　仕上げに入っていたが、晴れていた空に雲がどんどん増えてきて天気の方が怪しくなってきた。洗車の後すぐに雨に降られることほど嫌なことはない。「本当にこの頃の天気はあてにならない」とぼやきながら90％の状態で、急いで片づけをして車庫に入れた。「中途半端に終わるのいやでしょう」と言ううと苦笑いをしていた。私は洗濯物を急いで中に入れた。

　夕方まで2時間単位で晴れたり、降ったりの繰り返し、Kさんは車を、私は洗濯物を出したり入れたりと落ち着かない半日となった。もう少し安定してくれないと計画が立てづらい。縦の筋状に押し寄せる雨雲が曲者である。