モーニング娘。に10年以上在籍していながら一度もシングルのセンターには抜擢される事はなく、常に名脇役としてグループを支えてきた人がいる。新垣里沙さん。あだ名は「ガキさん」。
武道館コンサートが迫ってきたある日、ガキさんヲタのある疑問に対してつんくPがこう答えた。
「みんなが主役だよ」
常に真ん中ではなく横や後ろからグループを支えてきたガキさんを送る公演は「ガキさんによるガキさんのための」コンサートではなく、「ガキさんを囲むみんな」のコンサートになった。
おそらく9期や10期はガキさん卒業であるこの武道館コンサートをいつも以上に楽しく、いつも以上に盛り上げていきたい、そんな想いを胸にしっかり刻んでステージに立ったのだろう。緊張は伝わってきても、感傷や気負いは感じられない。ガキさんもそういうコンサートにしたい筈だから、みんなの気持ちを大きなステージに乗せているのが二階席まで届いてくる。
名脇役だった人がリーダーになったからこそ新人達が前に出てきやすくなり、TVにも出てもよく喋られる新人達に育った。そんな新人達が心から楽しそうに歌い踊っている。約半年というリーダー期間は短かったけれど、短かったからこそ新人達が濃い時間共有が出来たのかもしれない。
新人達に良い環境作りをしてきたのは伝わるステージが進行していき、いよいよ卒業セレモニーの時間がやってきた。ガキさんが手紙を読み始める。メンバー一人一人へのメッセージ。スタッフ、つんくPへの感謝の気持ち、そして支えてくれた家族、いつも応援してくれたばばちゃんへのお礼。きっとどこかで今日も観ていると、私はアリーナ最前列の前にある撮影用の空間に目をやった。
そしてガキさんはファンへの感謝の気持ちを語り始めた。今まで観てきた卒業セレモニーでも、各卒業メンバーは勿論ファンへの感謝の気持ちを読み上げてきた。しかし、ガキさんのファンへのメッセージは長いものだった。
ガキさんはファンクラブに入っていたほどモーニング娘。が大好きだった人。客席からの視線をちゃんとよくわかっている人。
ガキさんが卒業セレモニーで歌う曲として選んだのは、ガキさんがモーニング娘。に加入する前に発売されていた曲。つまり、ファン時代にも慣れ親しんだ曲。それは「Never Forget」。
星はどんな場所から見ても同じ輝きを放っている。ガキさんのモーニング娘。での生き方そのものではないか。私は素敵な選曲に目頭が熱くなる。
それでもステージはあくまで湿っぽくならずに明るく楽しく激しく。ラストナンバーは「涙ッチ」。ガキさんが一番カッコよく輝く曲だ。
他のメンバーが下がりステージにはガキさんだけとなった。それでもガキさんは普段通りに、いつもと同じ問いかけを客席に投げる。
「楽しかった人?」
「はーい」
客席の応答は今までのどの公演のものより大音量だった。それは心から楽しんだ者達が心からの想いで叫んだ声だ。
コンサートはあくまで明るく楽しく。ガキさんは最後まで特別ではなくガキさんであり続け、ステージから手を振り続けた。
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なら、まだ、救われる。
他人事だか、見ていて辛かった。