素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

小説「プリンセス・トヨトミ」読み終わる

2011年06月04日 | 日記
 映画の物足りなさがなんであったか原作を読んで納得した。映画のキャッチフレーズは《大阪全停止。その鍵を握るのはトヨトミの末裔だった。》とある。そして、文庫本の裏表紙にある《このことは誰も知らない・・・四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女だった。秘密の扉が開くとき、大阪が全停止をする!?万城目ワールド真骨頂、驚天動地のエンターテイメント、ついに始動。》という感じで宣伝が展開されている。原作を読まず、事前の情報をできるだけシャットアウトしようとした私でも垣間見る情報から“スペクタルなハラハラドキドキする映画である”というイメージを持ってしまう。

 しかし、原作を読むとわかるのだが、場面設定とかは奇想天外ではあるが、そこで語られていることは重みのある深いテーマである。娯楽的な部分と深遠なテーマががっしりとした骨組みの中でうまく調和して物語がつくられている。

 映画ではこの2つの部分のウェイトのかけ方に徹し切れないものがあり、総じて中途半端、気の抜けたビールのようなものになってしまったように思える。少なくとも1時間ぐらい上映時間を長くするぐらいの覚悟で、人物像や過程をていねいに描かないと原作のように心に迫る作品とはならないだろう。予算とかの関係でむずかしいのかも知れない。

 原作を読んでいる人は、映画は別物という割り切り方ができなければ観ないほうが良い。原作を読んでいない人は、映画を観てから原作を読むと2.5倍楽しめる。

 ここ2年間で、大阪環状線に沿って1周したり、8つの渡し船を巡ったり、大阪天満宮から住吉大社までの熊野街道や北浜界隈のレトロなビル巡りなど大阪市内はよく歩いた。市内は南北にはしる四ツ橋筋、御堂筋、堺筋、松屋町筋、谷町筋、上町筋などを中心に考えてしまうので東西にはしる通りは抜けるところが出てくる。曽根崎通、土佐堀通、本町通、長堀通、千日前通はよく歩くが、長堀通と千日前通の間にあり上町筋から谷町筋をはさみ松屋街筋までの空堀通商店街はすっぽり抜けていた。本を読んでいると舞台になっているいろいろな場所が実際に思い浮かべることができ、違う楽しみ方もできたが、肝心のこの商店街だけが空白であるというのが残念なことだった。

 最後に、本の中で心に残ったフレーズを

●「世の中でいちばん難しいことって何やと思う?」「ずっと、正直な自分であることや」

●「うまく言われへんけど・・・そうじゃないねん。僕には何となくわかる。ある日、何もかもがガラッと変わって、すべてうまくいくなんてこと、世の中では絶対にない。どんなものでも少しずつ、ちょっとずつ変わっていくもんやと思う。せやから・・・・」
 「そら、大輔の言うとおり、少しずつしか、物事は進まんかもしれん。でも大輔一人やったら、その少しも進まんのやで。みんなが大輔を助けるから、進んでいけるんやろ。負けた? アンタだけの勝負ってこと? 私だって、怖い思いして、いっしょに戦ってんやで。おっちゃんもおばちゃんも、きっとまわりにいろいろ言われてるやろうけど、知らんとこでアンタのために戦ってんねんで。何でもかんでも一人でできるなんて、思いあがりなッ」

●どれほど弁が立とうと、知識があろうと、ウソをついている人間は所詮弱い。世の中で最も強いのは、正直に行動する人間である。

●「目に見える成果は何もない。何かの役に立つこともない。我々のしていることは、会計検査院には、どこまでも無駄遣いにしか映らないかもしれない。会計検査院が我々の存在を認めなかったとき、大阪国は滅びる。補助金だけではない。戸籍データや住民情報、都市開発計画・・・行政の協力を欠いて、我々が存続することは不可能だ。かつてそれらの機能はすべて、大阪国で司っていたものだった。今さらすべてを切り離し、一から始めることはできない。それはあなたも承知のはずだ」
 「壊すのはとても簡単だ。だが、一度壊したら、二度と元に戻すことはできない」
コメント
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