「バブルー、大丈夫か?見てみろ。水、ビスケット、食器、ブランケットを買ってきたよ」
バブルーは私が渡したバックの中身を興味深く点検するように一つひとつ品を取り出しては見ていた。
「バブルー、医者は来た?八時に血液検査があるって、シスターに聞いて来たんだけど」
「誰も来ていない」
「そうか、それじゃ、ちょっと聞いてくるか」
やはり時間通りには何も行われないと思いながら、疲れた肩をまた落しては、夜の八時に病院に現れた私にバブルーの周りの患者たちも気になっているようだったので心を整えて、バブルーのことを説明し挨拶をしてから、私とマリアはナースのいるところに向かった。
一人のナースにバブルーの医師のことを聞くと、今はオペ中だと言うことで話をすぐに切られてしまった。
いつ終わるのかと聞いても、分かりませんと答えるだけで忙しそうにし、私たちとは目を合わせようとはしなかった。
近くを若い医師が通り、聞いてみると、私は彼の担当ではないから、何も分からないと言うことだった。
初めから分かっていたことだが、向こうから言われた時間だろうが時間通りにこの病院では何も進んでいない、時計がないのと同じである、そう思わざるを得ないほどの経験をずっとしてきたのだ。
だが、まだ若いマリアはシスターから言われたことをしっかりとしなくてはならないと思う正義感から苦しんでいるのが色濃く分かった。
「どうする?マリア」
「・・・、オペ室に行って聞いてみよう」
「そうか」
とだけ答え、彼女についていった。
しかし、やはりここでも同じことだった。
私は確信していた、今夜はシスターから言われたバブルーの血液検査のことは何にも進まないと言うことを。
そして、今マリアが感じているだろう身体の疲れを除いた苦悩だけは、私が引き受けると言うことを、明日になり今夜のことをシスターに話すのは私の役目であり、マリアには何の責任もないように計らうことを心に決めていた。
私は怒られるのは慣れている、いや、しかし、シスターライオニータは感情にのまれ怒りを起こすようなシスターではないことも分かっていた。
私たちは常に心しなくてはならないことがある、それは私が好きなラインホルト・ニーバーの祈りの中に深く見出すことが出来る。
「神よ、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を与えたまえ。}
私たちには出来ることと出来ないことがあり、またそれを見極める勇気と冷静さが必要である、と同時にそれは諦めではないことを含み、マザーの思いを重ねるのであれば、出来るものは私たちのうちの最良のことを出来るように切に願い、ひたすらに行いをすると言うことである。
私はこの夜のバブルーの血液検査は無理であると結論付けた、そして、それは何よりもまず命に関わる問題ではなく、ここは病院であるし、バブルーは少しおかしな顔はしているがメンタルな患者ではない、必要であれば、彼がどうにかするだろうと考えたのである。
何かあれば、マザーハウスのシスターライオニータに連絡が行くのである。
私たちは今夜とりあえずバブルーの入院に必要な物を持ってきただけで、それだけで十分であった。
私は未だ笑顔を見せぬ疲れきり困惑した顔のマリアにそう言い聞かせた。
{つづく}